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平成の名経営者の1人として知られ、業績面はもちろん、「NO残業デー」「リフレッシュ休暇」といった先進的な制度の導入でも話題を集めた吉越氏。社長退任後は講演や著作に大活躍されている。グローバルな視点でユーモアを交えながら、経営論から日本人の働き方、そして人生論まで多彩に語ってくださった。

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2006年に社長を退任された吉越さん。早すぎる退任だという声が多かったようですが? |

以前から、「60歳になったら社長を辞める」と公言していましたから、それを実行したまでです。いつまでも会社にしがみつくのは会社にとって良くないし、私自身の人生にとってもマイナスです。
「荷下ろし現象」といって、会社を辞めて何もすることがなくなると、心身がおかしくなる人がいますね。それが恐いから会社にしがみつくのでしょう。特に社長ともなれば、秘書がいて、社用車があって、交際費も使えるわけですから、そういうものを離したくなくて地位を守ろうとする。しかし、それは会社の経営にとって好ましくありません。ある程度の実績を残したなら、トップは後進に道を譲るべきだと思います。
私だって、社長の時に退任後の明確なビジョンがあったわけではありません。ただ空虚な気持ちにならぬよう、適度な緊張感を感じる必要があると思い、講演や執筆活動を始めました。これが予想以上に好評で次々に依頼が舞い込むようになり、おかげで「荷下ろし現象」の心配はなくなりました。でも、お金を稼ぐために働いているのではないから仕事が増えすぎても困る。そこで、少しでも仕事を減らそうと思って、僭越ながら講演料を値上げさせていただきました(笑)。
会社を辞めた後の人生では家庭が大事です。会社にいる間に、仕事に入り込みすぎて家庭を顧みない人が多いですね。家に帰ったら寝るだけで、朝も早く出て行ってしまう。何から何まで仕事がベースの人生。そういう人が会社を辞めると、どうしていいかわからなくなってしまいます。「退職後のために趣味を持て」などといいますが、家庭がしっかりしていれば、趣味など持たなくても大丈夫。家庭がちゃんとしていないから、趣味に走るしかないのです。それは寂しい人生だと思います。だから、私は、会社にいる時から家庭を大事にしてきたし、今も妻と一緒にいることが多いんです。
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トリンプでは19年連続増収増益の偉業を達成されました。その秘密はどこにあったのですか? |

自分が正しいと信じたことは、途中であきらめずに最後まで徹底したこと。それに情報を共有化して仲間を巻き込んでいったことだと思います。日本の会社では、何か新しいことを始めようとすると、必ず反発が起きます。そうした障害をどれだけ小さくできるかが、経営のスピードアップの鍵になります。そのために重要なのが情報の共有化です。社員がより高いレベルで情報を共有して、お互いが同じ理解に立てば、自ずと結論は同じになるはずです。全社で一致団結して物事に向かっていく雰囲気も生まれます。
これが実際にはなかなか難しいのです。会社の中で常識とされていることでさえ、違った考えを持つ人が必ずいます。たとえば、黒いサイフを見て、「何色ですか?」と聞けばほとんどの人が「黒」と答えます。しかし、それでも中には「黒ではない。ピンクだ」と主張する人が必ずいて、それに同調する者も出てくるのです。そうなると、全員が同じ方向に向かっていくことは難しくなります。新しい情報や全社及び各部門にとっての重要情報はもちろん、大多数が会社の常識だと思っていることについても、同じ理解が持てるように日頃から情報の共有化を徹底しておかねばなりません。
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トリンプでは情報の共有化のために、会議を有効に利用したとうかがっています。どんな会議だったのでしょう? |

