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 今回の取材は田窪さんが現在いらっしゃる香川県琴平町のこんぴらさんにて、1日目はインタビューを、2日目は撮影を中心にさせていただいた。
 撮影は、田窪さんのご自宅にて1時間ほどした後、場所を屋外に移して、木々がたっぷりと茂る琴平山を散策しながら行うこととなった。

 

 AM 11:00〜

 まずはご自宅前にある倉庫からスタート。倉庫の壁をバックにしばらく撮影する。壁のざらっとした手触りや黒い色合いが田窪さんも気に入った様子。幸い天気が良く、暖かい日が差している。
 続いてご自宅脇の細い坂道を歩いて山を登っていくことに。田窪さんのお気に入りの道と場所とを案内していただく。

 琴平山の裏参道。木々の間をぬってゆるやかな坂道をゆっくりと進んでいく。田窪さん自身も自前のカメラ(EOS)で目に留まった風景を収めていく。花は以前からよく撮っているとのことだけあって、さすがに目線が鋭い。
 途中、つばきの木に遭遇。時期はずれで咲いている花に一同驚く。

 しばし参道を歩いていくと、グランドにでる。ここは職員のみなさんが野球などのレクリエーションができる場所なのだとか。まだそんなに高い場所ではないが、フェンス越しに琴平の町並みが見える。

 このグランドの一角にオブジェのようなものがあった。何種類かの鉄筋の分厚い板をつき立てたもの。よく見ると板の表面には雨によってできたと思われる錆びが付着している。
 これは今回の琴平での計画に先がけて、建築家の鈴木了二さんが実験しているもの。建物に使う鉄の耐久などを調べ、どういった素材が適しているかをこうしてみているということだった。
 そのすぐ隣りにはこれもまたオブジェのようなものがある。白っぽい色のきれいな直方体の石(縦横32cmで長さが2m)が数個並べられており、その上にさらに同じ石が同じように立て積みにされている。光の角度で直線の陰影が表れとてもきれい。こちらも鈴木さんが実験しているもの。普通こうした直方体の石は長いほうの面を横にして置き上に積んでいくらしいが、このように面の長いほうを縦向きに組んで壁などをつくっていこうとしている。こうした手法は初めての試みだということだった。

 

 AM 11:35〜

 グランドを後にし、再び先に進む。それまでの細いながらも舗装された道が、人の歩みでできた山道になる。小石がごろごろしている。起伏があるので少し歩いただけで山の景色が違って見える。田窪さんは琴平山のこうしたところが好きだとおっしゃっていた。そしてまた花を撮り、道脇のコケを撮り、人の顔の5倍はあるクモの巣を撮る。
 舗装された道もいいが、なるべく人の手が入っていない(もちろんある程度は歩けるようにはするのだけど)自然のままの道なり景色を残していきたいとおっしゃっていた。

 ほどなくしてまた開けたところにでる。先ほどとは違いそこには建物があった。驚いたことにそれはなんと図書館。もちろん無料で一般公開され、利用は自由。
 入り口を入るとすぐに閲覧室になっている。部屋の端には教壇があり、黒板まであり、さながら小学校の教室のよう。


 木製の長机に小ぢんまりとした椅子。どちらも丈が低いつくり。利用者がいないこともあってか、外で鳴く鳥の声だけが部屋にこだまして時間の流れが急にゆっくりになる。まるで別世界。「いいところでしょ」と軟らかい表情の田窪さん。閲覧室の奥には短い廊下があり、その廊下を挟んだ左右には小さな書庫が2部屋ある。歴史書や小説やいろんな種類があるようだが冊数はそんなに多くはない。
 全体的にひっそりとしている。建物も置いてあるものもみんな古いがよく手入れされている。
うしろ髪を引かれる思いで図書館を後にし、再び山道を上がる。

 この山の作業所に着く。観光客の誘導用の看板だとか諸々のものを製作しているところのようで、作業員の方たちが数名働いていた。
 その作業所の中を通り抜け、田窪さんのスタッフの方が発見したという琴平の町並みがよく見えるポイントに連れて行っていただく。
 一望とまではいかないまでも確かによく見える。ただ、ゆったりとした景観の中に高くそびえた「海の科学館」など数件の建物が目立ち、それが残念だと田窪さんがもらす。

