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CDプレーヤー用モーター「省スペース・省電力への挑戦」

 

あらゆる電気機器を陰で支えるモーター

高精度・低騒音が要求されるCDプレーヤー用モーターの構造

モーター開発に付きまとう最初の難関〃軸の直角度〃

省電力への対応。少ない電気で強いトルク(回転力)を!

 

あらゆる電気機器を陰で支えるモーター

 

 電気的エネルギーを機械的エネルギーに変える変換装置、モーター。昔はプラモデルやラジコンなどを通じて随分楽しませてもらったものだが、今はモーターをいじって遊ぶ子供たちをあまり見かけなくなった。
 では、モーターは世の中から消えてなくなったのか? 無論、そんなことはない。音響・映像、情報通信、自動車電装、OA、家電、工具に玩具と、決して表に出て自己主張はしないが、ありとあらゆる電気機器の陰でフル稼働しており、これなくして我々の生活は二進も三進もいかないのが現状である。
 一口にモーターと言ってもさまざまな種類があり、例えば、高級車一台にはおよそ100個が装備されているという。モーターは、用途に応じて多彩な使い分けがなされているわけだが、丁寧に解説しようと思えば、それこそ時間や紙数がいくらあっても足りない。そこで今回は、この業界の草分けであるマブチモーター(株)(※1)の協力を得て、ポータブルCDプレーヤーに使われているモーターに焦点を当ててみることにした。

※1 マブチモーター(株)
 小型モーター部門で世界ナンバーワンのシェア(50%超)を誇る、国内トップのモーターメーカー。現名誉会長の馬渕健一氏が、前身である関西理科研究所を発展的に解消して1954年に創立。当初は、模型や玩具用を主力商品としてスタートしたが、現在は音響映像機器や自動車電装機器をはじめ、多方面に裾野が広がっている。本社は千葉県松戸市にあり、従業員は約1000名(グループ全体では約5万6000名)。欧米やアジアなどの海外に12の営業・生産拠点をもつ。

 

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高精度・低騒音が要求されるCDプレーヤー用モーターの構造

 

 「音響機器に使われるモーターには、高精度・低騒音が常に要求される」。このように言うのは、20年近くにわたってモーターに関わってきた同社製品開発室の板谷英樹氏である。モーターの駆動音が気になったり、振動で音跳びなどが起きたのでは商品にならない。こうした弊害を取り除くための高度な設計や技術が不可欠というわけだ。

 技術部 製品開発室 
 製品開発課
 板谷秀樹 副主任


 現在市場に出回っているごく一般的なポータブルCDプレーヤーには、二種類の直流モーター(※2)が使われている。すなわち、ディスクを回転させるためのスピンドルモーターと、ヘッドを駆動させるためのピック送りモーター(※3)である。
 この二つは外見こそ違うものの、基本構造は同じと考えて差し支えない。図に示したように、中にマグネット(永久磁石)がセットされた「ハウジング」(軸受けやマグネットを組み込んだ鉄板のケース)、コア(鉄芯)にコイルを巻き、ここに電気を流すことで回転する「ローター」(回転子または電機子と呼ばれる電磁石)、ローターのコイルに電気を供給するためのブラシがついた「エンドベル」(蓋に当たる樹脂や鉄板のケース)。大ざっぱに言えば、モーターはこれら三つのパーツの組み合わせなのである。
 音響機器は、記録回転体(レコード、テープ、CD、MD)の変容に合わせて、デスクトップ型から、どこでも自由に持ち運べるポータブル型へと進化してきた。その意味からすれば、モーター開発の歴史は、小型・軽量化(薄型化)への対応の歴史であったといっても過言ではない。

※2 直流(DC)モーター
 モーターは直流電源(電流の方向が一定)で回るDCモーターと、交流電源(電流の方向が周期的に変わる)で回るACモーターに大別できる。DCモーターの最大の特徴は、停止してから動き出そうとする瞬間に最大のトルクを発揮する点にある。起動・停止・回転数などの変動を余儀なくされるCDプレーヤーの場合、起動性に優れた直流モーターはうってつけである。これに対して、ACモーターは商用交流電源を用いるため、回転数を無段階に変えることができない反面、産業用モーターや冷蔵庫や洗濯機に代表されるように一定速で長時間回しておくのに適している。最近は、回路で交流周波数を変え、DCモーターのように回転数を無段階にコントロールできるインバーターモーターも多く使われるようになってきた。その意味では大型モーターにおいてDC/ACモーターの明確な棲み分けはなくなってきたと言える。


