NTTファシリティーズ
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2019年5月14日

産業のデジタル化がもたらす
日本創生の大チャンス

 社会が予測不能な急激な変化を見せる中,デジタルトランスフォーメーションと呼ばれる全産業のデジタル化が,日本経済発展の起爆剤になると期待されています。そのためには,企業はこれからどのような取り組みをしていけばいいのでしょうか。
2000年の創業以来,専業型データセンター事業のパイオニアとして,日本はもとより世界も視野に入れた包括的なITソリューションの提供を展開しながら,「日本のGDPを2030年には1,000兆円にする」という壮大な構想のシナリオを具体化するために,精力的に活動している株式会社ブロードバンドタワーの藤原洋社長に当社社長の一法師が伺います。

本質的かつ非連続的な時代の変化 デジタルトランスフォーメーション

一法師 現在IoTやAIの進展と共に世界中で進行中の第4次産業革命について,藤原社長は著書『全産業「デジタル化」時代の日本創生戦略』の中で「まさにデジタルトランスフォーメーション革命であり,日本創生の大チャンス」であると表現されています。まず,この革命のインパクトについてお聞かせ願えますか。

藤原 今進行している革命は,産業革命史に新たなページを刻む本質的かつ非連続的な時代の変化であり,私たちの生活や社会に大規模なインパクトを与えます。これは,全産業でデジタル化が進み工業社会から情報社会に移行するということであり,まさにデジタルトランスフォーメーション(以下,DX)であると私は捉えています。例えば欧米の先進諸国はすでに情報社会に移行していて,インターネットの商用化が始まった1994年と2014年のGDPを比較すると2倍から3倍に増えています。私が今一番注目しているイスラエルでは3.6倍も伸びています。ところが日本では,まだ情報社会への移行が起きておらず,先進諸国の後塵を拝し,GDPも500兆円くらいで止まったまま成長率が伸び悩んでいる状態です。
 逆にいえば日本は今,革命のマグマがいつ噴き出してもおかしくないくらいエネルギーが蓄積されている局面にあり,形勢逆転のチャンスは目前に迫っているといえます。ですから私は,第4次産業革命を日本創生の大チャンスと捉え,日本のGDPを2030年には1,000兆円にするという構想を打ち立て,その具体化に向け,国の情報通信審議会の委員や産学官連携の研究開発プロジェクトの幹事役なども積極的にお引き受けし活動しています。

一法師 NTTグループでも情報のデジタル化,IoT,AIといった社会的・技術的な潮流を活かしつつ様々な分野のサービス提供者の触媒役となってお客様のDXをサポートする取り組みを進めています。

藤原 実は私,NTTグループは見事だなと思っていまして(笑)。なぜかというと,NTTグループの場合,民営化で競争相手が現れアナログの電話事業の売り上げが大きく減少したにもかかわらず,それ以外の情報通信事業の売り上げは逆に大きく伸びています。こんな企業はほかにないわけであり完全にDXを実現されているといっても過言ではありません。
 ですから私は,ほかの産業でもDXが進めば,新しい需要やビジネスが生まれ伸び悩んでいるGDPは一気に成長すると見ています。早急に日本も情報社会への移行を進める必要があると考えており,NTTグループにおけるDXサポートの取り組みは必要不可欠であると考えています。

藤原 洋 氏
1996年,インターネット総合研究所(IRI)を設立,代表取締役所長に就任。グループ企業として株式会社ブロードバンドタワーなどを上場。2016年,テクニオン(イスラエル工科大学)に,研究センター「Hiroshi Fujiwara Cyber Security Research Center」を開設。2018年,IRIイスラエル法人をイスラエル・テルアビブ証券取引所に上場。IT業界を技術面から支えながら新たな変化に挑戦し続けている

新しいビジネスモデルが生まれる経営資源と情報システムの一体化

一法師 NTTグループのことを非常によく言っていただきありがとうございます。DXが進むことで新しい需要やビジネスが生まれるというのは,まさにご指摘のとおりだと思います。では,デジタル化をほかの産業にも広げていくためには,どうすればよいとお考えですか。

