2024年8月、石川県の金沢駅西口けやき大通り沿いに、三井住友海上 金沢ビルが完成しました。老朽化した旧支店からの移転を機に、「新しい働き方」と環境配慮、災害時の事業継続性を重視したオフィスとして計画されたプロジェクトです。社員参加型のワークショップを通じた空間づくりや、高い環境性能、地域文化を反映した外装デザインなどにより、金沢の新たな金融街にふさわしい拠点が実現しました。
本記事では、本プロジェクトにおける計画の背景や設計の考え方、企業と地域の連携による価値向上へ貢献した取り組みをご紹介します。
支店ビルの移転とお客さまの想い
本ビルは、環境性を高めながら働きやすさを追求した新しいコンセプトのオフィスビルです。旧金沢ビルは築30年が経過し、老朽化による全面改修または移転の検討が行われていました。近年、多くの企業や行政機関が利便性の高い金沢駅の西口付近へ移転をしていることから、土地の選定を含めた移転計画を進めることになりました。
本ビルの計画に先立ち当社は敷地の選定を支援し、金沢駅西口のけやき大通り沿いの敷地(約2,000㎡)に決定しました。敷地が面するけやき大通りは、北陸の先端金融街として銀行や保険会社の新しいオフィスビルの開発が進んでおり、将来発展が期待されている地域です。金沢支店の所在地は、従前の金沢城下の歴史ある尾山町から、駅西口の振興金融街への移転となり、三井住友海上の「心機一転」、事業を発展させる「想い」を受け設計がスタートしました。
新オフィスの設計思想と働き方改革
新しいオフィスビルの計画では、「新しい働き方」を中心テーマに掲げ、社員の潜在ニーズや新オフィスへの期待を引き出すためにアンケートやワークショップを実施しました。その結果、快適性と環境配慮を両立するタスクアンビエント空調の導入や、空調AI制御・運用モニタリングシステム(ELP空調*1 )の試験導入など、先進技術を活用した執務空間が実現しました。これらの取り組みにより、BELS認証*2 における「ZEB Ready*3 」や建築環境総合性能評価システム*4 (CASBEE建築)で最高評価のSランクを取得し、多くの人々の想いが込められたオフィスビルとなっています。
*1 ELP空調(AI空調):BASデータを基に室内環境(温度、湿度)、および消費電力量を予測するAIモデルが、最適かつ省エネである空調機設定温度を探索し実施する空調制御。当社独自開発の空調制御。
*2 BELS認証:建築物省エネルギー性能表示制度。新築・既存を問わず、全ての建築物を対象とした省エネルギー性能等に関する評価・表示を行う制度。
*3 『ZEB Ready』:省エネルギー設備や創エネルギー設備の導入により、一次エネルギー消費量をゼロにすることをめざした建物のうち、削減率が50%を超えるものをいう。
*4 建築環境総合性能評価システム:建築物に係わる環境性能をQ(Quality:建築物の環境品質)とL(Load:建築物の環境負荷)の両面から総合的に評価するためのツール。
前面はけやき並木のある大通りとなっている。
地域文化との融合と省エネルギー技術
けやき大通りに面する南西のガラスファサードは、西日の影響を受けやすく、視覚的開放性と日射抑制の両立が課題でした。金沢の茶屋建築に着目し、伝統的な木虫籠(きむすこ)をヒントに「アルミルーバー」を採用しました。アルミルーバーの密度を段階的に変化させることで、熱負荷を低減しつつ眺望性を確保しました。さらに、Low-eガラスや高断熱外装、BEMS、照明制御などの環境技術を導入し、省エネ基準より54%以上の性能(BEI=0.46)を達成。屋上には太陽光パネルも設置し、創エネにも取り組んでいます。
アルミルーバー設置のにより熱負荷を低減した。
南側より。アルミルーバーを異なるピッチで設置した。
社員と地域をつなぐオフィスづくり