作業所の近くには現在の社務所があり、そのすぐ上方には以前使用していたという旧社務所があった。建物はそのままの形で残っており、中を少し拝見する。
 木造で、ここもどことなく昔の小学校を思い出させる。先の図書館と通じる風貌。ただしこちらは長い間放っておかれているようでひどく埃まみれ。そのせいで足元がするすると滑って危ない。「総務室」などの文字の書かれたプレートが、それぞれの部屋の引き戸の上に付いているところなどは何だかかわいらしく感じる。昔の職員の人たちが使っていた風合いが感じられ、そのまま時間が止まっているよう。こうしたところも田窪さんは気に入っているそうで、取り壊すのではなく、この社務所もまた機能させ再生させていきたいと考えているとのことだった。
 この社務所の敷地を抜けると一般公開されている「書院」の裏側にでた。

 

 AM 12:20〜

 最後にこの書院の中を見させていただく。
 入るとほどなくして、「けまりの儀」が催される中庭が視界に入る。四角形に囲われた庭。日差しを受けた木の葉の陰が地面にゆらゆら揺れている。

 一般公開されている表書院の誘導案内を外れて、裏書院の部屋へと案内していただく。
 いくつかの部屋を通り抜け、さらに進んでいくと、奥のほうに6畳ほどの小さな部屋が現れた。初めは暗くてよく見えなかったが、部屋の外側の障子を開け外光が内部に入り込むと、そこには息を飲む光景が広がった。
 部屋一面に草花の絵が縦横にいくつも描かれている。壁だけではなく襖にも、描けるだけ描いたというように。その部屋の中に入りいったん襖を閉めてしまえば、あたり一面この草花に取り囲まれてしまうというつくりになっている。
 圧倒的な佇まい。この部屋だけほかの部屋とは別の異様な力を放っていると言えばよいのか、初めて見る者を少しはねつけるような感覚を受ける。
 草花の生命力が静かにみなぎった部屋。
 この部屋こそが16歳だった田窪少年のその後を決定づけることになった場所だった。
 当時、宮司の息子さん(現宮司)が友だちだったことでこの部屋に入ることができた田窪さんは、ここに描かれた伊藤若冲の絵に触発され絵を描くことを志したという。
 部屋の中央におもむろに座る田窪さん。その姿を撮影。それまでの顔とは幾分違うきりっとした表情が浮かんでいた。この奥書院は非公開の部屋だが、2004年の秋に行われる「平成の大遷座祭」の時だけ一般公開することを考えているという。

 さらに、私たちを驚かせたものがもう1つある。この部屋の隣りに一部屋挟んで現れた、先ほどとは別の中庭だ。手入れされた木々の中に、梅の木が2本。春にはきれいに花をつけ、たいへん美しいらしい。
 その庭の左手の遠方に目を向けると琴平の町並みが見える。今日、何度となく見た琴平の景色。ただ違うのは、これまで見させていただいた町並みの中で、間違いなく絶景中の絶景だということ。「昔の人だってバカじゃないよ」と田窪さん。
 この眺めのすべてを計算したこの建物のつくりにしばし呆然とする。心地よい時間が流れる。
 「いつか花の咲き乱れる頃に、お酒を片手にここで過ごしてみたい」。そうおっしゃる田窪さんの隣りで、もう一度目の前の風景を見渡してみる。想像するよりももっと美しい“絶景”がそこに訪れた時、自分もその場に居合わせられたらどんなに幸せだろうか。思わずそんな憧憬を思い描いた。
 ここをもって撮影は終了。
 一味違う角度から素顔の琴平山に触れられたことに感謝すると同時に、田窪さんのアイディアと愛情とで新たな生気が吹き込まれるこれからの琴平山にぜひとも再会したいと思った。

文:山口理恵
撮影:杉田賢治
取材日:2002-10-25

 


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