NTTファシリティーズ
Case StudyPROJECT事例
2023年1月5日

防災機能と環境負荷低減に配慮した高層の教育施設
― 芝浜小学校 ―

2022年4月、東京都港区芝浦に地上9階建ての「港区立芝浜小学校」が開校しました。校舎各階の全周にバルコニーを配置し、配色豊かな縦ルーバーで覆った個性的な外観デザインです。敷地面積が限られる中、プールや体育館、屋上校庭を上層階に配置、免震構造の採用など先進的な技術を導入して実現した高層小学校づくりのプロセスをご紹介します。

上空通路で既存「みなとパーク芝浦」と接続

「敷地はJR田町駅とペデストリアンデッキで接続する芝浦エリアにあり、周辺はタワーマンションが林立しています。急激な人口増加に対応するため、小学校を新設することになりました。計画地は、港区の複合公共施設「みなとパーク芝浦」と地域冷暖房を供給する「エネルギー棟」に挟まれており、敷地面積が限られることから高層の小学校として計画されました」(宮野)

「既存のみなとパーク芝浦とは2カ所の連絡通路で接続しており、両棟は法的に1棟とみなされます。いずれの施設もNTTファシリティーズが設計・監理を担当しています。港区の行政機関やスポーツセンターが入居するみなとパーク芝浦は高い防災機能を備えており、小学校の設計では「みなとパーク芝浦との防災機能の連携強化」が求められました。
コンセプトとして「高層の小学校としての安心・安全確保」「低炭素で災害に強い街づくりへの貢献」「将来の用途変更に対応した計画」などを掲げました。1階に昇降口と給食室、2~4階に普通教室、5階に特別教室、6~9階の上層階にプールと体育館、屋上校庭を積層しています」(笹島)

配置計画

断面図

南側外観。芝浜小学校(正面左)は既存のみなとパーク芝浦(正面右)の増築棟となる

高層小学校ならではの安全性に配慮した外観デザインの特徴

「港区からは“高層の小学校となるため安全対策を徹底してほしい”と強く求められました。今回は、各階の全周にバルコニーを回して避難動線を確保しました。バルコニー部分は児童の脚掛かりになるものがないよう、部分的にモックアップ*1を製作して設計時、施工時共に入念にチェックしました。
外観を特徴付けるのが、縦ルーバーのデザインです。ルーバーは児童の脚掛かりにならないように縦基調とし、配管の目隠し機能も兼ねています。また、教室に対して日差しをやわらげる効果も期待しています。長さだけでなく素材や色も変化させて、個性的な建物の表情を演出しました。隣接する2つの建物もルーバーを用いたデザインなため、一体感を高めています」(宮野)

*1 モックアップ:現場で実際に施工する前に仕上がりや機能等を確認するために部分的に1/1で制作する原寸模型のこと。

「ルーバーの素材は、2~5階の教室部分は再生木と白ベースのアルミを採用し、6~9階は白ベースのアルミルーバーに、茶、黄、緑の各色のアルミルーバーを混在させてリズミカルな表情を演出しました。北側の線路側立面は2階から9階まで設備ダクトの目隠しとして垂直の大型再生木ルーバーを設置し、部分的に切り欠かれたデザインによって静止状態だけではなく、モノレールや電車から見たとき、ファサードが移り変わる動的な意匠も特徴的となっています」(笹島)

バルコニーを覆う縦ルーバー(左) 北側の線路側立面(右)

開放感を高めた屋内プールと体育館

「余剰敷地がないため、建物上部に屋内プールと体育館、屋上校庭を積み上げている点が大きな特徴です。プールは6階に配置し、使わない時期は可動床を上げて人工芝を敷くことで、運動場として活用できます」(笹島)

「屋内プールや体育館は、大きな窓から外光を入れることで開放感を得られるつくりとしました。開校前の見学会では、保護者の方々から『建物の中に体育館やプールが入っていると思わなかった。中に入ると十分な広さを感じた』『ガラス窓からたっぷり外光が入るので、明るく開放的』などの感想を聞くことができました」(宮野)

6階プールと2層吹抜けの7階体育館

「9階の屋上校庭はモノレールの線路に隣接するため、防球ネットを張り巡らせています。ネットの支持材はV字の鉄骨を組み合わせたデザインです。構造合理性を持たせながらも既存みなとパーク芝浦のアリーナの大屋根を支えているV字鉄骨の意匠を踏襲し、建物群として一体的な景観となるよう構造設計者とアイデアを出し合って実現した架構形状です」(宮野)