新しいオフィスの計画にあたっては、「新しい働き方」を重要なテーマとして掲げ、利用者の潜在ニーズを引き出すためのアンケートやワークショップなどを行い、未来の働き方や空間構成を三井住友海上と共に考えました。本社のカルチャー変革と地域特有の働き方を融合させることを目指し、現地社員の声を反映した空間設計を行い、自律的で生産性の高い働き方、自然なコミュニケーション、地域との共創を実現するため、柔軟に活用できるスペースを整備しました。また、社員の方々の働き方変革としてのABW*5 への取り組みに加えて、地域のお客さまやパートナー企業との更なる交流を生み出せるよう来客対応スペースを集約し、来訪者をお迎えするスタイルの変革にも取り組みました。 「第38回 日経ニューオフィス賞」において「中部ニューオフィス奨励賞」の受賞や、NEBs*6 指標による定量評価でも高く評価されました。
*5 ABW … 「Activity Based Working」の略で、働く活動に応じて場所を選ぶワークスタイル
*6 NEBs … 省エネ性能の向上に伴う、知的生産性の向上や、健康増進、BCP性能強化、メンテナンス費の削減などの副次的効果の総称
社員が環境を選択して業務できるようになったWork Lounge
開放的なつくりとしたお客さま対応スペース
災害時の事業継続性とBCP対策
損害保険業務は、事故や災害に遭った方々のサポートを継続する必要があり、BCP対策が必要です。本ビルはラーメン構造に制振ダンパーを導入した制震構造*7 を採用し、耐震性能Ⅰ類*8 相当を確保しました。屋上には太陽光パネルを設置し、非常用発電機により72時間の連続運転が可能な計画としました。災害時には非常用発電から多目的スペースへ電気を供給することにより、災害対策室としてネットワークを絶やすことなく迅速に業務を行うことが可能な計画とし、「災害時の事業継続性」を確保しました。
*7 制震構造 …建物の柱梁に”制振装置”を設け、地震エネルギーを”制振装置”が吸収することで、建物の揺れや柱梁の損傷を抑制する構造。
*8 Ⅰ類 …国土交通省『官庁施設の総合耐震・対津波計画基準』で定められた、大地震後に補修せず建物を使用でき、人命の安全と十分な機能を確保する耐震安全性の目標レベル。
常時は社員の憩いの場、災害時は災害対策室として運用される多目的スペース
屋上には太陽光パネルを設置。増設用スペースも確保した。
今後への期待と展望
本プロジェクトは、2021年から2024年の期間にかけて、コロナ禍を経て社会の要請が目まぐるしく変化する中で計画されました。従来の「働く場所の選択ができることの利便性」が注目されていた「新しい働き方」とは異なり、本プロジェクトではリモートワークによるコミュニケーション不足の課題を解決するため、良好な環境づくりに重点を置いています。さらに、三井住友海上の中長期戦略である「ネットゼロ」の思想を実現するため、各種省エネ施策を導入しました。これらの環境づくりや各種省エネ施策といった取り組みは、比較的自由な平面プランを構築できるオフィスビルというビルディングタイプにおいて、利用者の使い勝手を照らし合わせながら中長期的な目標を明確化し、適切な空間をつくるために非常に重要であると考えます。そのため、今回のように実際の利用者に対してワークショップやアンケートを実施し、設計に反映させる手法は非常に重要であり、他用途を含めた設計手法のモデルケースとなる可能性があります。2024年1月1日北陸地方を震源とする能登半島地震がありました。現場は上棟したばかりでしたが、全く損傷はありませんでした。新金沢ビルは、災害時に地域の皆様の復興の「灯」として、業務を継続し続けなければならない施設です。「レジリエントでサステナブルなビル」として、平常時でも災害時でも利用者の利便性を保ち、三井住友海上の成長を支え続けることをめざしています。このビルは金沢の振興地に風格と潤いをもたらし、未来にわたって持続可能なオフィスビルとして愛され続けることを期待しています。
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