
BIM(Building Information Modeling)は、建物の設計、建設、運用に関する情報を統合的に管理するための手法です。NTTファシリティーズでは、このBIMを駆使して、より高付加価値で持続可能な建物設計・運用をめざしています。本稿では、当社での取り組みとこれからのBIM活用の姿について紹介します。
社会的背景
現在の日本社会は、生産年齢人口の減少、地方都市の活力低下、地球温暖化よる災害の激甚化などさまざまな課題を抱えています。日本政府は、これらに対応するための方針として「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」を2022年6月に閣議決定しました。その後の2023改定版では、建築・都市のデジタルトランスフォーメーション(DX)が示されており、建築・都市・不動産分野の情報と他分野の情報が連携・蓄積・活用できる社会の構築をめざすとしています。建設業界は近年、この目標実現に加えて、技術者の高齢化・低い生産性・長時間労働という業界の抱える課題に対しその解決策として「建築・都市のDX」を官民一体となって取り組んできました。そして、その基盤として期待されているのがBIMなのです。
NTTファシリティーズのめざすBIM活用
当社は、建物の企画・検討、設計、工事監理、改修・維持管理のあらゆるフェーズへAIや高度なICT技術を導入することで、カーボンニュートラルやZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)、Well-being、レジリエンス、LCC(ライフサイクルコスト)などの建物に関わる生涯価値の最大化とその提供をめざしています。そして、これら多様な価値の提供を実現するICT技術導入プラットフォームとして活用されるのがNTTファシリティーズのBIMなのです。このBIM推進を支えるため当社では、2019年にBIMオペレーションセンタ(通称FIMセンタ)を立ち上げ、現在は約130名のBIMオペレータが在籍する専担組織に成長しています。

建築設計におけるBIM活用
当社は、2008年からパイロットプロジェクトにおいてBIMを用いた設計を開始、その後BIM推進ワーキングを立ち上げ、2019年には前述のFIMセンタを組織化し、BIMを活用した設計によって新たな価値の提供をめざしています。具体例として、工事完成前のバーチャル竣工BIMモデルの提供、構造計算プログラムとBIMがシームレスに連動する新しい構造設計プロセス、BIMと省エネ計算や建設時に発生するCO2排出量算定の連動、BIMと連携する設計自動化ツールの開発などが挙げられます。
加えて、昨年からはAIの導入によってさらに高度な付加価値提供をめざした設計プロセス改革ワーキングを立ち上げ、意匠・構造・設備・コスト・監理の各専門分野のDXを推進し、未来のビジョンとして人とAIの共創による建物生涯価値創造をかかげています。AIを活用した新しい建築設計プロセスにおいては、設計情報をコンピューターが解析・分析可能な構造化データとして構築する必要があり、非構造化データである2次元CADよりも構造化データであるBIMの方が設計プラットフォームとして適しています。AIの性能が我々の想像を超えて進化していくなか私たちは常に技術的な動向を把握し、BIMの活用へフィードバックしていく必要があると考えています。
建物維持管理におけるBIM活用
当社は、建築設計と建物維持管理の両事業を行っているという背景から、NTTグループの通信施設を中心とする既存建物・施設群におけるライフサイクルマネジメントへのBIM導入=「ライフサイクルBIM」に取り組んできました。(特にBIMのMを「Management」の意としている)

当社では、建物データベースとしてのBIM活用の可能性にいち早く注目してきました。建物維持管理におけるさまざまな業務情報をBIMに収集・集約、それを業務プラットフォームとして活用するプロセスの構築、それによる建物維持管理業務のDXをめざしています。
既存建物・施設のデータベースを目的としたモデルは「現況BIM」と呼ばれ、情報入力ルールが標準化されており、また過度にデータを詳細化せず長期的にメンテナンスしやすい粒度で構築されていることが特徴となっています。2019年度に全国約10,000ビルにおけるNTTグループ関連施設のBIM化に着手、現在は重要度の高い約1,500ビルを完了し、将来的にはすべてのビルを現況BIM化する予定です。
現況BIM化された既存建物・施設群のデータベースは、主に資産情報管理・整備運用計画や日常点検、改修設計等に活用されており、 特に改修設計では、効率的な作図と合わせた設備数量の算出(建物DB活用設計)、環境シミュレーション、RPAを用いた簡単な設計検討判断など、発展的な取り組みを行っています。さらに今後はIoTやロボティクス、AIの発展等によってより多様な価値提供につながる可能性も秘めています。
本稿では、当社が取り組むBIM活用の概略を紹介しました。次回以降では、ライフサイクルBIMや建築設計におけるBIM活用の詳細について、より具体的に紹介していきます。
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