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※1●オシレーター
発信器、振動機。 音楽(音そのもの)の源となる空気振動の波形ををつくる装置のこと。波形には矩形波(Square)、ノコギリ波(Saw tooth)、サイン波(Sine)、三角波(Triangle)などがある。

※2●ビブラート
音を細かく揺らして、メロディに豊かな表情を付ける奏法のこと。

※3●ポルタメント
高さの違う音と音を滑らかにつなぐ奏法のこと。

※4●倍音
空気が一秒間に振動する回数は「周波数」と呼ばれ、Hz(ヘルツ)という単位で表される。そのうち人間が音として認識できるのは、一般に20Hz〜20,000Hzとされている。音程Nの整数倍の周波数を持つ音程を、Nの「倍音」と呼ぶ。自然界に存在する音は必ず倍音を含んでいる。倍音の違いがそのまま音色の違いとなってくる。例えば、同じ音程を演奏しても、バイオリンとクラリネットでは明らかに音色が違うのは、バイオリンが各倍音を比較的均等に含んでいるのに対し、クラリネットは元となる「基音」の偶数倍(2、4、8...)の周波数を持つ倍音をあまり含んでいないからである。

 

※5●三極真空管 二極真空管
(抵抗、コンデンサなど)の陰極(フィラメント)と陽極(金属板プレート)のあいだに、第三の極(グリッド)をいれたもの。電気の整流、増幅などを行う。アメリカのド=フォーレによって、1906年開発される。

※6●メシアン Olivier Messiaen
 (1908〜92年)フランスの作曲家。アヴィニョン生まれ。現代フランス音楽の重鎮とされる。1946〜1948年作曲の代表作『トゥンガリラ交響曲』ではロマン主義美学(19世紀フランスで展開された、感情・空想などを重んじる思想の一つ)の復興を目指した。1971年のエラスムス賞をはじめ国際的にも数々の賞を受けており、1985年には京都賞(京セラ創業者・稲盛和夫により1984年に設立される)も受賞。

※7●トランジスタ
ゲルマニウム・ケイ素などの半導体を用いて、真空管と同じ様な増幅作用を行う。エミッタ、コレクタ、ベースといった三端子を持ち、極めて小型で必要電力も小さい。

※8●映画やテレビCMのBGM
オンド・マルトノ奏者、原田節氏は数々のCM音楽を手掛けている。主な作品として「ネスカフェ・ゴールドブレンド」「雪国まいたけ」「富士通」「サントリー」などある。また映画でも「ライジング・サン」「D坂の殺人事件」などで演奏している。

われわれ人間は、長い歴史の中でさまざまな「モノ」を創造し、世に誕生せしめました。その一方で、その優れた技術を披露する機会もないまま消えてしまったり、人知れずひっそりと灯火を燃やし続ける「モノ」たち・・・。古今東西の中からそんな「幻の名品・珍品」を探しだし、今あらためてその魅力に迫ります。


 
 

 

異なる周波数がつくるアコースティックな音色

日本ではほとんど知られていないが・・・

癒しを超えた「快感」が魅力

 

 異なる周波数がつくるアコースティックな音色

 その形状はオルガンのようだが、音響の発信源を見れば弦楽器であるとわかる。その音色はバイオリンやフルートのようであり、また、今流行のシンセサイザーのようでもあるが、やはりどこか異なる。
 オンド・マルトノ。聞き慣れぬ名だが、今からおよそ80年前に発明されたれっきとした電子楽器である。
 楽器の名は、フランス語で電波を意味するオンドと、生みの親であるモリス・マルトノ(Maurice Martenot/1898〜1980年)に由来する。
 2つの周波数の差を読みとって音程や音量を定めるこの楽器は、オルガン状のボディ、銅鑼がはめ込まれた2つのスピーカー、さらに表裏に計24本の弦を張ったネギボウズ型のオシレーター(※1)(振動機)からなる。
 演奏者は、ボディに張られた1本の弦を操作する。弦を通した指サックに指を差し入れ、キーボード(鍵盤)で音階の位置を確かめながら左右に移動させる。指の動きによって、ビブラート(※2)やポルタメント(※3)などもかけられる。
 ボディから発せられる高周波の電気振動が別のオシレーターに伝わり、周波数の異なる2つの音がさらに銅鑼を震わせる。それらの共鳴音が渾然一体となってスピーカーで拡張され、神秘的な音の世界を作り上げてゆく。人間がコントロールしているようでありながら、人間が認知し得ない高周波の倍音(※4)が、まったく自然な音色となってアコースティックの楽器と同じような響きを放つのだ。

