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世界的な冒険家として名高い故植村直己氏は、犬ゾリによる単独の北極点到達という偉業を成し遂げたが、今から27年前、私は新聞社の特派カメラマンとして、植村氏とゆかりの深いグリーンランドのシオラパルクという小さな村を訪れたことがある。
この村の人口は50人。地球最北に住むイヌイットの村として知られているが、北極点遠征前、植村氏はこの村の長老イヌートソアさんに、犬ゾリの操作とムチの使い方を教わっている。
この地を訪れたのは12月。一日中太陽が顔をのぞかせない季節でもあった。シオラパルクの隣町カナックまでは米軍のヘリコプタをチャーターしたが、そこからシオラパルクまでは、犬ゾリで10時間という過酷な旅が待っていた。
凍りついた吹きさらしのソリに横座りにさせられ、氷土と化した海の上を、10頭立ての犬ゾリはひたすら走る。気温はマイナス40度。涙も鼻水も凍る、まさに酷寒の地であった。
周りは一面白銀の世界なのだが、鼻をつままれても相手が解らないほどの漆黒の闇の中だ。気が遠くなるほどの試練にどうにか耐え、灯りのともる集落に着くと、いきなり「お疲れでしょう」と、日本語で迎えてくれる人がいたイヌイットとなってこの地で暮らす、大島育雄さんであった。その隣りには老夫婦がニッコリ笑って立っている。
「ナオミ知ってるか」。すぐにイヌートソアさんだと直感した。暖かいイヌイットたちに囲まれて、私は1ヶ月間この地で過ごし、極限の中に生きる彼らの様々な知恵を、まざまざと見せつけられたのだった。
大島育雄さん宅を訪れたイヌートソアさんご夫婦と。
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