NTTファシリティーズ
CONVERSATIONトップ対談
2019年2月28日

株式会社リコー様,イオン株式会社様
ビジネスチャンス『脱炭素』を日本企業は
いかに捉えるか

 低炭素からさらに踏み込んだ脱炭素は,企業にとってむしろビジネスチャンス――この発想の転換が世界的潮流となっている中,環境経営で諸外国に遅れをとっているといわれる日本企業は,どのような取り組みに力を入れていけば良いのか。Japan-CLP共同代表を務めるリコー執行役員サステナビリティ推進本部長の加藤茂夫氏,イオン執行役(環境・社会貢献・PR・IR担当)の三宅香氏に,当社社長の一法師が伺います。

脱炭素に向けたコミットメントと具体的な第一歩

一法師 脱炭素社会の実現に向け,地球温暖化対策の舵が切られています。ところが世界が脱炭素に向けて大きく変化していても,日本企業の場合,我々もそうですが,分かってはいてもコストの問題などがあって,アクションを起こすのがなかなか難しい。
 こうした中イオンは今年3月,2050年までに店舗でのCO2排出量をゼロにする「脱炭素ビジョン2050」を発表されています。加えて,事業運営を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が参加する国際ビジネスイニシアチブ「RE100」*1に加盟するなど,非常に進んだ取り組みを展開していらっしゃいます。

三宅 進んだというのは,ちょっと語弊がありまして(笑)。2050年のビジョンのほうは,日本全体の消費電力量の約1%を使用している企業グループとしての決意の表明ですし,今はまだ中間目標の「2030年までに2010年比35%削減」の達成に向けて,イオングループ全体で準備を進めている段階です。RE100に関しても,脱炭素を宣言することが一番大切という考え方です。ですから,決して進んでいるわけではないのですね。

一法師 しかしコミットメントをして具体的に第一歩を踏み出されたのは,先進的といってもいいのではないでしょうか。脱炭素を宣言するというのは,なかなかできることではない気がします。

三宅 日本ではできる目標を立てて,それに向かって粛々とやっていくというのが普通で,できそうにないことはあまり言いませんよね。

一法師 そうですね。

三宅 ところが2017年11月にボンで開催されたCOP23(気候変動枠組条約第23回締約国会議)に参加して本当にびっくりしたのですが,海外では考え方が日本とはまったく違っていたのです。COP23では,2016年11月に発効したパリ協定の実施指針に関する議論がされましたが,中でも一番衝撃的だったのは,海外の方々から脱炭素に向かうか,向かわないかの決意を迫られたことです。CO2排出量をもう少し減らすとか,どれくらいなら減らせるといった,そんなレベルの話ではなかったのです。

脱炭素への取り組みはオポチュニティ

一法師 報道などでも言われていることですが,日本はまだ,世界に比べて脱炭素の取り組みが全体的に遅れているようです。そんな中で,リコーは日本企業として初めてRE100に加盟された。これも相当に勇気のいる素晴らしい取り組みだと思います。

加藤 今,三宅さんが言われたように,我々リコーもかなりグローバルな影響を受けています。1997年12月に京都市で開かれ「京都議定書」が採択されたCOP3のあたりから,リコーでは環境保全の施策から一歩踏み込んで,「環境経営」ということを唱え始めました。環境保全に取り組むことで,同時に利益の創出あるいは事業の成長を実現するという考え方で,「環境保全=コストアップ」という単純な話ではないことを表明し,実行に移したのです。
 確かに,やってみるとコストアップどころかコストダウンにつながるものがありました。なるべくエネルギーを使わないように,100mの生産ラインを80mにできないか,50mにできないか,ベルトコンベアーをほかの動力で回せないかといろいろ工夫する。そうすることで,コスト削減になりプロセス改革にもなる。歩留まりがよくなる。品質向上にもつながる。つまり,事業へのいろいろな貢献が同時に達成できる――そういう話がずっと社内にあって,環境経営を実践してきたのです。
 そして2015年12月にパリで開催され「パリ協定」が採択されたCOP21のときに大きな転機が訪れました。というのも,COP21に出て私は心底驚いたのですが,海外では「脱炭素に取り組むことが,新たなビジネスモデル,新たなインフラの構築につながる。要はビジネスのオポチュニティ(機会),つまりチャンスである」という考え方が当たり前になっていたのです。
 それで私は「これは,うかうかしていられない。早く脱炭素に本気で取り組まないと大変なことになる」と思い,日本に戻ってから情報発信に努めました。ところが当時の日本国内では,CO2削減はコストアップになるという考え方がまだ主流でしたし,環境経営を実践していたリコー社内でさえ,「脱炭素? 加藤は一体何を言っているんだ」と。

