NTTファシリティーズ
Case StudyPROJECT事例
2022年12月22日

周辺街区との連続性を保ちながら高い環境性能、先進的な構造で高付加価値オフィスビルを実現
- 日本橋三丁目スクエア -

「日本橋三丁目スクエア」は2021年12月、日本橋髙島屋S.Cの隣接街区に12階建ての一部店舗を併設したオフィスビルとして竣工しました。歴史と先進性が共存している周辺街区のシンボルである重要文化財の日本橋髙島屋S.C本館と周辺建物の特徴を外観デザインへ反映し、周辺街区と調和を図ることで地域との一体感を演出しました。また、先進的な構造計画を採用しオフィス面積を最大化するとともに、環境負荷低減のため様々な施策を取り入れ、東京都内の賃貸オフィスビルとして初めて、「ZEB Oriented*1」を設計段階(事務所用途部分)において取得しました。意匠・構造・設備計画の統合で誕生した、高付加価値オフィスづくりのポイントを紹介します。

*1 ZEB (Net Zero Energy Building) Oriented:1次エネルギーの削減率が40%以上(オフィス、学校、工場など)、または30%以上(ホテル、病院、飲食店など)として設計・建設された建物。対象は、未評価技術を導入した延べ床面積1万㎡以上の建物

設計者へのヒアリング

設計者へのヒアリング

周辺街区の付加価値を高める建築に

本建物は、周辺街区の付加価値を高める「まちづくり戦略」の先駆けとして開発されたオフィスビル(建築主:東神開発株式会社 様)です。プロポーザルを経て、当社が設計を担当しました。設計コンセプトは、「周辺街区との連続」「競争力の高いオフィス」「高いBCP*2性能」の3つを掲げ設計を行い、効果の高い環境負荷低減施策の導入と、快適なオフィス空間の創出という課題を両立することができました」(宮野)

*2 BCP(Business Continuity Plan):事業継続計画

北東側外観

北東側外観

低層部の水平ラインでデザインを継承

── 隣接する日本橋髙島屋S.C.との連続性

「建物は地下1階、地上12階建てで、1階にカフェとコンビニ、2~3階にシェアオフィス、4~12階にテナントオフィスが入居します。このうち1~3階の低層部は、水平ラインを強調した外装デザインです。日本橋髙島屋S.C.の基壇(コーニスライン)を継承したもので、同じ理由から柱の間の開口部もサッシで3分割してデザインしました」(伊藤)

「一方で、周囲の日本橋地区には重厚なデザインの高層ビルが林立しており、重厚さだけを追求すると周りに埋もれてしまうとも考えました。そこで4階以上のオフィス部は、躯体のプレキャストコンクリート(PC)版をそのまま仕上げとすることで、構造自体の格子形状が外装に表出する意匠としました。またPC版は塗装ではなくコンクリートの素材が見えるように製作工場で何度も確認調整を行い、シンプルながら素材を感じる外装を実現しました」(宮野)

北側低層部の夜景

北側低層部の夜景

柔らかく明るい雰囲気の共用空間に

「内装にはできるだけ天然素材を用いました。例えば1階エントランスホールでは、天然木の突板や、布地を挟んだファブリックガラス、花崗岩、左官風塗装の仕上げなど、人が触れた時に素材感を感じられる材料を選びました。曲線を描く天然木の壁面が人々を自然にエレベータホールへといざなうデザインです。このエレベータホールでは、花崗岩を壁にランダムに配置、さらにわずかな凹凸を付けることで生まれる影を空間のアクセントとしています。柔らかく、明るい雰囲気の共用部をデザインすることで、より快適で、楽しく働ける環境を生み出したいと考えました」(伊藤)

1階エントランスホール(左)とエレベータホール(右) エレベータホールの壁は花崗岩をランダムに配置してデザイン

1階エントランスホール(左)とエレベータホール(右)
エレベータホールの壁は花崗岩をランダムに配置してデザイン

「競争力の高いオフィス」を可能にした構造計画と設備計画

── 使い勝手と働く空間としての快適性の追求による差別化

「敷地が日本橋の好立地に位置することから、最大限の床面積を確保することがミッションとなっていました。そこで鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造の扁平柱で外周を配置する構造とし、自由度の高いスペースをより確保できるようにしています。柱が1100×500(mm)と薄く執務室内側に柱型が出ないため、窓廻りの有効活用に寄与しています。また、この扁平柱は構造材がそのまま仕上げとなっているため、コスト縮減にもつながりました」(宮野)

