NTTファシリティーズ
CONVERSATIONトップ対談
2019年1月31日

古河電気工業株式会社様
脱炭素 ――
社会貢献による戦略的事業の展開

 脱炭素社会実現に向けた取り組みが世界的に加速しています。持続可能な社会や人類への貢献という視点に加え,企業・事業価値向上および競争力強化につながるとの認識が世界的な潮流となっています。
 こうした中,1884(明治17)年の創業以来134年にわたり営々と技術革新に取り組まれ,いち早く脱炭素を重要な経営課題と捉え,様々な取り組みを展開されている古河電気工業株式会社(以下,古河電工)の小林敬一社長に,当社社長の一法師が伺います。

1906年の水力発電開始に端を発する「真に豊かで持続可能な社会の実現」への取り組み

一法師 世界に比べて日本は脱炭素の取り組みが全体的に遅れていると言われていますが,古河電工では,軽量化製品等の供給によるCO2排出量削減や水力発電による再生可能エネルギーの積極的な活用など,社会に先駆けた取り組みを展開していらっしゃいます。まず,その概要をお聞かせください。

小林 当社には,「世紀を超えて培ってきた素材力を核として,絶え間ない技術革新により,真に豊かで持続可能な社会の実現に貢献すること」という古河電工グループの基本理念があります。これまで事業を通じて,地球環境や健全な社会を守りつつ,豊かでサステナブルな社会の実現を目指してきました。近年では特に,当社自身が将来にわたって持続的に成長するためにも,ESG(環境・社会・ガバナンス)の取り組みを強化しています。例えば環境に関しては,地球温暖化防止への取り組みとして,CO2排出量削減を目的に再生可能エネルギー利用の拡大を進めており,日光事業所では1906(明治39)年に中禅寺湖から流れる水を活用し,今も続けている水力発電によって,電力を100%賄っています。
 2018年度中には,太陽光発電設備を銅箔事業部門に設置し,使用電力の一部を再生可能エネルギーに置き換える予定です。また,三重事業所においても,2019年度より銅を溶かす炉の燃料であるLPG(ブタン)をエネルギー効率が高くCO2排出量の少ないLNG(メタン)に切り替える,いわゆるエネルギー転換を実施します。さらには,自動車用アルミワイヤーハーネスをはじめとする軽量化製品等の供給という面からも,CO2排出量削減に向けた取り組みを,これまで以上に精力的に進めていく考えです。

小林敬一 氏
2017年4月に代表取締役社長就任。世界初となるシャフト炉での「電子管用無酸素銅」の矩形鋳塊製造技術の確立や,構造改革を進めながら積極的な投資により製品ミックスを大きく変えるなど多様なキャリアを持つ。「情熱,執念,誇り」をスローガンに,古河電工ブランドの強化を推進している。

一法師 水力発電を100年以上も前から行っているというのは歴史も感じますし,素晴らしいですね。最近では,2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)を意識した取り組みも,すでにスタートさせているとお聞きしていますが。

小林 まだ検討の緒についたばかりですが,SDGsの目標のうち,7番の「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(持続可能な近代的エネルギーへのアクセス確保),9番の「産業と技術革新の基盤をつくろう」(情報通信等を含む強靭なインフラ構築),12番の「つくる責任つかう責任」(持続可能な生産消費形態の確保)などは,当社グループの事業や主要製品を通じて,地球規模の環境・社会問題の解決に大きく貢献できる分野だと認識しています。

「お客様の役に立つ,古河の時代が来た」

一法師 脱炭素については,これまで日本ではどちらかというとコストであると意識されてきましたが,最近ではビジネスチャンス,競争力の強化,差別化の要素といった観点から語られることが多くなり,各企業の盛り上がりも顕著になっています。こうした流れの変化については,どのようにお考えですか。

