NTTファシリティーズ
FeatureNTTファシティーズジャーナル No.326
2018年3月

継続的な調査・検証と
ワーキンググループの活動で
社員のコミュニケーションを
マネジメントする

社員の働き方を中心としたオフィスリニューアル

 広島県広島市,NTTクレド白島ビルの6,9階に入居するNTTファシリティーズ中国の本社オフィスは,2016 年11 月に「Connect」をコンセプトとしてリニューアルオープンしました。
 リニューアルの最大の目的は,大幅な事業規模の拡大が求められる中,新たな仕事の流れをつくること。今後は複数の部署が関わる複雑な事業案件の受注比率が高まることが予想されるため,担当部署を越えた活発なコミュニケーションが重要になると考えました。
 リニューアルに先立ち,社員に対して主観アンケート調査を行い,オフィス環境や働き方に対する重要度・満足度等を把握しました。併せて,コミュニケーションモニタリングシステムを利用し,社員の行動特性をモニタリングしました。これらの調査から得られたデータを基に,部署間の近接度や場所ごとの使われ方を分析し,その段階でのオフィスの課題を抽出しました。その結果,既存の環境では打ち合わせやリフレッシュのためのスペースが足りず,部署間のコミュニケーションが乏しい,使い勝手の悪いオフィスであることが定量的なデータとして浮き彫りになりました。

若手社員をプロジェクトリーダーとするWG

■若手社員をプロジェクトリーダーとするWG……リニューアル後も積極的に活動しオフィスの継続的な改善・成長を促している

 こうした課題に取り組むために,若手社員をプロジェクトリーダーとするワーキンググループ(WG)を立ち上げました。WG活動の一例として,ユニバーサルレイアウトの検討やペーパーレス化によるストックスペースの低減によって,コミュニケーションエリアの面積をリニューアル前と比べて約5倍となる245m2に拡大しました。
 WG体制をとったのは,社員が自分たちでつくりあげたオフィスであることの意識づけを行い,モチベーションを高めて自律的な働き方を促進する意味もありました。

コミュニケーションモニタリングシステムによる効果の検証

 コミュニケーションモニタリングシステムとは,社員一人ひとりにICタグを配布して,フロア内での移動状況や他社員との接触をモニタリングし,行動特性や組織間の近接度,打ち合わせスペースや会議室などの利用状況,これらから導き出されたシーンごとの最適面積などを定量化するものです。これにより合理的・効率的なオフィスレイアウトの計画・整備が可能となり,継続的にデータを収集・分析していくことで,オフィス環境における生産性向上の検証を行いながら,オフィスを刷新していくことができます。

図1:リニューアルによる生産性向上効果の検証結果

図1:リニューアルによる生産性向上効果の検証結果……リニューアルによる効果を,労働時間に対するコミュニケーション時間の割合(生産性),他組織とのコミュニケーション時間,社員への主観アンケート調査による満足度の3つの指標を用いて検証した

  • *満足度:オフィスFM主観アンケート調査 重要度・満足度調査10項目(図3)のうちハイと答えた割合の平均値(%)
 オフィス環境における生産性向上効果を検証するため,コミュニケーション時間,労働時間,社員の満足度に着目し分析を行いました。
 社員同士のコミュニケーション量は,リニューアル前では26分/人・日でしたが,リニューアル後3カ月の結果では54 分/人・日へ増加し,さらに8カ月後の結果では70分/人・日まで増加しました(図1)。
 社員の総労働時間には変化がなかったことから,個人の業務が効率化され,コミュニケーションに割く時間が増えたことが見て取れます。また,コミュニケーションエリアの利用率も同様に増加していることから,社員の働き方が変化してきていることが分かります。

一過性ではない社員の満足度向上

 リニューアルされたオフィスは,社員のオフィスに対する意識も大きく変えました。
 リニューアル前に行った主観アンケート調査では,オフィス内での「行動」を表す7つのシーンについて,A~Eの5段階評価表全ての項目でCとD評価だったのに対し,リニューアル後3カ月の調査では全項目でAとBに評価を上げました(図2)。さらに,オフィス環境の重要度・満足度調査では全10項目で満足度が向上し,特に「周りの人に自慢したくなる環境」「共創・協同しやすい環境」「リフレッシュしやすい環境」「柔軟に居場所を選べる環境」の項目については,リニューアル前と比較し2~3倍に向上しました(図3)。

