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見えないものが見える魔法の光。
index -2004 WINTER Vol.33- 大型放射光施設(SPring-8)財団法人高輝度光科学研究センター
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私風景 〜shifukei〜
タクミのシクミ 〜異業種に学ぶ〜
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編集後記
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生命の設計図ともいえるDNAの遺伝情報。その遺伝情報によりかたちづくられるタンパク質分子の立体構造を解明する研究が進められている。この研究は普遍的な生命現象への理解を深めるだけでなく、創薬開発や医療分野へ大きく寄与することが期待されているが、分子構造の解析に多大なる貢献をしたのが放射光である。その放射光を発生させる大型施設建造への挑戦が始まった。今から、約20年前のことであった。




魔法の光、放射光 世界一のものをつくれ
すべて自分たちの手で 大きさに圧倒される
21世紀を照らす光に  


魔法の光、放射光

 人類は時として目を見張る程のとてつもなく偉大なものを造り上げる。巨大な歴史的建造物などに出会った時、その威容に心を打たれることは多いが、現代科学の粋を集めた大型放射光施設、通称SPring-8(スプリング・エイト)に初めて出会う人も同じような想いを抱くに違いない。
 放射光とは、ほぼ光速で直進する電子が、その進行方向を磁石などによって強制的に変えられる際に発生する電磁波光である。光は明るければ明るい程、ものをよく見ることができるし、波長が短ければ短い程、微小なものを観察することができる。SPring-8の放射光は、可視光線の約10万分の1までの短い波長の光を含み、従来のX線発生装置から得られる光の1億倍以上の輝度を持つ、今まで決して見ることのできなかった微細な世界を調査・研究することのできる、いわば魔法の光である。
 1997年から供用が開始されたSPring-8は、兵庫県にある播磨科学公園都市の中核を成し、高輝度光科学研究センターにより運営されている。現在、世界最高性能の放射光を発生することができる研究施設であるが、性能と同時にその規模の大きさに驚かされる。まず、電子銃によって発生した電子を加速する線型加速器が全長140m。次に電子をさらに8ギガ(80億)電子ボルトまで加速するシンクロトロンと呼ばれる円形加速器が周長396m。そして加速された電子のエネルギーを維持しながら放射光を発生させる巨大な蓄積リングは、標高341mの三原栗山の周囲を囲み、周長は1,436mにも及ぶ。ちなみに、この蓄積リングの直径は東京ドームの約3倍である。さらに、取り出された放射光を実験施設へ導く直線の光の道、ビームラインの中で最長のものは1,000mという規模だ。

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世界一のものをつくれ

広報室長/原 雅弘氏  このSPring-8の生みの親ともいえる人物がいる。現在、加速器部門の主席研究員のかたわら広報室長を務める原雅弘である。そもそも、この放射光施設は原が理化学研究所から科学技術庁へ出向していた1984年に彼の手で提案された。原は東京大学原子工学科の博士課程を卒業後、理化学研究所に入所。当初は核融合の研究を専門としていたが、後に加速器研究室に移り、加速器の研究を手がけていた。ちょうど科学技術庁も原子力の開発が一段落つき、次に取り上げる新しいテーマを模索していた時期であった。「国でなければ成し得ない大規模プロジェクトとして、放射光の大型施設の開発・建造が最適ではないか?」と原は提案。その後、北米や欧州の施設を見て回ったり、国際会議に出席したりして見聞を広め、「これは、本当にやるべき価値がある」という確信を持って帰国してみると、その提案は、いつのまにか庁内の最優先プロジェクトに位置づけられていた。
 時をほぼ同じくして、アメリカとフランスでも大型放射光施設の計画が進んでいたが、原が計画したものは、そのいずれをも性能・規模で凌駕していた。国からは「余計なことは一切考えんでいい。つくりたいもの、役に立つと思うものを考えろ」と言われ、周囲は異口同音に「同じ放射光施設をつくるなら、世界一のものをつくれ」と、はっぱをかけた。加速器や放射光の分野では、日本はずっと欧米の一歩後ろを歩いていたが、「そろそろ日本が先頭に立つ時」という潮も満ちて来ていた。この国を挙げての気運や周囲の励ましは、たった一人で計画を進めていた原に大きな勇気を与えたことは言うまでもない。「本当に予算がつくのか心配だった」と語るが、当時まだ右肩上がりの成長を続けていた日本経済が大きく後押しをしてくれた。こうして、技術立国日本としての意地とプライドをかけたビッグプロジェクトが、理化学研究所と原子力研究所の共同チームにより本格的に動き始めた。