防球ネットを張り巡らせた9階屋上校庭

柱頭免震の採用で高い防災機能を確保

「2カ所の上空通路で接続するみなとパーク芝浦が免震構造を採用していることから、一体化する小学校側の建物も、庁舎並みの耐震性能を導入する必要がありました」(宮野)

「免震構造では基礎や中間層に免震装置を収めるのが一般的ですが、敷地にゆとりがないことから、中間免震層を不要とした「柱頭免震構造」を採用しました。約30カ所ある柱の1階頭部に免震装置となる積層ゴムを配置して、免震化しました。これにより1階の「地球側」と2階から上の「免震側」は、地震時にそれぞれ異なる揺れ方をします」(笹島)

「地球側の1階の壁や建具はすべて自立した構造としなければならないため、壁や建具の形に合わせて鉄骨のフレームを造形して補強しています。配線関係は1階の免震ラインをまたいで続くため、地震時の揺れに追従するように余裕をもたせる必要がありました。設備担当者のアイデアを基に、壁際に設備配管を通す配線トレンチを設けて、配線の余長スペースを確保しています」(宮野)

「防災機能強化として、電気室を6階に設置することで万が一の浸水時にも設備機器の水没等がないよう配慮しています。小学校はみなとパーク芝浦の非常用発電機と接続することで72時間の電源供給が可能であり、水道本管の断水時においても6階プールの水を一部のトイレで雑用水として使用できます。災害時は児童だけではなく、地域の方々にとっても心強い存在になると思います」(笹島)

1階の柱頭免震

配線トレンチ例(1階多目的教室)

環境負荷低減への配慮

「港区は地球温暖化防止に貢献することを目的として独自の「みなとモデル二酸化炭素固定認証制度」を導入しており、区が協定を締結した自治体産の木材を区内の公共施設や民間建築物において内・外装材として使うことを求めています。今回は71㎥の木材を床や壁、外観のルーバーなどに使用することで、星2つの認証を取得しました。また敷地は地域冷暖房供給区域に立地します。港区の「田町駅東口北地区街づくりビジョン」のもと、低炭素で災害に強い街づくりを推進するため、隣接するエネルギー棟から供給される熱源を全館の空調やプールに活用しています」(笹島)

「屋上には太陽光パネルを設置しており、1階昇降口に設置されたモニターで発電量を確認することができます。小規模ではありますが、毎日目にすることで環境教育へも寄与しています。」(宮野)

木のフローリングとした普通教室

子どもたちなりに高層の小学校を楽しんでほしい

「周辺エリアはタワーマンションの建設で一時的に児童が増加していますが、数年後には減少に転じることが予想されます。将来のオフィス転用への配慮から、教室を配置した2~5階はフローリングの床下に下地や仕上げを構築する50mmの空間を確保し、オフィス転用時には二重床を敷設することが出来ます。また、免震構造を生かして耐震壁を設置していないので、間仕切り壁を撤去すれば1フロアの大空間に改修することも可能です」(宮野)

「子どもたちがわくわくするような空間をつくりたいと考え、鮮やかな色を用いた階段室のデザインを提案し、採用してもらいました。海、木、太陽をイメージした青、緑、橙色の階段室です。縦移動が多い学校なので、楽しく上り下りしてほしいと思います」(笹島)

「木」の階段室

「階段は、幅を広くして移動しやすいように配慮しました。私たち設計者の想像を超えた形で、子どもたちなりの上下移動を工夫しながら、親しみをもって使ってほしい。高層の小学校を子どもたちが使いこなす様子を、1年点検などで目にすることができたらうれしいですね」(宮野)

「校内の各所では、設計上の工夫を目にすることができます。子どもたちには様々な発見をしながら過ごしてもらえたらうれしいです。免震装置のカバー部分や屋上の鉄骨の躯体を見て、「なぜこうなっているの?」と疑問を持って学んでほしい。建築をきっかけに、興味が広がっていけばいいなと思います」(笹島)

プロフィール
  • 宮野 隆行
    NTTファシリティーズ
    東日本事業本部都市・建築設計部 建築設計部門
    第三設計担当 課長

    宮野 隆行(みやの たかゆき)
    2003年NTTファシリティーズに入社。入社時は本社にて新築設計に携わり、その後NTTグループのオフィスや公共施設の新築設計を中心に従事。現在は、改修やコンストラクションマネジメントも手掛けている。
  • 笹島 麻代
    NTTファシリティーズ
    東日本事業本部都市・建築設計部 建築設計部門
    第一設計室

    笹島 麻代(ささじま まよ)
    2016年NTTファシリティーズに入社。入社時より同部署に配属し、新築設計やデータセンターの構築を中心に従事。現在は教育施設やNTTグループの改修工事も手掛けている。

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