図2:主観アンケート調査(ワークスタイル診断)の結果

図2:主観アンケート調査(ワークスタイル診断)の結果……オフィス内での「行動」を表す7つのシーンに対する充足度を比較。WG活動により評価点(アルファベット)が改善した

オフィス内での「行動」を表す7つのシーン
【ブレイク】
インフォーマルな交流のシーン
【アカデミー】
情報収集とユーティリティのシーン
【スィンク】
集中作業のシーン
【ステーション】
業務・執務実行のシーン
【レセプション】
お客様対応とセキュリティのシーン
【レビュー】
情報共有と意思決定のシーン
【コミュニティ】
小規模ミーティングのシーン
図3:重要度・満足度調査(50%が標準値。50%を下回ると不足した状態)

図3:重要度・満足度調査(50%が標準値。50%を下回ると不足した状態)

 これらの結果で特筆すべきは,リニューアル後11カ月の主観アンケート調査です。一般にリニューアル直後は目新しさから積極的な評価をしがちですが,リニューアル後3カ月の主観アンケート調査を上回る結果となりました。

リニューアル後も続くワーキンググループの活動

 リニューアルに伴い発足したWGも,企画・調査~計画・設計~構築後の運用へ進むと共に形を変えて活動しています。現在では「オフィス運用WG」と呼び,様々な活動を行っています。コミュニケーション量や社員の満足度が11カ月を経ても増加・向上し続けていることは,リニューアルに伴う一過性の現象ではなく,WGがオフィスの運用について継続的な改善活動を展開することで陳腐化を防いでいること,整理・整頓などの環境整備についてWGが提言し,上長も巻き込みながら社員全員に当事者意識とオフィスへの愛着を持たせたことなどが理由として考えられます。
 WGでは,コミュニケーションモニタリングシステムと主観アンケート調査を用いて,リニューアル後のオフィスの調査・分析を行い,あまり利用されていないエリアについて率先して使い方を示すなど,積極的なコミュニケーションを定着させるために活動しています。
 また,オフィス環境をより快適に利用できるよう,5S(整理,整頓,清掃,清潔,躾)の推進やデジタルサイネージを活用した情報掲示,ブレイクコーナーの充実(コーヒー・菓子類・Wi-Fi接続されたタブレット端末設置等)など,気軽なコミュニケーションの促進に努めています。
 このように人と人とのコミュニケーションを活発化することで,オフィスでの生産性向上に向けた継続的なマネジメントを実践しています。

継続的に刷新することがオフィスFMの要

図4:コミュニケーションモニタリングシステムによる測定結果

図4:コミュニケーションモニタリングシステムによる測定結果……運用段階におけるエリアごとの利用状況(稼働率)を把握し,継続的な改善を実施している

 一方で,コミュニケーションモニタリングシステムや主観アンケート調査は,オフィスのさらなる改善ポイントも指摘しています。一例として,オープンなコミュニケーションエリアの稼働率が上がった結果,会議室は稼働率が減少しています(図4)。また,最適面積の分析では執務スペースをフリーアドレス化することで,コミュニケーションエリアをさらに拡大することが推奨できると考えられます。

 こうしたデータをもとに,今後もWGを中心としてオフィスの成長を促すと共に,コミュニケーションモニタリングシステムや主観アンケート調査のデータを蓄積して,自社で検証を行うことで,FM手法を用いたオフィスサービスを提供し,生産性の高いオフィスの実現に役立てていきたいと考えています。
 また,NTTファシリティーズにとっても,このプロトタイプの構築と継続的な取り組みがさらなる成長につながるよう,試行していきます。

メイン通路

■メイン通路…… 通路幅を2mとすることで,歩きながら職場の雰囲気を感じることができる。通路に沿ってミーティングスペースを配置することで,偶発的な出会いから密なコミュニケーションへとスムーズな流れをつくりだしている

打ち合わせテーブルを併設した部長席

■打ち合わせテーブルを併設した部長席…… パーティションを廃し打ち合わせテーブルを併設することで,よりスピーディーに情報共有ができる空間とした

コミュニケーションエリア

■コミュニケーションエリア…… ハイカウンターのカフェテーブルでくつろぎあるスペースとし,インフォーマルなコミュニケーションを促す


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