NTTファシリティーズ
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2020年6月1日

次世代建物「ZEB」が高める
環境性能と不動産価値

「脱炭素」が世界的な潮流になっている中,年間一次エネルギー消費量がゼロ以下となるZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現に向け,建築・設備両面における設計時の工夫や運用面での改善などの動きが見えてきています。今後さらにZEBを普及させていくためにはどのような取り組みをしていけばよいのでしょうか。社会に先駆けて「建築設備の視点からのZEBの発信」に取り組んでいるダイダン株式会社(以下,ダイダン)の藤澤一郎社長に当社社長の一法師が伺います。

ZEBリーディングオーナーとして先進的なZEB建設の推進

一法師 ダイダンは非常に幅広く環境対策をされていて,中でもSDGsの趣旨を具現化する技術として注目を集めているZEBについては,いち早く自社ビルで達成されるなど,トップランナーとして先進的な取り組みを進めておられます。

藤澤 当社は1903(明治36)年創業の総合建築設備会社で,大阪電灯会社(現 関西電力株式会社)より,電気工事委託会社として電灯取付,配線工事等を請け負ったのがスタートでした。環境対策には,おっしゃるとおり早くから取り組んでいまして,今のように地球温暖化の問題が注目される前から,省エネルギーというキーワードで様々な取り組みを進めてきました。建築設備は非常にエネルギーを消費する分野ですので,省エネやCO₂排出量削減は当社の社会的使命と考えていますし,技術開発のテーマにもなっています。
 現在SDGsへの貢献およびESG経営として,主に3つの分野で事業を推進しています。エネルギー問題としてZEBの普及,健康の提供として再生医療分野への挑戦,環境配慮の廃棄物削減としてフィルタの再生リユースの3つです。特に最先端エネルギー技術の導入・検証を行った2013年の技術研究所の新研究棟建設を手始めに,当社として初めてZEBに取り組み,ZEB Readyを達成した2016年の九州支社のスマートエネルギービル「エネフィス九州」の建設や,完全ZEBを実現した2019年の四国支店の「エネフィス四国」の建設を進めてきて,ZEBリーディングオーナーとして,当社の全面的なZEBへの取り組みを社外に発信することができたのではないかと思っています。

一法師 2013年というと,本当に早い時期から「建築設備という視点からのZEBの発信」に取り組まれてきたわけですね。

藤澤 本業そのものは建築設備工事ですので,エネルギー多消費に対する取り組みは日常のこととして行っていますが,その進化形であるZEBは今や,外に見える形で推進している3分野の中で1つの大きな柱になっています。

コスト削減と運用改善による外に見える形での完全ZEBの実現

一法師 エネフィス九州もエネフィス四国も,コラボレーションという形で設計・監理に関わらせて頂きました。九州のほうは竣工から4年になりますが,外に見える形という点では,見学に来られたお客様やオフィスで働く社員の皆さんの反応や評判はいかがでしたでしょうか。

藤澤 エネフィス九州では,NTTファシリティーズの直流給電システムや無線個別調光照明制御システムのFIT LC,クラウド型BEMSのFIT BEMSなども導入させて頂き,省エネと使い勝手の良さの両立を図ったことで素晴らしい成果が得られており,見学者からの評判も全般的に上々です。BELSの5☆,CASBEEのSランク,LEEDのプラチナなどの認証も取得し,第7回サステナブル建築賞をNTTファシリティーズと共同受賞するという栄誉にもあずかっています。さらには,経団連のホームページのSDGsデータベースにも掲載して頂けるなど,まさに外に見える形となったわけで,NTTファシリティーズとのコラボレーションによる相乗効果の表れだと思っています。
 実際にオフィスを使いながら改善しているところもあります。照明に関しては,初めてのZEBということもあり,省エネを目指したタスク・アンビエント照明方式を採用しましたが、図面作業の多いオフィスの実情になかなかなじまず,手元をもっと明るくしてほしいとの要望もありましたので,照度設定のアップ,タスクライトを大型で見やすいものへ変更するなど,運用改善を行うことで社員の満足度を向上させています。
 また,見学者から一番質問の多かったZEB建設のコストに関しても,国土交通省のガイドラインでは一般的なビルの160%という指針が出されていますが,やはり高いという意見が多く,事実,空調工事は一般ビルの約2倍かかってしまいました。ですから,3年後のエネフィス四国では,コストの削減ということが最大の課題となったのです。

