NTTファシリティーズ
Case Studyインタビュー
2021年10月6日

中東と日本を「つなぐ」建築
ドバイ万博日本館設計チームの想い(後編)

・本記事は、下記WEBサイトからの転載となります。
・記事制作:株式会社電通ライブ   
 (ライター:松山 響/撮影:賀地 マコト)

アラブ首長国連邦ドバイで2021年10月1日〜2022年3月31日にかけて開催される「2020年ドバイ国際博覧会」(以下、ドバイ万博)。

「日本館」の建築設計チームに建築に込めた想いをお聞きした前編に引き続き、永山祐子建築設計(デザインアーキテクト)の永山祐子氏、NTTファシリティーズ(マスターアーキテクト・意匠設計)の小清水一馬氏、Arup(構造・設備・ファサードエンジニアリング)の菅健太郎氏、電通ライブ(総合プロデュース)の關本丹青が、コロナ禍での建築や今回のプロジェクトで得られた学び、今後に向けた意気込みを語り合いました。

お互いに知恵を持ち寄り、ワンチームで課題解決に挑む

―今回は複数の組織が協働するプロジェクトでしたが、建築設計チームの日々のコミュニケーションはどのように行っていたのでしょうか?

關本:毎週定例会を開催していたのですが、ドバイをはじめとする関係各所との調整事項は多岐にわたるため、毎日メールや電話、時には個別の打ち合わせをセッティングして、かなり濃密にやりとりを重ねました。この数年間ずっと合宿していたような気分です(笑)。

小清水:日々、目まぐるしく状況が変わるからこそ、リアルタイムで情報共有と調整を行うこと、そのスピード感が求められる仕事だったと思います。

菅:大きな調整事項が発生するたびに、NTTファシリティーズがプランニングやスケジュールを立て直して、調整できるところを検討してくれましたよね。組織力や機動力に助けられたことが何度もありました。

小清水:乗り越えなければならない課題はたくさんありましたが、それぞれ皆さんが前向きに議論し課題解決に向けて取り組むことで、チームの結束やパワーも高まったように思います。

永山:大きなプロジェクトでスケジュールもタイト、調整しなければならないことも大量に発生するからこそ、それぞれ役割分担がありながらも、あまり立場にとらわれず知恵を持ち寄り、ワンチームで問題解決に取り組むことが大切だと思いました。

關本:やはり、全方位的な信頼関係を構築しないと成立しない仕事だと改めて感じます。信頼関係があるからこそ、お互いの立場が違う中でもフラットに意見を言い合えて、建設的な議論を重ねることができたと思います。

信頼関係があったからこそ、コロナ禍のデジタルシフトもスムーズに

―今回は新型コロナウイルス感染症の影響で、約1年間の延期を経ての開催となりました。コロナ禍での作業はいかがでしたか?

關本:それまでは毎月ドバイに足を運んでいたのですが、コロナ禍で現地に行くことができなくなりました。それでも施工は続くので、オンラインチャットツールや3Dデータを介してドバイ側とやりとりを続けました。すでに現地のメンバーとは頻繁に顔を合わせて信頼関係が構築できていたので、オンラインのコミュニケーションにもスムーズに移行できました。

小清水:私も現場に行けない状況でプロジェクトを進めることは初めての経験でした。その中でも、WEB上での情報管理システムの導入や、完了検査のリモート実施など、デジタルツールをうまく活用しながら進めることができたと思います。

360度カメラを用いたリモート検査システム等を活用し、フルリモートでの竣工検査を実施

―完成を迎えた時は、どのような心境でしたか?