三宅 私の場合も似たようなものでした。イオンというのは割と変わった会社で,「何年後かのあるべき姿」を想定し,それに向かって何かをしていくという考え方が社内全体に浸透しています。ですからCOP23から戻って,経営会議の席で言ったのです,「これからのイオンのあるべき姿は,脱炭素しかありません」と。すると一瞬,その場がシーンとなって。そればかりか2050年のビジョンのアイデアを持ち出しても,最初は「いやいや三宅さん,いくらなんでもそんな先のことは決められないよ」みたいな受け止め方だったのです。
 それでも何度もしっかり説明していくと「そうか,あるべき姿はそこなんだ」と理解してもらえました。さらに一歩話を進めて「脱炭素という覚悟を会社がするかどうか,そこだけです」という話をしたら「それなら覚悟をするしかないね」ということで,会社全体で出していいというOKを頂いたというのが脱炭素を宣言するまでの経緯です。

一法師 先ほど,まだ準備段階と言われましたが,具体的にはどのような状況なのでしょうか。

三宅 脱炭素とは言っても,まずは省力化しかありませんから,省力化・省エネの部分でイオンは昔から結構省エネに力を入れており,規模を成長させながら電力使用について年1%以上削減というのを何年も前からやってきているので,それを継続するということ。
 それと並行して取り組んでいるのが意識の問題。300あるグループ会社のうち約150社にCO2排出量削減の年間目標を立ててもらい,キープトラック(経過を追う)をしてもらう。冷蔵庫も買い替えなくてはいけない。すでにLED化している部分も必要であれば買い替えるとか。そういう投資計画まで落とし込んでいくことを,これから1年かけてグループ会社にやって頂くというフェーズです。ここからが結構大変になると思います。

消費者の皆さんと一緒に,日本の空気を変えていきたい
 

イオン株式会社 執行役/環境・社会貢献・PR・IR担当
三宅 香 氏

脱炭素への取り組みが別の社会課題の解決にも

一法師 現在,当社ではSDGs*2を視野に入れて,お客様に省エネの技術・サービス・ソリューション,太陽光を中核とする再エネなどを提供する事業を展開していますが,我々が最終的に目指しているのはスマートシティやコンパクトシティといった形で,より効率のいい社会をつくることです。そこではいろいろな技術を様々な形でコラボレーションして,イノベーションを起こしていく必要があると考えています。
 そういう意味で,イオンやリコーをはじめとして様々な企業にご協力願うところもあると思います。イオンと同じく日本全体の消費電力量のうちの約1%を使用しているNTTグループの一員として,まだまだ学ぶべきことも多い気がしています。

三宅 実は今,特に地方では,エネルギーの地産地消ということが言われ,過疎地になればなるほど土地はあるけれども,そんなに電気は使い切れないという話があります。だったらイオンの店舗のような商業施設も一緒につくり,使い切れない再エネは店舗や近隣の住宅で合わせて使うようにすれば,需給バランスの異なる電力を効率的に使うことができ,地域の活性化にもつながる。そんな話を頂くことが増えているのです。

加藤 脱炭素の取り組みが,別の社会課題の解決にもなるわけですね。

三宅 そうなのです。ですから,地域全体の活性化のようなことができれば楽しいなと。幸い様々な企業からお声がけを頂いていますし,外部の方々の力をお借りしながら,1つひとつやっていきたいと思っています。