一法師 エネフィス四国では,コスト削減の面でテストというか実証というか,チャレンジという部分がかなりあったとお聞きしています。

藤澤 おっしゃるとおりで,様々な汎用機器を入れたほか,エネルギー有効利用の地中熱採熱は九州のときのように費用のかかるボアホールを掘削するのではなく基礎抗を活用するとか,クールピットをアースチューブに変更して躯体構築費を削減するなど,いろいろNTTファシリティーズから助言も頂きながら問題を解決していきました。その結果,空調工事のコストはエネフィス九州の70%弱に抑え,ガイドラインの160%を下回る150%くらいのコストに収まり,完全ZEBの実現に至ったということなのです。

今後のZEBに求められる経済性と快適性の向上

一法師 今後のZEBの目的というのはやはりコストであろうかと思いますが,それともう1つ,働く人にとっての快適性とかウェルネスということもこれからますます重要になってくるように思います。これについてはいかがでしょうか。

藤澤 おっしゃるとおりだと思います。エネフィス四国では,コスト削減に挑戦すると共に,エネフィス九州の運用段階で上がっていた様々な問題点を解決する方向で,より快適性の保てる建物の運用に努めています。
 具体的には,居住者である当社の社員の意見も参考にしながら,当社独自のビル制御システムによるチューニングを埼玉県にある技術研究所から遠隔で行い,毎月少しずつ改善しています。
 ですからCASBEE-ウェルネスオフィス認証についても,今計画中の北海道の案件では是非入れていきたいと考えています。
 九州や四国といった温暖なところとはまったく気候が違う北海道で,どこまでZEBが実現できるのだろうかという思いもありますが,今度もまたZEBに関する豊富な知見をお持ちのNTTファシリティーズに協力して頂けるので,いろいろ助言を求めながら,寒冷地でのZEBの実現というまだ成功事例の少ない案件にあえて挑戦してみたいと考えている次第です。

一法師 エネフィス四国では「クリマチェア」という空調椅子を導入されていますが,これは本当にユニークなアイデアだなと思っています。これからニーズも高まってくるのではないでしょうか。

藤澤 オフィス家具メーカーと共同開発したもので,従来のタスク・アンビエント空調では埋め切れない,室内温度に対する男女の感じ方の違いを何とか解消して作業効率や快適性の向上を図ろうとしたのが発端です。
 こうした様々な取り組みのおかげで,四国では九州ほど運用段階での改善要望が上がってきていないように思います。

藤澤一郎 氏
2018年4月に代表取締役兼社長執行役員就任。
入社以来,設計,施工,開発・研究部門を歴任し,特に産業施設分野の業容拡大に注力してきた。3カ年の中期経営計画を「技術力で挑戦し,未来を創造するダイダン」として策定し,継続的な企業価値向上に努めている。座右の銘は『前へ』。

運用段階での支援が重要となるZEBプランナーの役割

一法師 ところで,当社もダイダンと同じくZEBプランナーに登録し,「ZEB=IoT×AI」とのコンセプトのもとZEBプランニングをワンストップで提供していますが,ZEB実現におけるZEBプランナーの役割については,どのように位置づけておられますか。

藤澤 現在ZEBプランナーへの登録条件は,ZEBの計画実績ではなく,省エネルギー建築の計画実績の有無となっているため,ZEBの実績のないプランナーも多数存在しているのが実情です。本来のZEBプランナーは,補助金申請や設計時の認証だけではなく,今後重要視されると思われる運用段階における支援を行う立場でなければならないと私は考えています。
 ZEBプランナーとして今後様々な業務用ビルでZEBを指向していくことになると思いますが,ZEBの普及にあたっては,建設コストの上昇を抑えることが重要であるのはもちろんのこと,建てただけでなく,運用段階でその性能を十分発揮できるようにしなくては意味がないと思っています。そのためには実際の運用の過程で獲得してきたノウハウを,プランナーとして提案に生かしていくことがとても大事だと考えています。