永山:このメンバーで完成後に現地に赴いたのはまだ私だけなのですが、日本で思い描いていた姿がディティールに至るまでそのまま再現されていることに、シンプルに感動しました。しかも海外で、現地に行けない環境の中で実現できたのは本当に奇跡的なことだなと。

菅:写真を見て、その完成度の高さに「本当にパースの通りにできたんだ」と驚きました。ドバイのメンバーからも「アメージング!」という感想が続々と届いています(笑)。そういった反響があると、頑張って良かったなと思いますね。バーチャルが浸透しつつある世の中ですが、物理空間を作ることの価値を実現することができた気がします。

關本:素敵な写真でしたよね。台形の敷地に二等辺三角形の建物を建てたことで、引きで写真が撮れます。SNSの時代に、日本館が世の中にどう発信されていくのか、PRも意識した建築を実現できたことは大きなポイントだと思います。

ライトアップされた日本館。ファサードの陰影が水盤に映り込む(2020年ドバイ国際博覧会日本館 提供)

日本館 ファサード(2020年ドバイ国際博覧会日本館 提供)

小清水:スマホがあれば何でも情報が手に入る世の中ですが、菅さんが「物理空間を作ることの価値」とおっしゃるように、やはり実空間での体験や感動は、いつまでも心に深く刻まれると思います。それが万博の醍醐味、ひいては建築空間そのものの価値だと思うので、ぜひ来場される皆さんに、実空間でしか得られない体験をしていただけると嬉しいです。

關本:コロナ禍でオンラインやデジタルシフトが加速していますが、その場にいるからこそ得られる感動はいつの時代も残り続けると思います。そのような感動を体感できる建物になったと自負しているので、現地に行ける方はぜひ足を運んでいただきたいです。

蓄積したナレッジやノウハウを、2025年に紡ぐ

―今回のプロジェクトを通して得られた学びを、今後どのようなことに生かしていきたいでしょうか?

菅:今回は日本の技術をドバイに持ち込む形でしたが、次回の大阪・関西万博は世界中の技術が日本に入ってきます。当然ながら、文化や慣習のすり合わせが必要になりますし、建築なら工法や役割分担の考え方、法律面の違いも出てきます。この機会に日本の建築業界全体が世界中のナレッジやノウハウを吸収してグローバルマーケットにも対応できるように変わっていくといいなと思います。

小清水:万博は実空間でのイベントですが、今後はデジタルなバーチャル空間との掛け合わせが大きなポイントになることは間違いありません。デジタルツインの世界においても、今回の日本館のように日本らしい価値観に基づき、新たな出会いや感動が生まれる空間を紡いでいきたいと思います。

永山:今回、プロジェクトに携わりながら「万博って何だろう?」と何度も議論を重ねました。新しい技術や文化を共有することは大切ですが、同時にテーマ性も問われる時代です。世の中の大きな変革を経て、きっと次の大阪・関西万博は新しいカタチが問われるのかなと思っています。

關本:確かに今後、万博の意義は変わってくるかもしれません。それでも、文化的背景が異なる人たちが交わり、時には試行錯誤しながら、感動する場を作ることになるのは変わらないので、それを2025年に体感できる日本は恵まれていると思います。私たちも今回の経験を紡いで、その場に携われたら嬉しいですね。

プロフィール
  • 永山 祐子
    永山 祐子(ながやま ゆうこ)
    永山祐子建築設計 代表
    1975年生まれ。昭和女子大学生活美術科卒業後、青木淳建築計画事務所に入社。2002年、永山祐子建築設計設立。
    永山裕子建設設計 >
  • 小清水 一馬
    小清水 一馬(こしみず かずま)
    NTTファシリティーズ カスタマーソリューション本部 コンサルティング室 主査
    1987年生まれ。首都大学東京大学院 都市環境科学研究科 建築学域 修士課程修了後、NTTファシリティーズに入社。
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  • 菅 健太郎
    菅 健太郎(すが けんたろう)
    Arup 東京オフィス 環境設備リーダー
    1977年生まれ。東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 修士課程修了後、久米設計に入社。2009年からArupに勤務。
    Arup >
  • 關本 丹青
    關本 丹青(せきもと みお)
    電通ライブ クリエーティブユニット 2025大阪・関西EXPO部
    1977年生まれ。東京工業大学大学院 理工学研究科 建築学専攻 修士課程修了後、アトリエ・ワンに入社。2013年から電通、2017年から電通ライブに勤務。
    電通ライブ >

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