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ハウステンボス
index -2004 WINTER Vol.32- まぼろし博物館
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まぼろし博物館
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 ハウステンボス(HUIS TEN BOSCH)とは、オランダ語で「森の家」という意味であり、オランダのベアトリクス女王が住んでいる宮殿の名前である。
 ハウステンボスは、その名称を冠することを女王から許可され、しかも女王が住んでいる宮殿をそのまま再現することさえも許可された。オランダ女王より宮殿を再現する許可を得ているという前代未聞の事実は、いかにこの事業がオランダから国を挙げて協力を得ていたかということを如実に語っている。ちなみにその宮殿は、ハウステンボスのシンボルであるパレス・ハウステンボスとして再現されている。
 1992年に誕生したハウステンボスは、12世紀から20世紀にかけてのオランダの古い街並や建物を再現した夢の街である。テーマパークとしては、建設当時東京ディズニーランドの2倍の面積を誇り、細部にいたるまで本物にこだわって建設された街並は、あたかもオランダの一部が切り取られ、日本に移し変えられたかのような印象を私たちに与える。
 ハウステンボスの特長は、その外観だけではなく、環境に徹底して配慮した新しい街づくりの果敢な試みにこそあるだろう。




近代文明がもたらしたもの 美しき大村湾のほとりに
新しい街づくり 環境実験都市の試み
未来に向けて  


近代文明がもたらしたもの
ハウステンボス建設前の工業用埋立地

 ハウステンボスの建設地は、1970年代に造成された工業用埋立地であった。長崎県が工場を誘致し経済活動を活性化させるために、192億円を投じて海を埋め立てた針尾工業団地である。工場誘致ができないまま20年近く放置されていた土地は、経済効率優先に捨て場のないヘドロや岩石によって造成されており、木も育たず魚も寄り付かない荒廃した土地であったという。高度成長期の日本各地で行われていた、自然の生態系を無視した土地開発のひとつであり、近代産業社会がもたらした、経済効率一辺倒の環境破壊の見本例にほかならなかった。

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美しき大村湾のほとりに

 ハウステンボスの前身は長崎オランダ村である。長崎オランダ村は、大村湾を挟んでハウステンボスの南方、長崎県西彼杵郡(にしそのぎぐん)西彼町(せいひちょう)にあった。
 この長崎オランダ村をつくったのが神近義邦である。彼は長崎オランダ村の前に長崎バイオパークをつくっている。長崎バイオパークからハウステンボスまで一貫した考え方は、環境(エコロジー)への配慮と経済活動(エコノミー)の両立である。おだやかな大村湾に面したのどかな自然環境を愛し、その環境を損なうことなく経済活動を成立させるという彼の熱意と、その考えに賛同する多くの人々の力が、最終的にハウステンボスへと結実している。
 地元の自然環境を生かし、21世紀の課題ともいえる「環境」と「人間の営み」との共生を、真摯に考え実現しようとするハウステンボスの試みは、他のテーマパークでは類を見ない独特で革新的な試みといえるだろう。

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新しい街づくり

 ハウステンボスは、オランダの街をモデルとした、短期から中期宿泊を取り入れた滞在型の観光リゾートである。オランダの街をモデルとしながらも、特定の街の形を再現したものではなく、12世紀から20世紀までの典型的なオランダの都市形成の過程を参考に、都市形成過程そのものを街の配置の基本とした独特な計画が行われている。ビネンスタッド(旧市街)、ニュースタッド(新市街)、スパーケンブルグ(港町)、ワッセナー(別荘地)などのハウステンボスの各地区は、街の歴史的発展過程を表現したものなのである。各建物はオランダに現存している旧い建物をモデルにし、運河に囲まれたビネンスタッド(旧市街)には、12世紀から17世紀頃までの建物や街路が計画され、18世紀以降現代にいたる建物はその周辺に、別荘地などとなって配置されている。ハウステンボスの計画にあたっては、ハード・ソフトの両面から提案、意見、指導を行う「15人委員会」が組織され、その組織はオランダと日本両国の有識者によって構成された。オランダの文化的側面や時代考証については、各分野のオランダ人専門家がコンサルタントを行い、時代的にも本格的な検討がなされたうえで計画が行われている。
 また運河を主軸とした街づくりには、オランダだけでなく江戸の街づくりの思想も反映されている。例えば中庭である内海のポンツーン(船着場)から船でアプローチし、チェックインできるように設計されているホテル・ヨーロッパは、江戸の船宿の現代版でもある。
 このように本格的な街づくりの思想のもとにつくられたハウステンボスは、単なるオランダのテーマパークではなく、オランダをモデルとした日本人のための日本の街づくりの挑戦であったといえる。「佐世保市ハウステンボス町」という町名が正式につけられていることからもわかるように、ハウステンボスの究極の目的は、入場料の要らない、生活のある本物の街をつくることだったのだ。

