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 磯崎新氏とは、数年前からインタビューをしたり、同じシンポジウムに出席したり、何度か対談をする仕事をさせていただいた。特に全12巻の『磯崎新の建築談義』(六耀社、2001年から随時刊行)(※1)を制作するために、昨年は約15回のトーク・セッションを行ったのが思い出深い。磯崎の設計した軽井沢の別荘に泊めさせていただき、手作りの特製スパゲッティもごちそうになった。これがまた、とてもうまい。お話しをしていて、いつも感じるのは、新しい知識への関心は旺盛であり、心が若いことだ。世界のイソザキは、『ツイン・ピークス』(※2)も、『新世紀エヴァンゲリオン』(※3)も、ビデオを全巻見ていたりする。エヴァンゲリオンは世間でブレイクする前から注目していた。筆者の同期でどんどんおじさん化する仲間がいるのに対し、磯崎は70歳を越え、筆者の祖父の世代に近いのだが、全然若い。これが磯崎の力なのだと思う。

 

 2001年の冒頭、建築専門のギャラリー・間(※4)において、磯崎は『アンビルト/反建築史』という展覧会を開いた。彼は40年以上のキャリアのなかで、多くの実現しなかったプロジェクトをもつが、この展覧会では10年ごとにその代表作を提出している。1960年代からは「空中都市」、1970年代は「コンピュータ・エイデッド・シティ」、1980年代は今回の「東京都新都庁舎計画」、1990年代は「海市」(※5)だった。どれも魅力的な提案だが、これはまさに「まぼろし博物館」の個展ではないか。筆者は、この展覧会のパンフレットとカタログ『UNBUILT/反建築史』(TOTO出版、2001年)(※6)に文章を寄稿した。そのときに書いた一文を抜粋しよう。「アンビルトは実現しないがゆえに、現実の世界から汚されず、永遠の解釈に開かれるだろう。……磯崎新の言葉は、いつもアイロニカルだ。かつて彼のいう「反建築」こそが、建築的なものだった」。そして展覧会のタイトル「反建築史」こそが、建築史になる。さらに、幻こそが本物である、という逆説も語りうるかもしれない。

 

 丹下健三による実際の都庁は、足元に立つと、それなりに迫力があって、世間で言われる程、ひどい建物ではないと思う。せっかく税金を使って建てるのだから、なんの感慨もない庁舎だともったいない。本当の箱では悲しい。だが、磯崎の都庁案が本当に建っていたら、どうだったのか。何ごとにつけて、目立つ行為を叩くこの国のメディアを考えると、きっと批判はあっただろう。しかし、磯崎案は建たないからこそ、こうした逆風は受けない。ゆえに、審判は未来に委ねられる。本文でも指摘したように、実物は消えても、アイデアはずっと残る。はるか彼方の未来において、またどちらが良かったのかが改めて問われるだろう。おそらく磯崎は、そのときの勝利を確信している。

 

※1 『磯崎新の建築談議』(六耀社、2001年から随時刊行)
2001年5月25日刊行開始、2002年12月完結予定。初回配本のみ2巻同時刊行。以降、1巻ごと隔月刊行。最終配本のみ月刊。
古代から20世紀まで、各時代をあらわす12の建築を磯崎氏が独自の視点で選択。建築と時代、政治、社会、文化などわかりやすく語る。インタビュアーに五十嵐太郎氏。本文中の専門用語には、五十嵐氏をはじめ第一線の建築・美術史家らが詳細な解説を執筆。建築図面や関連参考図版も多数収録されている。


※2 『ツイン・ピークス』
デイヴィット・リンチ監督によるTVドラマ(全29話)。第1話が1990年4月にABC-TVで放映され、全米にツイン・ピークス現象が巻き起こる。その約1年後、日本でもテレビやビデオで放映され人気に火がつく。


※3 『新世紀エヴァンゲリオン』
1995年10月〜1996年3月までテレビ東京系で放映された連続TVアニメーション。映画化もされる。
巨大ロボットアニメというジャンルに、アクションやミステリーの要素も加わった日本の90年代を代表する人気アニメ。登場人物の心の葛藤や成長など緻密に描かれた同作品は、アニメファンのみならず他分野でも大きな反響を呼び社会現象を巻き起こした。


※4 ギャラリー・間
1985年10月に開設されたTOTOが運営する建築とインテリアデザインを主とした専門ギャラリー。自主企画による建築やインテリアデザインの展覧会・講演会などを開催。また展覧会と連動した出版活動もしている。
磯崎氏の「アンビルト/反建築史」は2001年1月〜3月に同ギャラリーにて開催された。


※5 「海市」
「海市」−もうひとつのユートピア
1997年4月19日〜7月13日まで東京西新宿のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)の オープニング記念展として催された展覧会。主催はICCで、磯崎氏が展覧会全体の企画を受け持った。
「海市」とはマカオ沖の南支那海上に構想された人工の島。この展覧会では完成作品の展示ではなく、その制作プロセスがそのまま公開された。多様なネットワークを介した参加型のワークショップが運営され、マスタープランを持たない都市構想が可能であることを示した。


※6 『UNBUILT/反建築史』(TOTO出版、2001年)
ギャラリー・間にて開催された磯崎氏の展覧会「アンビルト/反建築史」に合わせ発行された本。それまで未発表の写真・図面・スケッチが多数掲載されたヴィジュアル版と、新規の対談、論文を掲載したテキスト版の2分冊。