
前回は、BIMを駆使して、より高付加価値で持続可能な建物設計・運用をめざす当社の取り組みを紹介しました。本稿では、建物・施設のライフサイクルマネジメントにおけるBIM活用「ライフサイクルBIM」について説明します。
建物ライフサイクルマネジメントのDXを実現するライフサイクルBIM
当社は、建築設計と建物維持管理の業務に携わっているという背景から、NTTグループの通信施設を中心とする既存建物・施設群におけるライフサイクルマネジメントへのBIM導入=「ライフサイクルBIM」の推進に取り組んでいます。(特にBIMのMを「Management」の意としている)
本稿では、以下の2点についてご紹介します。
・建物データベースとしてのBIMである「現況BIM」について
・ライフサイクルマネジメントでの活用事例として、改修設計での活用、点検・整備計画での活用、アセット情報管理への活用について

ライフサイクルマネジメントへのBIM導入=「ライフサイクルBIM」
現況BIMとは
ファシリティマネジメントにおけるさまざまな業務情報をBIMに収集・集約し、それを業務プラットフォームとして活用するプロセスを構築することで、業務のDXをめざしています。既存建物・施設をデータベース化したモデル「現況BIM」は、主に資産情報管理・整備計画のための調査図面や日常点検、改修設計等に有効利用されています。

現況BIMとは
改修設計での活用
全国約14,000棟に及ぶNTTグループの通信用建物は、一定の期間で繰り返し改修工事が発生するため、定型的な設計手法で多くの設計業務を実施する必要が生じます。また設計検討のため既存建物の現状把握が重要になることなども踏まえ、現況BIMを活用した改修設計図の効率化手法を導入しています。
改修設計開始時には、まず最新の現況BIMを専用システムから入手します。基本設計・実施設計の内容を検討し、現況BIMから「設計BIM」を作成、その情報を設計・工事契約に活用します。工事が完成すると、工事完成情報を施工会社から入手し、現況BIMを最新に更新するという流れになります。

改修設計における現況BIMデータの流れ
また、改修設計図作成においては、現況BIMを加工し設計BIMを作成するというアプローチをさらに進化させ、現況BIMに改修内容をデータインプットするだけで、システマチックに設計アウトプットを完了させるような手法を試行しており、改修設計業務のさらなるDXをめざしています。

BIMを用いた改修設計図作図の効率化手法
点検・整備計画での活用
通信施設のファシリティマネジメント業務は「中長期的な整備計画」と「日々の点検業務」などがあります。
これらに使用される調査用図面や台帳として、現況BIMを基に生成されたデータを用いることで、常に最新の情報に基づいて点検が行えます。また調査情報を基に現況BIMを最新化する手順も有しています。
「BIMを活用した点検業務」という発想は以前からもありましたが、主に3Dを使った点検ツールの高度化というアプローチでした。しかしながら、現場点検・調査をおこなう担当者が多岐にわたるため、高度なツールの普及には高いハードルが存在するのも事実です。そのため、点検に使用するツールは従来のものを継承しながら、現況BIMが使用され、確実に調査情報が蓄積される「仕組みの構築」に重点を置き見直しました。現場情報が確実に蓄積し、そのデータを基にRPA等を使用して分析やレポートを行うことで、関連業務の効率化を図り、大幅な稼働削減に寄与する可能性があると考えています。

点検・整備計画での建物データベース・現況BIM活用
アセット情報管理への活用
当社では、施設の貸付や室利用状況をBIMによりデータベース化し、施設オーナーがその状況をすぐに把握できる仕組みを導入しています。現況BIMをベースとした図面上で、Webブラウザを使って利用状況の属性をフロア情報として確認・編集ができます。

Webブラウザで施設のフロア利用状況を確認するシステム
また、通信施設の情報管理においては、通信事業の根幹である通信装置を高度に管理するため、通信機械室の空き状況や増設可否を瞬時に確認できるなど、施設の状況把握に用いることを計画しています。

スペースの予約管理ができるシステム
施設のアセット情報化は、オーナー自らが理解を深め、主導していくことで施設運営全体での効果が生まれると考えています。ただ実際のところは、オーナーがまだ施設情報を保持する具体的なメリットを見いだせていない点、小規模施設のオーナーは施設情報を構築・管理するコストがネックであるという課題があります。施設情報をオーナー目線で「見える化」するという考え方は継続しながらも、さらにオーナーが十分にメリットを感じられるような付加価値の提供を模索しています。
今後の展望
ライフサイクルBIMのアプローチは、設計・建物維持管理業務などでの利用者=受注者目線が基点でありましたが、現在はオーナーの事業課題の解決、付加価値創出、さらにそこから社会課題の解決手段への発展が主なテーマとなっています。特に近年では、都市のデジタルツイン、都市OSという概念で、建設業のDXを超え、都市・建物のデジタルデータをあらゆる産業で活用しようという動きが活発になっています。
近年の通信事業を取り巻く状況は、通信インフラの安定的な供給維持、自然災害への対応、既存ストックの活用、地球環境への配慮など、様々な事業運営上の課題に直面しています。またそれは日本国内の通信事業者のみならず、多くの施設を保有する企業に共通する課題であると考えます。
当社がこれまで培った通信施設におけるファシリティマネジメント業務のノウハウ、さらに通信事業におけるライフサイクルBIMの大きな業務プラットフォームを活用し、今後は施設オーナーの事業成長につながるサービス展開・事業貢献をしていくことを、今後の目標と掲げています。
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