※3 ピック送りモーター
 ピック送りモーターには、インクリメンタル動作といって、アナログ式クォーツ時計の秒針のように、チッチッチッと動いては止め、動いては止めるという働きがある。ポータブルCDプレーヤーに使われている水平に組み込まれるピック送りモーターは、円筒の両側を押し潰したような、どちらかといえば直方体に近い形状をしている。しかし、これが省スペース(薄型)化に貢献していることは言うまでもない。

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モーター開発に付きまとう最初の難関〃軸の直角度〃

 

 とはいえ、モーターのダウンサイジングは素人が考えるほど容易なことではない。例えばスピンドルモーターは、薄型化すればするほど、モーターの軸を直角に立てる(直角度を得る)ことが難しくなってくる。同社が初めてCDプレーヤーに用いたモーターは、元々別の用途で開発したモーターであったため、この点を配慮した設計にはなっていなかった。このため、メカの規格に合わず、一時期、商品化は無理という窮地にまで追い込まれたという。
 この時、苦肉の策として取られたのが一枚の円盤(真鍮板)を接着剤で固定して軸の直角度を出す方法だったが、円盤のコストと取り付け作業にかかったコストは、モーター本体のそれよりはるかに高くつき、社内からは、「何をつくっているのか」と非難の声も上がった。しかし、その後の試行錯誤で円盤のいらない低コストのものが開発され、その直後から同社のスピンドルモーターは爆発的なヒット商品になったという経緯がある。
 このように、モーターのダウンサイジングは、軸の直角度を念頭に入れた設計はもちろん、プレス部品の精度や、複数の部品の中心点を一直線上に並べるといった高度な組み立て技術なくして実現しえなかったことである。

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省電力への対応。少ない電気で強いトルク(回転力)を!

 

 高精度化や低コスト化は、新規格のモーターをつくる際に絶えず付きまとう難題であるが、もう一つ忘れてならないのが省電力への対応である。「CDプレーヤーなどに使われる直流モーターは、電磁石と永久磁石との間にできる磁力の引き合う力や反発する力によって回ります。強いトルク(回転力)を出すには、マグネットか電磁石のいずれかを強くする必要がありますが、後者を強くすればより多くの電力を消費してしまいます」(板谷氏)。
 そこで同社は、コイルに流れる電気を抑える磁気回路の設計や、安価で磁力の強いマグネットを用いることなどによって、少ない電気で強力なトルクを出す難題をクリアした。ポータブル型の場合、ディスクを回しているのは、厚さわずか8ミリのスピンドルモーターである(写真・左下)。そのトルクは10〜20グラムセンチメートル(※4)、流れている電気はせいぜい10〜20ミリアンペア。しかし、これで厚さ約20ミリのデスクトップ型用モーターに劣らぬ消費電力と特性を出し、そのうえ、約2000時間の耐久性(寿命)があるというのだから驚きである。
 現在、CDメーカーはこぞってDVDに参入し、年内にもCDとDVDの生産量が入れ替わるとの予測がある。次々と誕生するメカに合わせて、モーターメーカーは常に究極の性能を追い続けなければならない。困難で苦労の絶えない作業だが、板谷氏は、「狙いどおりの性能が出て、お客さまから喜んでもらえた時が何よりも嬉しい」と話す。
 クライアントの要求が厳しさを増した時から開発技術は飛躍的に向上する。両者のコミュニケーションなくして高性能のモーターが生まれないことも確かである。

※4 10〜20グラムセンチメートル
 軸の中心から1センチ離れたところで、10〜20グラムのおもりを持ち上げられる力(そのようなトルクで回すくらいのエネルギー)。

 

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左列がスピンドルモーター、右列がピック送りモーター