一法師 我々としても,本当に実効的に成果が上がる,付加価値が出るようなZEBをつくり上げていくという意味でのZEBプランナーの役割というものを明確に打ち出していきたいと考えています。
 それというのも,日本に進出してきている外資系の企業は,日本企業よりもそういったことに対する要求が高く,中でも北欧系の企業は,ビルがどれだけグリーンなのか,どれだけ脱炭素を実現しているのか,そういうことを必ずチェックしますし,それがビルの差別化要因になるというか,テナントとして入る前提条件にもなりかねない状況なのです。

藤澤 まだまだ日本の建物では,設備というものについての認識があまり高くありません。ですから,グリーンという言葉の捉え方にしても,日本と海外,特に欧米とでは全然違います。ビルがグリーンであることが,そこで働く人の快適性の向上につながり,生み出される生産性も全然違ってきます。日本では今,国もZEBの推進に取り組んでいますが,不動産価値は高くなりません。

一法師 まだそこまでは反映されていないということですね。

藤澤 ええ。まだそこまではいってませんね。ビルの価値に踏み込むところまでは行ってないと思います。

海外でのエネルギー問題への貢献も視野に入れたイノベーションの創出

一法師 では最後に,今後ともコラボレーションを進めていくにあたって,当社に対する要望,期待などあればお聞かせください。

藤澤 NTTファシリティーズは,スマートビルやデータセンターの建設からファシリティの管理,ネットワーク構築,エンドユーザーへのサービス提供までのすべてをお持ちなので,是非とも今後も継続的にニーズ・シーズの情報交換をさせて頂き,その中からイノベーションを生み出していきたいと思っています。また海外展開についても,例えばシンガポールでは大学の先生が「ZEBをやるんだ。シンガポールでもZEBだ」とおっしゃっていて,ZEBの流れが来ていますから,当社とNTTファシリティーズが協働することで,海外でのZEBの普及によるエネルギー問題への貢献ということもできるのではないかと思っています。

一法師 世界的な課題として脱炭素というのは避けて通れませんので,日本では成り立たなくても海外では成り立つビジネスモデルとか,日本とはまったく違うビジネスのやり方があるような気がします。ですからそのあたりを見極めながら,現地のお役に立ち,結果的に地球環境にも貢献できるような取り組みを展開していければと思います。

藤澤 当社はシンガポールではすでに40年以上の歴史を有しています。シンガポール政府からM&Eコントラクター部門でL6という最上位のランクに格付けされており,国の研究機関や空港といった重要施設の仕事をさせて頂ける立場にあります。現地の建設事情にも詳しく,その点で協力できる部分も多くあると思いますので,よろしくお願いいたします。

一法師 当社はシンガポールではまだデータセンターしか手掛けたことがないので,機会があれば是非こちらこそよろしくお願いしたいと思います。本日はお時間を頂き,誠にありがとうございました。

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技術研究所 全景

ダイダン株式会社 概要
 1903(明治36)年に大阪で創業。電気工事と暖房工事を事業の主体としていた。1918(大正7)年には「合資会社大阪電気商会大阪暖房商会」という長い社名も誕生し,当時でも珍しく社内外で話題となり,「社名を覚えてもらうための商売の秘訣だ」との談話が残っている。1987(昭和62)年,全国展開を見据えてそれまでの愛称であった“大暖”を「ダイダン」とし正式社名とした。
 日本銀行,最高裁判所庁舎,日本武道館,羽田・関西国際空港旅客ターミナルビル,和歌山県立医科大学付属病院,GINZA SIXなどの大型ビルに加え,工場やデータセンター等の産業施設など,幅広い用途の建物で数多くの設備工事を担当するなど高い技術力を誇る。また1984年に技術研究所を設立。多様化するニーズに応えるための研究開発と建築設備の実証実験の場として活用し,ビルのエネルギー消費「ゼロ」の実現や再生医療に必要な環境構築,IoTを活用した照明・空調の最適化など次世代の建物に求められる新たな価値を創造している。

エネフィス九州 BCPの観点からの九州支社建替えに合わせ2016年4月に竣工。自社ビルでのZEB化を実証する施設として建設された

エネフィス四国 エネフィス九州での実績をもとに2019年5月に竣工。「BCP対策」と「ZEB技術の深化」を図りつつ,「快適性」と「経済性」を向上させた


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