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 日本ではほとんど知られていないが・・・

 

 フランスの電子技師だったM・マルトノは、第一次大戦中通信兵としてフランス政府に雇われた。三極真空管(※5)から発信される音にヒントを得てこの楽器を考案した。
 1928年5月、オンド・マルトノを使った初の演奏会がパリのオペラ座で開かれ、センセーションを巻き起こす。以来、フランス系の作曲家がこの楽器のために多数の作品を書き、メシアン(※6)作曲の「トゥンガリラ交響曲」といったベストセラーも生まれている。
 演奏のしやすさ、表現の幅、運びやすさなどの改良努力によって、オンド・マルトノはオーケストラばかりでなく、シャンソンやジャズ、ロックなどの分野でも人々を魅了してきた。しかし機能上の大きな変化は1975年にトランジスタ(※7)化されたタイプが発表されたくらいで、機械的に発達した他の電子楽器のように世界に広まることはなかった。
 その事情は日本においても同じである。M・マルトノは1931年にすぐれた奏者である妹のジネットらとともに来日公演を果たしているが、文化的土壌の違いもあって愛好家の輪は広まらなかった。1950年代にNHKや音楽大学などがフランスから輸入し、国内には数十台あまりが存在すると言われている。楽器の数も演奏者の数も少ない。著名な音楽家ですらオンド・マルトノの存在を知らない人は多い。ただ、オンド・マルトノの音色は、映画やテレビCMのBGM(※8)に乗って日常的にわれわれの耳に入っている。何げなく聞いて、癒されている人がいるかもしれない。

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 癒しを超えた「快感」が魅力

 

 オンド・マルトノの制作には、最新のデジタル技術をもっても到達し得ない高いレベルの職人の腕と手間が必要であり、電子回路を単純に分析しただけでは、レプリカ(複製)は制作できない。「電子楽器の多くは、どちらかというと、科学者たちがこれは機械だという感覚で作っています。しかしオンド・マルトノには、あくまでも人間が演奏する楽器だというポリシーが貫かれています。制作者の人格の中に、音楽家と科学者の二つの要素が融合していないと作るのが難しいんですね」
 日本におけるオンド・マルトノ演奏の第一人者である原田節氏は、普及をはばんでいる一因をそう語る。「楽器そのものがすでに芸術品である」と語ったM・マルトノ自身、電子技師であると同時に、オーケストラのチェリスト・指揮者として活躍した音楽家でもあった。オンド・マルトノは音楽に対する深い理解なしには生まれ得ないアートの産物なのである。
 昨今は、キーボードのシンセサイザーが電子楽器の代名詞のように語られている。電子楽器の概念はもっと幅広いものだが、市場原理のために、量産できない楽器は淘汰されるという悲しい20世紀の歴史があった。その中にあって、オンド・マルトノは、目立たぬながらも80年あまりの命脈を保ってきた。
「オンド・マルトノは、私たちが知っている新しい楽器とはコントロールの仕方も発音の仕方もまったく違う発想で生き残ってきました。面白くて、個性豊かな唯一無二な楽器。この魅力を後世に伝えていきたいと思ってます」。
 原田氏はオンド・マルトノの魅力を「癒しを超えた『快感』にある」と表現する。幸いにも、国内ではアマチュアでも楽しめる試作品の制作が始まっている。幻想的とも神秘的ともつかぬ不可思議な音色。今世紀、オンド・マルトノはそれが放つ共鳴音で日本の人々の心を魅了し、復活を果たしつつある。

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