一法師 太陽光を中核とする再エネをグリーン電力として本格的に提供することで,企業の脱炭素化ニーズに応えていこうとしている当社としても,提案に伺わないと。

三宅 お待ちしております。ぜひよろしくお願いします。

脱炭素に向けたティッピングポイント

一法師 お話を伺っていると,日本の脱炭素は海外に比べて遅れているとはいえ,かなり盛り上がりを見せてきている感じですね。最近では,RE100だけでなくEV100*3も注目を集めている。こうした動きをさらに加速するには何が大事だと思われますか。

三宅 COP23に行ったときに,実はCOP21で取りまとめ役を務められた前国連気候変動枠組条約事務局長のクリスティアナ・フィゲレスさんとお話する機会があったのですが,そのとき伺った言葉が非常に印象に残っています。それは何かというと,「ティッピングポイントを越えた」,つまり「山のてっぺんを越えた」という言い方をされたのです。登りからティッピングポイントに来て,それを越えた瞬間今度は下りで,スピードがついて速くなっていく。世界の中の脱炭素に向けた動きが,そういう一瞬を越えた感じがあるとおっしゃったのです。
 日本でそうなるには,1つはやはり,消費者全体の意識が大きいと思います。特に私たちは消費者を相手にB2Cのビジネスをして,お客様との接点が日々のベースにありますから,お客様と一緒に空気を変えていくみたいなことができたらな,というのが小売企業から見たときの思いとしてあります。

加藤 COP21以降,少なくとも私はエネルギー会社まで含めて世界は完全に脱炭素の方向にシフトしているのは間違いないと考えています。このまま日本がウエイト・アンド・シー(様子見)みたいな状態のままでいると,グローバルな流れに乗り遅れる,そして世界のバリューチェーン,サプライチェーンからはじき出されてしまうのではないでしょうか。覚悟を決めて本気で脱炭素に取り組むか否かが,パートナーシップやサプライチェーンの一員に加わるということの条件になっているということを肌で感じています。

一法師 最近では,ESG*4ということが言われ,それが企業への投資の前提条件になってきているという動きも,世界的な潮流になっています。

加藤 その辺の感覚が日本ではまだまだですから,早く社会に浸透させるようにしないと。

エネルギー会社まで含めて,世界は完全に脱炭素に向かっている
 

株式会社リコー 執行役員/サステナビリティ推進本部長
日本気候リーダーズ・パートナーシップ 共同代表
加藤 茂夫 氏

脱炭素で日本の消費電力量の2%分のCO2排出量をゼロに

一法師 こうした中,持続可能な脱炭素社会の実現に寄与するJapan-CLPの活動がスタートし,イオンもリコーも設立メンバーとして精力的に活動されている。特に,加藤さんはJapan-CLPの共同代表も務めておられる。日本における脱炭素への取り組みの今後について,どのようにみていますか。

加藤 Japan-CLPは,2009年7月に8社でスタートした日本独自の企業グループです。環境問題が下火になって一時期はメンバーが3社にまで減りましたが,2011年の東日本大震災の後に起きたエネルギー問題や,先ほどから話にでているCOPなどの影響もあり,今では賛助会員を含めて76社に加盟して頂いています(2018年6月現在)。
 Japan-CLPでは,環境経営,環境問題に取り組もうということで,当初からずっと公益財団法人のIGES(公益財団法人地球環境戦略研究機関)がバックについて,グローバルな様々な情報を収集し,シグナルを我々に定期的に送ってきてくれています。同じ思いを持って脱炭素に取り組む企業が集まって,様々な勉強会や対話を通して実践的に何をやるかという取り組みの話ができるということも大きな特徴だと思います。

三宅 最近は,これとこれを組み合わせればこんなことができるのではないかという,コラボレーションの話が割と個別にしやすくなっています。これからは,本当にビジネスフェーズの協議につながっていくという,そんな場になっていくのではないでしょうか。

加藤 脱炭素という大きな流れがあり,その中で企業はどうすればいいのかということを真剣に検討したくても,今まではそういうことを勉強できる場がなかった。だから,注目度も高まってきているのかなと思います。現在も,ほぼ毎日のようにJapan-CLPの活動内容や参加メリットに関していろいろな企業から問い合わせがあります。そういう意味では,ひょっとしたら日本もティッピングポイントに来ているのかなとも思います。