小林 当社は134年にわたり,「エネルギー・情報・熱」を「伝える・繋ぐ・蓄える」技術で人の健康や社会基盤を守り,成長を支えるために製品・サービスを生み出してきました。そういう意味では,まさにこうした技術力と経験値を最大限に生かし,今後の社会変革や技術革新に大きく貢献できる時代がやって来たと自負しています。
 例えば,洋上風力向け発電用ケーブル,直流給電コネクタ,フライホイール蓄電システムなど,当社が蓄積してきたこれらの「伝える,繋ぐ,蓄える」というエネルギーマネジメントの基本要素を組み合わせて,今後の再生可能エネルギーの急速な普及や,地産地消型や離島型など地域の特性に対応できる柔軟なエネルギーインフラの実現に貢献していけると考えています。
 社会に役立つことをするというのは,当社の創設者である古河市兵衛氏が特に強調していた経営哲学なので,私は将来にわたっていろいろな形でESG経営を推進し,このDNAを守っていきたいと考えています。
 実際のところ,当社の生産物はサプライチェーンの上流に位置しているというのが最大の特徴です。ですから私は,今お話ししたような当社の活動は間違いなくお客様の役に立っていると考えていますし,社員にもよく言っているのです。「お客様の役に立つ,古河の時代が来た」と(笑)。

環境調和製品の供給と気候変動対策

一法師 事業に役立つ形で脱炭素の取り組みを推進され,なおかつ社会にも貢献できるというのは本当に素晴らしいことであり,我々も見習わなければと思います。脱炭素の観点から活動の内容をもう少し具体的に紹介していただけますか。

小林 大きく分けて2つあり,1つが環境調和製品をしっかりリリースしていくということ。もう1つが,気候変動対策です。
 当社では,原料・部品の購買,製造,仕様,流通,廃棄の各段階において,従来製品よりも環境面で改善が図られている製品を環境調和製品と定義して,全製品に占める同製品の割合を拡大するために,売上高比率ベースで目標を定め,進歩・成果を確認しています。2017年度の環境調和製品の単年売上高比率は,当社で51%,グループ連結で33%と毎年その比率を伸ばしてきています。今後も,世界市場で気候変動対策要求が厳しい自動車分野の電動化規制の強化を踏まえ,各製品群の拡販や貢献製品種の拡大に努め,製品を通じた世界環境問題への取り組みを拡大していく考えです。
 一方の気候変動対策については,さらに大きく2つに分かれていて,1つが再生可能エネルギーの利用,もう1つが工場での省エネの取り組みです。
 銅箔事業部門は高速通信用回路や自動車向けリチウムイオンバッテリーに使用される電解銅箔を主要製造品目としており,この部門で使用する電力の一部をクリーンエネルギーに置き換えることで,年間約300トンのCO2削減を見込んでいます。加えて,三重事業所でのLPGからLNGへの切り替えで見込まれるCO2>削減量は年間約4,000トンで,これは三重事業所が排出しているCO2の20%に相当します。
 工場での省エネの取り組みについてですが,当社グループのエネルギー利用割合は,燃料が約2割,電気が約8割となっていまして,高効率機器への更新や生産工程の効率化などの取り組みを継続することで,エネルギー消費原単位の削減は,省エネ法の努力目標である過去5年間の削減率平均1%以上を達成しています。
 こうした活動などから,当社は2014年度から経済産業省が実施している省エネへの取り組みの努力を表す「事業者クラス分け評価制度」で,4段階評価の最高位となるSクラスの評価を2年連続で受けることができました。

AI活用での人材育成とオープンイノベーション

一法師 今後の社会変革や技術革新に貢献していくためには,自社の人財育成と共に,社外との連携によるオープンイノベーションということも必要と思われます。その点古河電工では,エンジニアの育成や製品の品質向上に最先端のIoTやAIの導入を積極的に進めているだけでなく,融合領域での新たな技術革新を生み出すために,オープンイノベーションにも力を入れておられますね。

小林 IoTやAIへの取り組みでは,IoT技術による製造の可視化や,AI技術による外観検査の自動化,それらのデータをリンクさせることによる品質改善,信頼性向上などに取り組んでいます。
 具体的な取り組み事例としては,製品ミックスの改善や各種改善によって大きく利益を伸ばした銅箔事業部門の例があります。この部門では製造工程上の管理ポイントが多く,発生した現象の解析に非常に多くの時間を掛けていました。そこでIoTやAIの技術を取り入れ,各種工程の製造データと検査工程の品質データをリンクさせ,短時間でのデータ解析が可能になりました。その結果,銅箔の利益構造が大きく変わったのです。
 オープンイノベーションについては,2016年8月に当社のコア技術を展示し,来場者とその場で討議・共創を生み出す場所として,Fun Lab とネーミングしたオープンラボを開設しました。これまで社外約240組,社内とグループ会社合わせて約70組にお越しいただき,来場者数は累計1,000名を突破しまして,10件以上の共創テーマの創出が行われています。
 また今年の2月には,当社の「エネルギー・情報・熱」を「伝える・繋ぐ・蓄える」技術のベースになっている「メタル」「ポリマー」「フォトニクス」「高周波」という4つのコア技術について,より深い技術を学ばないといけないという思いと,大学との融合による新しい発想での新商品,ものづくり力の向上を期待して,東京大学工学系研究科に社会連携講座を開講しました。8月には,当社の技術をより広く世界に展開していくために,アメリカのシリコンバレーに事務所を開設し,数多くのスタートアップ企業や大学などと連携して,社会課題の解決につながる新事業創出を目指すという戦略的な取り組みも実施しています。
 Fun Lab には,NTTファシリティーズの研究開発部の方々もお越しくださり,非常にいいお付き合いをさせていただいています。