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すべて自分たちの手で

実験ステーション

 一口に「世界一の性能」といっても、それを成し遂げるのは並大抵のことではない。しかし原には「これから新しく生み出さねばならない技術は必要ない。最高・最先端であれ、今既にある技術を駆使すればできる」という見通しが当初からあった。ただそれには「徹底して検証や工程管理をすれば」という条件がついていた。
 原をはじめとした設計スタッフは、一つひとつの磁石や装置の磁場測定や精度測定、パワー試験から全体のまとめ作業までを全て自分たちの手で行った。計算と測定に明け暮れる日々。決してメーカーまかせにはしない。「全部自分たちでやるから、すべてがわかっている。わかっているからこそ、何か問題が起きても、すぐに対処法が見つかった」。もちろん、その地道な作業を支えたのは、世界一の性能を実現するためという強いこだわりに他ならなかった。
 特に蓄積リングにおいては、円周約1.5kmという長大な電子ビームの軌道とその周りの収束系を作る電磁石を髪の毛一本の太さ、即ちマイクロメートル単位の精度で正確に配列しなければならなかった。電磁石は円周で約1,000台。まさに気の遠くなるような話である。しかし彼らは1.5kmという長さを、距離の短いユニットごとの精密な設置の繰り返しに置き換えるという発想転換と、細かな作業の積み重ねで見事にこの難題もクリアした。
 原は「科学を支えているのは、実は地道で細かい作業なんですよ」と言う。これは「発明は、1%のひらめきと99%の努力」というトーマス・エジソンの格言にも相通じるものがある。また、「ものをつくる時、なんでもかんでも全部きちんとつくる必要はない。全部やっていたら大変ですよ。必ず大事な所とそうじゃない所がある。力を入れる所を見極めて、そこはこだわって徹底的に追い込めばいい」と語る。こうした柔軟でメリハリを重視する考え方があったからこそ、彼らはこの巨大にして精密な装置に臆することなく立ち向かえたのかもしれない。

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大きさに圧倒される

 現地での建設・設置作業や動作試験などは比較的スムーズに進んだという。R&Dの段階で、あらゆる状況を想定して徹底的に確認作業を行っていた原たち設計チームの苦労は、ここで大いにものをいった。原は93年に現地に赴任。当時は建設地には本当に何もなかった。「雨が降ればドロドロになるし」といっていた場所に施設が徐々に立ち上がり、ついに97年3月に初めて放射光の発生が確認された。その瞬間、管制室で固唾を飲んでモニターを見守っていた数十人のスタッフから大きな歓声が上がる。もちろん原もその歓喜の輪の中にいた。「それはもう大騒ぎでした。その場で、みんなで乾杯しましたよ」
 また原は完成した施設を見て、ホッとしたと同時に、その大きさに「本当に圧倒された」という。「あの時は『国力』というものをまざまざと感じました。決して科学技術の力だけではできない。必要な所には必要な資金を投下する、経済力を含めた国としてのパワーですね」と振り返る。「殆ど休みはなかったけど、まったく苦にはならなかった」。ひたむきに仕事に打ち込んだ彼にとっては、あっという間のことに思えたかもしれないが、建造のきっかけとなった提案からは実に13年という時間の積み重ねがあった。

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21世紀を照らす光に

電子銃・線型加速器・シンクロトロン・蓄積リング

 放射光は材料科学、地球科学、生命科学、考古学、環境科学、医学など非常に幅広い分野で物質の解析や分析に利用され、その可能性はまだまだ無限といえる。科学捜査の事例として、和歌山カレー毒物混入事件の証拠鑑定においては、微量ながらカレーに混入された亜ヒ酸と容疑者宅に残されていた亜ヒ酸の同一性を立証した。またSPring-8は、民間の産業利用にも解放されており、今後ますます産業分野での利用促進に力を入れていくという。
 「黙っていたら誰も使わない。使い方がわからないから。使ってみせて、使わせてみないといけない」。原にはまだ、この世界一の施設を積極的にPRし、さらなる科学や産業の発展に資するという大きな仕事が残っている。また「放射光だけに限定せずに、この施設全体の持つポテンシャルをもっともっと生かす道も探りたい」と利用促進への熱い想いは尽きない。
 SPring-8は、これから我々にどんな世界を見せてくれるのだろうか? 確かにそのポテンシャルは量り知れないが、今後は性能そのものよりも、その使い方に大きく比重がかかってくることだろう。今まで行うことのできなかった原子レベルでの分析や解析は、新しいナノサイエンスの扉をさらに大きく開いてくれるに違いない。これからこの施設でなされる研究や発見が、人類の未来にまた新たな光をもたらしてくれることを大いに期待したい。

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大型放射光施設(SPring-8)
ホームページ http://www.spring8.or.jp/j/


タクミのシクミ
あらゆる分野において日々進化する技術。技術は、人の造り出したさまざまなモノの中に隠れています。多くの技術が結集して成り立つこともあれば、ただひとりの手による技術もあります。広義に言えば、方法論やシステムも含まれているかもしれません。いずれにせよ、卓越した技術には、普段われわれが眼にすることのできない「隠れた技」=「匠の技」が存在しているに違いありません。

 
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