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環境実験都市の試み
下水処理場や淡水化プラント、コ・ジェネレーションシステムなど環境に配慮した設備がそろう

 ハウステンボスの建設では、埋立地の失われた自然環境を取り戻すために、土壌を入れ替えて40万本の苗木が植樹され、敷地に海水を再び引き入れ運河を通し、水際は自然石護岸とすることによって、小動物が生息する水辺を再生している。
 施設の排水には徹底した浄化システムを導入しており、ハウステンボスから大村湾へは一滴の生活排水も流してはいない。高度処理された排水は、中水として散水やトイレに循環再利用され、散水された水のうち地中から運河や海に浸み出すものは、長崎県の条例である20ppm以下をはるかに下回る1.7〜1.8ppmであり、大村湾の海水よりもきれいな水になっている。
 その他、降水量の少ないこの地域における渇水期対策として設置された海水淡水化プラント、熱・電力のエネルギーを供給している天然ガス発電によるコ・ジェネレーションシステム、生ごみのコンポスト処理プラント、各種インフラが通る共同溝の整備など、時代を先取りする数多くの環境に配慮した設備が導入されている。
 また、自然の星空や、風や波の音や、鳥のさえずり、虫の音などが損なわれないように、細心の注意が図られて光環境や音環境が計画されている。
 そして、そのエコロジーの思想は設備機器の導入ということだけではなく、スタッフ一人ひとりに徹底された企業の基本的な姿勢であることは、ハウステンボスが子どもたちの環境学習の場として門戸を開いていることからも伺い知れる。

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未来に向けて
日本にいることを忘れてしまうような街並

 土壌改良や環境保全のための400億円もの初期投資と、その金利負担が重くのしかかり、残念なことにハウステンボスは、2003年2月に総負債額2,290億円を抱えて会社更生法を申請した。ハウステンボスの事実上の倒産という事態に対して、地元九州の自治体や市民は支援活動に立ち上がり、こうした働きかけも手伝って、驚くべきことに入場者数が増えたという。そして、翌年6月から野村プリンシパル・ファイナンスが新しい経営母体となり、新生ハウステンボスはスタートしている。新しい経営母体に名乗りを挙げた企業が日本ばかりでなく海外からもあり、十数社に及んだのは、ハウステンボスが単なるレジャーランドではなく、21世紀の社会に対して「高い志」と「大きな夢」を持ち、それを着実に実現しようとしてきたからではなかったか。ハウステンボスを設計した池田武邦らの研究チームによれば、ハウステンボスは環境会計の視点からすると、1,700億円の環境価値を創造したという報告もある。つまり環境への貢献を経営資源として評価するならば、大幅な資産超過ということになるのだ。
 現在、ハウステンボスの運河や大村湾に接する水際にはたくさんの貝類が繁殖し、さまざまな魚類が群れ泳いでいる。そして建設から10年の歳月を経て、ハウステンボスのドム・トールンの頂上にハヤブサが棲みついたという。食物連鎖の頂点に立つハヤブサが生息しているということは、周辺の自然環境が蘇生したことを意味している。ハウステンボスの環境への取り組みの成果が、そこに大きく現れているといっていいだろう。
 未来に向けて多くの可能性を秘めたハウステンボスの実験はまだ始まったばかりである。神近が言ったように、「ハウステンボスは一千年先を見据えた環境実験都市である」ならば、環境を重視した街づくりのさきがけとして、ハウステンボスはさらなる進化を遂げてゆかねばならないだろう。美しい自然と共に生き、経済的にも自活した事業として地方の希望となり、そしてテーマパークから人の生活する街へと成長したハウステンボスに、いつしか再び訪れてみたい。

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ハウステンボス
ホームページ http://www.huistenbosch.co.jp/top.html



参考文献
ハウステンボスの挑戦(神近義邦著)   講談社
ハウステンボス物語(上之郷利昭著)   プレジデント社
ハウステンボス・エコシティへの挑戦(池田武邦著)   かもがわブックレット
歴史街道2003.5〜2004.11 連載:環境と日本人(上之郷利昭著)   PHP研究所
新建築1992.05   新建築社


 

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