一法師 当社としていろいろ協力させていただいている部分もあるのですが,B2B2Xのコラボレーションを推進しているNTTグループにあって,当社はまだ少し遅れているかなと感じています。

小林 そんなことないです,全然。当社の生産技術部が一緒になって検討させていただくなど,大変お世話になっています。

古河日光発電株式会社の水力発電[細尾発電所]

当社が設計を担当した古河AS株式会社 本社ビル

原価低減推進に役立ったファシリティマネジメントという思想

一法師 では最後に,当社グループは「『Smart & Safety』で持続可能な社会の実現に貢献し続ける」が企業の使命で,古河電工グループの基本理念と非常に相通じるものがあると私は感じているのですが,当社に対するご意見ご要望などあれば,忌憚なくお話しいただきたいと思います。

小林 私も両社には非常に近い関係性があると思っていますし,高電圧直流(HVDC)給電システム用コネクタの共同開発や,知的生産性・創造性を高めるワークプレイスの実現に向けた古河AS株式会社 本社ビル建設など,すでにいくつものプロジェクトでお世話になり,大変感謝いたしております。
 そして何より,私はファシリティマネジメントという発想,というか思想の重要性にいち早く着目された先見性に敬意を表したいと思います。
 実は私,当社グループの原価低減推進部長として様々な改善に携わっていた時期,御社が制作編集に関わっておられた『ファシリティマネジメント・ガイドブック』という本を買って,必死に勉強し大変役に立った経験があるのです。分厚い本で,お値段も大変よろしく高いなぁと思ったものですが(笑),「ファシリティをマネジメントする」という,当時の日本では知る人がほとんどいなかった考え方には,本当にびっくりしました。

一法師 あの本は,当社がNTT時代からコンセプトづくりに関わっていたものです。全国に数多くある通信設備を急に建て替える,というわけにはいかないので,建物のライフサイクルを全体的にみてコストが一番安くなるよう,中長期的な観点から永続的にマネジメントするという考え方がベースにあるんですね。その伝統を受け継ぎ,FMは今でも当社のビジネスの中核を担っています。

小林 NTTファシリティーズが進めてこられたいろいろな仕事を後ろから拝見していると,我々はまだまだだなと痛感します。今後も両社の技術を交えて新しい価値・創造を生み出せるパートナーとして認めていただけるよう努力してまいりますので,より一層のご支援ご協力,そしてご指導を賜りたいと思います。

一法師 こちらこそよろしくお願いいたします。本日は大変ありがとうございました。

古河電気工業株式会社 概要
 「世紀を超えて培ってきた素材力を核として,絶え間ない技術革新により,真に豊かで持続可能な社会の実現に貢献すること」を基本理念に,1884年の創業から今日まで134年にわたり,常に社会・産業の基盤技術と共に歩んできた。精銅・電線から始まった事業領域は,時代のニーズに応え続ける中で拡大し,現在では情報通信,エネルギー,自動車,電子部品,建設・建築,新事業・開発品の6つの事業分野で多岐にわたる製品を世界中で展開している。
 また,自動車用アルミワイヤーハーネスをはじめとした軽量化製品等の供給によるCO2排出量削減,送電ロスを大きく低減する超電導ケーブルの開発,グループ会社の古河日光発電株式会社の水力発電による再生可能エネルギー活用,エネルギー収支を踏まえた省エネルギーや太陽光発電利用の推進など,諸活動を通じて地球温暖化抑止に積極的に取り組んでいる。

アルミワイヤーハーネス

超電導ケーブル


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