一法師 Japan-CLPがまず行動を起こしたことで,脱炭素はビジネスチャンスという見方が日本でも出てきているのだと思います。これは今までなかったことで,遅ればせながら当社も,今年3月にメンバー登録させて頂きました。

加藤 NTTファシリティーズに加わって頂けて,本当に心強く思っています。

三宅 イオンとしても,ぜひお力添えをお願いしたいです。イオンとNTTの両グループを合わせると,日本全体の消費電力量の2%ですから。

加藤 2%というのは,すごいですよね。

一法師 脱炭素で,その分のCO2排出量がゼロになる。確かにすごいし,これは大きいかもしれない。当社としても力を入れて頑張りたいと思っています。本日は,貴重なお話をありがとうございました。

日本の消費電力量の2%分のCO2排出量がゼロになる。これは,確かにすごい
 

NTTファシリティーズ 代表取締役社長
一法師 淳

  • *1 RE100:Renewable Energy 100%の頭文字をとって命名された。事業運営に必要な電力を100%再生可能エネルギーで調達することを目標に掲げる企業が加盟するイニシアチブ。加盟するためには100%達成年の宣言と,報告書による毎年の進捗状況の提出が求められる
  • *2 SDGs:温室効果ガス排出量の削減に取り組む国際環境NGOのクライメイト・グループ(The Climate Group)が,2017年9月に発足した国際ビジネスイニシアチブ。企業によるEV(電気自動車)の使用や環境整備促進を目指す
  • *3 EV100:企業を評価する際に,環境(Environment),社会(Social),企業統治(Governance)への取り組みが適切に行われているかどうかを重視するという投資方法
  • *4 ESG:企業が持続的に成長できるか否かを判断する指標として用いられる「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」の総称。ESG重視の動きは,企業の株主である機関投資家の間で急速に広まっており,従来型の財務情報だけでなくESGも考慮に入れる投資の意思決定手法は「ESG投資」と呼ばれる
日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan Climate Leaders’ Partnership : Japan-CLP)
について

日本気候リーダーズ・パートナーシップ(Japan-CLP)は,持続可能な脱炭素社会の実現には産業界が健全な危機感を持ち,積極的な行動を開始すべきであるという認識の下に,2009年7月に設立した日本独自の企業グループです。
持続可能な脱炭素社会への移行に先陣を切ることを自社にとってのビジネスチャンス,また次なる発展の機会と捉え,政策立案者,産業界,市民などとの対話の場を設け,日本やアジアを中心とした活動の展開を目指します。
Japan-CLPの事務局は,公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES:アイジェス)内にあり,メンバー企業は,アスクル,イオン,NTTファシリティーズ,エンビプロ・ホールディングス,オリックス,キッコーマン,佐川急便,自然電力,新日本有限責任監査法人,積水ハウス,大和ハウス工業,DOWAエコシステム,戸田建設,富士通,村田製作所,LIXILグループ,リコーの17社に賛助会員を含めた76社が加盟しています(2018年6月現在)。

目的

1. 脱炭素化を経済活動の前提と捉え,持続可能な脱炭素社会の実現を目指す
2. 持続可能な脱炭素社会に向けた共通のビジョンを描き,参加企業が自らのコミットメントを掲げ,率先して実行する
3. 社会の変化を加速するために積極的なメッセージを発信し,アジアを中心に活動する

持続可能な脱炭素社会に向けて企業がすべきこと………

Japan-CLPのメンバー企業は, 次の7項目が重要であると捉え, 各社が独自のコミットメントを掲げながら率先して実行していくことを約束します。

1 脱炭素化を重要な経営課題として位置づける
2 気候変動対策を戦略的に推進する
3 企業活動全般の積極的な情報開示を行う
4 社員参加により展開する具体策を講じる
5 魅力的な商品・サービスにより,お客様に働きかける
6 連携によってバリューチェーン全体の脱炭素化を図る
7 アジアをはじめとした国際的な議論に参加する

※本記事は2018年7月にNTTファシリティーズジャーナルに掲載されたものです。


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