藤原 DXを分解すると3つのフェーズがあります。第1フェーズは業務ツールの一部をデジタル化し業務プロセスを強化,第2フェーズは業務そのものの一部をデジタル化,そして第3フェーズが業務全体をITにリプレースすること,つまりITが業務そのものになるということです。
 これまで情報通信産業以外は,業務フローとITが分離されていて情報システム部門が企業の中で主流になることはありませんでした。ですから,デジタル化の推進には,情報システムを扱う人が経営の中枢に座り,経営資源と情報システムが一体化するという変化が必要です。アメリカの企業などでは既にIoT,AIの進展で,CIO(最高情報責任者)と呼ばれる情報や情報技術に関する役員が登場していますね。この一体化により,新しいビジネスモデルも生まれてくると思います。
 その典型例が金融です。今やスマートフォンさえあれば店舗やATMがなくても決済や送金ができ,現金がなくても取引が可能という新しいビジネスモデルが登場しています。これにより,エンドユーザーのライフスタイルまで提案できるような業務全体の本格的なデジタル化が世界的に起きています。日本はまだちょっと遅れていてようやく政府がキャッシュレスという表現で旗を振り始めましたが,金融のデジタル化は明らかにキャッシュレスの流れをつくっていくと思います。

全産業デジタル化の起爆剤になり得るモノが対象の5Gサービス

一法師 DXの実現には,IoTやAIの普及に合わせた情報通信インフラの充実も欠かせないと思います。2020年から本格的にサービス提供が開始される5G(第5世代移動通信システム)についてはどのようにお考えですか。

藤原 従来の移動通信システムは,人が使う便利な端末として第1世代のアナログ,第2世代のデジタル,第3世代のW-CDMA,第4世代のLTEと連続的に進化してきました。ところが5Gは,自動車,建設機械,流通や物流の移動機械,監視カメラ,自動販売機など,様々な産業インフラの移動通信システムとして非連続的な進化を遂げていくと思います。4Gの約100倍の通信速度となる「超高速」に加え,1ミリ秒以下の「超低遅延」,1平方キロメートル内で100万台を同時に接続できる「超多地点接続」という3つの特徴を持つ5Gは,全産業のデジタル化の起爆剤にもなり得るまったく新しい仕様の移動通信インフラです。

一法師 4Gまでと違って,人ではなくモノが対象となり,機械同士が言葉ではなく数値のやり取りで話をするわけですね。

藤原 そうですね。

一法師 そうなると,今まで日本が諸外国に遅れを取っている原因の1つであった英語ですが,機械同士が数値でコミュニケーションを取ることになり,言葉の壁がなくなることで日本に形勢逆転のチャンスが生まれてくる,と。

藤原 5Gの主要なアプリケーションがIoTになるという意味では,まさにそうです。言語障壁がないので,日本企業がグローバルに事業展開するチャンスが広がります。特に,東京オリンピック・パラリンピックと大阪・関西万博が開催される2020年代は,たくさんの外国人がお見えになるので,日本にとってグローバル市場に打って出る絶好のチャンスです。

一法師 4Gから5Gへの移行のタイミングは,今までできなかったことが5Gならできるようになるということで,我々NTTグループにとっても1つのチャンスだと考えています。特に当社はコミュニティやシティ,ビルやターミナル,パークなどのスマート化を手掛けていますから,5GとIoTやAIを組み合わせたかたちで,省エネ,空調や照明の制御,安心・安全,セキュリティ,快適性,エンターテイメントといったいろいろなことを実現していきたいと思っています。ただ,その際にどう付加価値を高めるかが課題となっています。この点について,アドバイスをいただけますか。

藤原 5Gに関しては今,新周波数帯の割当に向けた検討が総務省の情報通信審議会で進められています。私も委員をしているのですが,エリアを限定して個別に免許を与える「ローカル5G免許」が議論されています。これが実現されれば,様々な建物や街のスマート化を手掛けておられるNTTファシリティーズにも非常に関係してくると思いますが,例えば5Gインフラ付きのビルやスタジアムあるいは地方の特定のエリアが実現することで,5Gの新しい価値を持った今までとはちょっと違ったビジネスチャンスが生まれてくるのではないでしょうか。

一法師 すごく心強いご指摘です。最初から5Gを取り込む形の設計にすることで,そこに住んでいる人や働く人,あるいは遊びに来る人にとっての付加価値が高まる,さらに5Gを生かした省エネ,セキュリティや災害に対する安心・安全も入れ込んでいければ,我々が目指すところに近くなる気がします。

