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今からでもエネルギー消費量“ゼロ”のビルは作れる

2017年9月20日

 新築ビルの新たなスタンダードとして、政府は「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」を2030年までに普及することを目指しています。ZEBとは、石炭・石油・天然ガス・水力・原子力など一次エネルギーの消費量を、建物全体で限りなくゼロに近づける建築物のことです。

 ZEBの基本的な仕組みとメリットについては前回詳しく紹介しましたが、とはいえ、ビルという大きな建造物のエネルギー消費量を“実質ゼロ”にするのは、簡単ではないことが予想されます。

 ZEBでは、どのように一次エネルギーの消費量をゼロに近づけるのでしょうか。今回は、ZEBを構築するプロセスを解説します。

ZEBを名乗るために必要な「3つの工夫」

 ZEBを実現するためには、一次エネルギーの消費量を削減する「省エネ」と、再生可能エネルギーを活用して発電を行う「創エネ」があります。この省エネと創エネによって、年間の一次エネルギーの消費量を正味でゼロにすることが、ZEBの条件になります。

 この省エネと創エネを両立するためには、「建物の工夫」「設計の工夫」「制御システムの工夫」という3つの観点が重要になります。「建物の工夫」では、自然の光や熱を上手に制御しながら、建物自体を省エネ設計とし、「設備の工夫」では、高効率設備機器や太陽光発電などを活用して、省エネだけでなく効率の良い創エネを行います。竣工後は、省エネ・創エネの運用を見守るための「制御システムの導入」も進めます。

 こうした取り組みを通じて条件を満たすことで、初めて「ウチのビルはZEBである!」と名乗れるというわけです。

「建物の工夫」で自然の力を活用する

 まず「建物の工夫」では、自然の光や熱を活用し、省エネをしながら快適な室内環境をつくりだす環境配慮型の設計手法が求められます。つまり、照明や空調に、電気を極力使わないよう、ビル全体を設計します。

 具体的には、建物の配置を、周辺環境や気象条件に適合するように検討します。自然光を活用する場合は、日射の角度や強度を計算し、季節の変化にも対応できるように工夫します。

 次に、太陽光による熱の負荷を抑制し、その影響を制御する方法を探ります。高性能断熱材や高断熱窓の導入、窓への日差しをさえぎる庇(ひさし)やブラインドの設置によって、空調の消費電力を抑えるといった方法などがあります。

 これに加えて、自然の力も活用します。照明の観点からは、建物の向きや窓の配置などを工夫することで、太陽光を効果的に建物内へ採り入れること、空調の観点からは、冷房負荷を低減するために、自然通風の利用を進める設計をします。

「建物の工夫」で照明と空調を省エネ化

 「建物の工夫」が終わったら、次が「設備の工夫」のフェーズとなります。ここでいう「設備」とは、主に照明機器と空調機器のことを指します。

 オフィスビルで消費される一次エネルギーの消費量のうち、空調が全体の約60%、照明が約30%と大半を占めています。そのため、ZEBを目指すためには、この2つについて高効率的な設備機器の導入を検討することが欠かせません。

 空調機器では、高効率な装置を導入することが一番の対策となります。1つの熱源機で建物全体を管理する中央式空調を使用しているビルの場合、熱源機や冷却塔、ポンプ、空調機といった機器に高効率のものを採用し、消費エネルギーの削減に取り組みます。一方、フロアや室内ごとに個別空調を行っているビルの場合、高効率のパッケージ形空調機を導入します。

 照明機器では、まだ蛍光灯を使用している場合には、LEDに変更するだけでかなりの効果が見込めます。

 空調や照明以外にも、エレベーターやエスカレーターなどの昇降機、給湯といった設備も多くの一次エネルギーを消費します。これらにも高効率な設備機器の導入を検討することも大切です。

限られた屋上スペースで効率良く創エネする方法

 「設備の工夫」として導入を検討するべきものは、省エネ機器だけではありません。創エネに欠かせない太陽光発電の導入も必須となります。

 太陽光発電でおさえておきたいのは、作り出せるエネルギーの量が太陽電池(モジュール)の大きさや枚数に比例するということです。これは、発電量が設置場所の面積に左右されるということを意味します。

 オフィスビルの場合、屋上に太陽光発電の設備を設置するのが一般的です。屋上のスペースは限られているため、発電量を増やすためには生産効率の高い設備を導入することが有効です。近年では太陽電池を傾斜させて設置することで、敷地面積あたりの発電量を大幅に向上させた工法なども登場しています。

 太陽光発電以外には、太陽熱や地中熱といった建物周辺の再生可能エネルギーを冷房や暖房、あるいは給湯などの熱源として活用するといった方法もあります。

省エネ・創エネ設備をコントロールするBEMSの役割とは

 これら高効率な設備機器も、刻々と変化する建物の負荷や利用状況に応じて使っていかなければ、効果的な省エネはできません。そのためには、設備を効率的に運用するための「制御システムの導入」が必要です。

 たとえば、日差しの強い時間に室内が明るくなりすぎていたり、誰も使っていないスペースの照明がついたりすれば、エネルギーの無駄が発生していることになります。こうしたケースを防ぐために、明るさセンサーや人感センサーなど、照明を自動制御する技術を組み合わせることで、無駄をなくすことができます。

 ZEBで省エネに向けたPDCAを回していくにためには、こうした各設備単位での制御だけでなく、建物全体を最適化するための制御技術も重要になります。そこで必要になるのがBEMS(Building Energy Management System)です。

 BEMSは、建物に設置された設備や機器の運転状況、消費・清算するエネルギー量を把握し、効率よく制御するシステムです。過去データと比較しながら計画を立てたり、空調機や照明を遠隔操作または自動で制御することで、効率的なエネルギー管理が行えます。近年はコストの抑えられたクラウド型のBEMSも登場し、導入がしやすくなっています。

今からでもZEBは作れる

 ZEBに取り組むことは簡単なことではありません。しかし、近年はクラウド型BEMSや太陽光発電の新工法など、それを支える新たな技術が次々と誕生しています。できるところからスタートするだけでも、ZEBに近づくことができます。

 「正味で100%以上の省エネルギー」を達成すれば、ZEBとなりますが、正味50%以上の省エネルギーでも、ZEBの定義の1つである「ZEB Ready」の条件をクリアしたことになります。75%以上であれば、「Nearly ZEB」となります。つまり、最初から100%を達成する必要はなく、徐々に100%を目指していくことも可能なのです。

 今あるビルを設計段階から見直すことは難しいかもしれませんが、省エネ・創エネ機器を導入したり、BEMSを導入するだけでもZEBは目指せます。実現可能なところから、第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

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