トリンプでは、毎朝部長以上が全員出席する早朝会議を開き、1時間か1時間半程度の間で、40から50もの議題のすべてに結論を出していました。どうしてそんなことが可能だったかというと、それぞれの議題の担当者に結論を持ってこさせていたからです。「これは君の部門の問題だね。すでに手を打ち始めているのか?」と聞いて、「いや。まだです」と答えたら、「それでは明日の朝までにどう対処するか結論を持ってきなさい」と指示をします。それが無理ならその翌朝の会議までに必ず持ってこさせる。そうやって、「いつまでに」というデッドラインを設け、「誰が」、「何を」、ということを明確にして、担当者が持ってきた答えを会議にかければ、短時間で正しい結論を導くことができます。
会議を有効に使っている会社は、日本にはほとんどないように見えます。いざトリンプのような会議を始めても、最初にうまくいかなくて、そこでやめてしまう会社が多いようです。どこの会社でも最初に行き当たるのは根が深い問題。その根をいきなり断ち切ろうとするから無理がある。まずは細く削ってから切ること。それには時間がかかります。しかし、そこさえ切り抜けてしまえば、あとは根が浅い問題だけになります。そうすると、簡単にスパスパと切れるようになります。最初のうちは「1か月かかります」と平気で言っていた担当者が、「明日までに頼むよ」と指示してもけっして文句が出なくなります。最もいけないのは問題を放置しておくこと。問題はどんどん肥大化しますから、早く潰すことが大切です。
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目の前の問題に適切に対処するためのコツはありますか? |

ロジカルに考えることです。問題への対応は3つの段階に分かれます。まずは「緊急対策」。火が出た場合には、まずそれをどう消すかを考える。続いて「再発防止」。原因を究明して二度と火が出ないようにする。さらに、同じ原因で他の事務所や工場から火を出さないように「横の展開」を考える。そのように段階を踏んで対応することが、早期解決につながります。ロジカルな考え方をすれば、会議が効率的になって、成果が上がるようになります。感情で話し合っても、まともな結論など出るはずがありません。論理的な思考こそが、問題解決の近道なのです。
日本人は、一般にロジカルな考え方が苦手ですね。私も以前は感情的に社員を叱ったりもしましたが、それではダメだと気づきました。実は、私がロジカルな考え方を身につけたのは、フランス人の妻のおかげなんです。「今日のお昼は何が食べたい」と聞かれて「そば」と答えるだけでは妻は認めてくれません。「昨夜は焼肉を食べたから、今日は軽めにしたい。だからそばがいい」というように論理的に答えないといけない。そうやって鍛えられました。もっとも、最近は妻もだいぶ日本的になってきて、「そばが食べたい」と答えるだけで許してもらえるようになりましたが(笑)。
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増収増益を続ける間にも、社長として厳しい局面を迎えたことがあるのではないでしょうか? |

最大の危機は、メインのチャネルである百貨店やスーパー、専門店などの売上げが落ちた時期です。それに伴って私たちの会社の売上げも落ちてきました。中国から安くて良い製品が入ってきて、価格帯が下がるという状況もありました。そこで私は、直営店をつくることを決意しました。外資系企業ということもあって、過去にそうしたノウハウはありませんでしたから、ゼロからつくり上げていきました。スピードが要求される仕事だけに何店舗か完成するまでは、オーナーにも見せませんでした。初めて見たオーナーは「これがお前の退職金だな」と言いました(笑)。しかし、結果は大正解で、もしも出店を決断しなかったら、増収増益が続いたかどうか疑問です。
現在の変化の激しい環境においては、変化に対応して戦略を練り、決断し、行動できるスピーディーな経営が必要です。1つの成功パターンができると、それにしがみついて身動きがとれなくなる企業がたくさんあります。変化に対応できない会社は、これからは生き残れません。
スピーディーに行動したからといって、最初から何もかもがうまくいくとは限りません。初めは我慢が必要なこともあるでしょう。しかし、「売上げはすべてを癒す」というように、一度成果が上がればすべてがうまく回りだします。そこにたどり着くまで、どう舵をとるかが経営者の手腕なのです。
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