株式会社ブロードバンドタワー 概要
 2000年に日本初の専業型インターネット・データセンター(iDC)として創業。国内有数のポータルサイトやショッピングモール等, 日本を代表するインターネットサービスを提供している企業を支える基盤として成長を続けている。またデータの集約拠点として, お客様への最適なソリューションの提供と付加価値の創造, そしてパイオニアとしての信頼と実績は多数の顧客から高い評価を得ている。
 様々な産業とITとの融合・活用による「産業のデジタル化」(デジタルトランスフォーメーション)がもたらす,あらゆる企業・組織の新世代事業の展開・発展を支援するため, 2018年8月に「新大手町サイト」を開設した。5G時代のインターネットインフラを支え, 「第4次産業革命」に向けた情報の交換拠点として情報通信産業の発展と成長に貢献している。また同社の経営理念である「自立・分散・協調」を視覚化した本社オフィスは「第52回 日本サインデザイン賞」銅賞を受賞している。
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5G時代を牽引するデータセンター「新大手町サイト」(当社が設計を担当)
Grow, Glad, Get Together, Global, Gloriousという意味が込められた「5G」というコンセプトを掲げた本社オフィス

労働力の減少はピンチではなくチャンス

一法師 5GとIoT,AIの浸透により,エッジコンピューティングの促進も予想されます。そうした状況下でのデータセンターの役割,使われ方などは,どのように変化していくと思われますか。

藤原 5G時代を迎えるこれからのデータセンターは,情報通信サービスの進化と激変するインターネット利用への対応が必要です。我々データセンター事業者としては,新しいデータセンターアーキテクチャーを考えなくてはいけません。超低遅延が要求されるアプリケーションの場合,クラウドコンピューティングだけでは完璧に対応できないため,エッジコンピューティングとのハイブリッドという流れが出てくるのではないかと想像しています。
 また,様々な産業でロボット化が起きるのもDXの1つです。何百ラック,何千ラックという集中型の大規模なデータセンターを都市部に構えるだけでなく,ロボットが活躍する様々な拠点で,プレハブ型やコンテナ型などの小規模分散型のエッジコンピューティングデータセンターが必要になってくるようにも思います。

一法師 5G時代になると,いろいろなタイプのデータセンターが必要になるということですね。

藤原 そうなのです。ですから,日本における労働力の減少はピンチではなくチャンスなのです。これまで人間が行ってきた仕事をデジタル化し,コンピューターやロボットに代替させることで,DXを進めることができますし,人手不足が深刻な外食産業などでもロボット化が進んでいくと思います。

市場の急速な伸びが期待できるグリーンエネルギー

一法師 では最後に,データセンターのグリーン化についてもお聞きしたいと思います。欧米諸国ではすでにデータセンターの完全グリーン化に向けて動きだしていますが,日本では採算性の問題もあり,まだそこまでは行けていないと思うのですが。

藤原 グリーン化は,企業にとって長期的なテーマではなく短期的なテーマになってくるでしょう。例えばRE100にしても,海外からそのような流れが出てきたのは非常に重要なことであり,将来的にはデータセンターのRE100対応などの検討が必要になると考えています。
 ただ,再生可能エネルギーは安定性に欠けるところがあるので,蓄電システムとの併用が必要になると思います。今はまだ蓄電コストが高いのですが,日本には素晴らしい技術がありますから,行政などが一緒になり,再生可能エネルギーに蓄電システムをプラスするかたちで系統内蓄電を進めて,原子力にも化石燃料にも依存しすぎないエネルギー社会をつくっていく必要があると思っています。世界はそこに向けてもっと早く動いていますから。

一法師 世界は本当に進んでいますよね。ただ日本でも,例えば当社ではグリーン電力供給ということで,太陽光などの再生可能エネルギーの設備を構築し,その電力を買っていただくサービスを始めているのですが,今はまだ引き合いレベルとはいえ,100社くらいから声をかけていただいております。企業のニーズは非常に高いですね。

藤原 でしょうね。ですから私は,再生可能エネルギーのFIT制度が終わることは,むしろチャンスだと思っています。売電による利益目的ではなく,純粋に市場原理が働き始め,再生可能エネルギー市場が急速に伸びてくると見ています。特にデータセンター事業者は,これからグリーンエネルギーの一番のユーザーになる可能性が高いと思います。

一法師 そうですね。IoTやAIの進展に合わせて省エネへの関心も高まりますから。

藤原 当社もデータセンター事業者として多くの電力を使うので,グリーン化は緊急の課題です。そのような取り組みで豊富な実績をお持ちのNTTファシリティーズには,ぜひご指導いただきたく存じます。

一法師 ご要望にお応えできるように頑張ってまいりたいと思います。本日は貴重なお話,誠にありがとうございました。

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5Gが導入されたスタジアムではこれまでとは異なるサービスが展開される (※画像はイメージです)

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