執務空間を有効活用する構造計画

執務空間を有効活用する構造計画

「設備計画では、環境負荷低減を追求するとともに賃貸オフィスであることから高い快適性も得られる空間になるよう設計を行いました。オフィス空調に輻射空調システムを採用しています。冷やしたり暖めたりした空気を天井の放射パネルから緩やかに吹き出すもので、室温の温度分布が均一になります。空気の流れも感じにくく、快適なオフィス環境を創出しています。 またこのビルでは、温度と湿度を個別に制御する省エネ型の空調システム「デシカント空調」を採用しています。機器内の除湿ローターで空気中の水分を直接除去する方式です。このほか、照明システムについては様々なセンサと連携することで、外光の変化や人の動きに合わせて自動点滅・調光する照明制御を実現しました。上記のように働く空間の快適性をより高める設計をすることで同規模の周辺ビルとの差別化を実現しました」(宮野)

環境負荷低減施策の空調設備

使い勝手の良い執務スペースと明るい共用空間

── 基準階のレンタブル比は83%

「基準階では、働く人の快適性を意識しながらプランニングを進めました。廊下は、突き当たりの2方向の開口部から自然光が入る計画です。階段室も明るく、フロアをまたいで賃貸する場合、従業員は外の景色を眺めながら上下移動することができます」(宮野)

「完成後は、様々な規模の会社が入居することが想定されます。そこで、1フロアについて標準で3分割、最大で5分割できる計画としました。前述した空調設備や照明システムについても、これらの分割にうまく対応しています」(伊藤)

基準階平面と4階オフィス

下層部に集中配置した制振装置で地震力吸収

「高いBCP性能を備えている点も、この建物の大きな特徴です。構造計画では、免震構造の機構を応用した「ソフトファーストストーリー制振構造」を採用しました。1~2階に制振装置のオイルダンパーを集中配置することで1~2層を柔らかくし、地震力を効率よく吸収するシステムです」(宮野)

「有事の際は、72時間、建物内に滞留できることを前提とした設備を導入しました。防災備蓄倉庫は5~12階の各フロアに配置。基準階のオフィスには、災害時に空調が停止した場合に機能する、サッシ組み込み型の自然換気装置を設置しました。また信頼性の高い受電方法として、本線・予備電源線の2回線受電としています」(伊藤)

BCP性能を支える「ソフトファーストストーリー制振構造」

BCP性能を支える「ソフトファーストストーリー制振構造」

43%の削減率で「ZEB Oriented」取得

── 環境負荷低減施策

「国がZEBの新たなカテゴリーとして、規制緩和となるZEB Orientedを導入したのは2019年。制度が導入されてから早期に設計提案に組み込み提案を行いました。お客様も環境負荷低減施策の導入に非常に積極的なこともあり、賃貸オフィスビルとして都内初の認証取得することができ、テナントビルとしての商品価値を高め、テナント誘致にも貢献することができました。 具体的な環境負荷低減施策としては、前述したデシカント空調設備やセンサを駆使した照明制御などのほか、地中熱利用空調や太陽光発電設備を採用。これらはそれぞれ、1階共用部の空調設備と照明器具の電力供給をまかなっています。
外皮ではLow-eペアガラスと高性能断熱材を採用に加え、照明電力の削減を可能とする電動グラデーションブラインドを導入。これらの省エネ技術を積み上げた結果、年間1次エネルギーについて43%の削減率を達成することができました」(宮野)

ZEB評価書

ZEB評価書

日本橋エリアの街づくりに貢献したい

「日本橋髙島屋S.C.のにぎわいをいかに誘引するのかという点は、計画当初からの大きな課題でした。これに応えるため、1階に店舗空間を計画すると同時に、日本橋髙島屋S.C.のはす向かいに、周囲の街区に点在する広場と連携するように癒しを感じる緑地や休憩できるベンチを設えた広場を設け、にぎわい創出の場をつくっています。」(宮野)

「広場の舗装材は日本橋髙島屋S.C.と同じ花崗岩を用いて、統一感を演出しました。キッチンカーが乗り入れることができるように、電源や排水設備も用意してあります。広場に面したサブエントランスには、建築主の要望で2階に直接アプローチできるエスカレータを整備しました。現在2~3階はシェアオフィスが入居していますが、将来的に飲食店舗の入居も可能な床荷重や配管予備スペースを確保しています。今後、時代の流れで需要が変化し、低層部に商業施設が入居することがあれば、広場を含めてより一層、街のにぎわい創出に寄与できるのではないかと期待しています」(伊藤)

「広場空間を豊かにするため、植栽計画には特に力を入れました。かなりの緑量を確保したほか、街づくりの一環として高さ9mのサクラの木をシンボルツリーとして植えています。クレーンで吊り上げて植樹する際は現場監理として立ち会い、どちらの向きに植えるかなど細部に気を配りました」(宮野)

「オフィスワーカーの皆さんには、この広場や周辺街区の商業施設をぜひ活用してほしい。「日本橋三丁目スクエア」の誕生で周辺街区の街なみに一体感が生まれ、人の流れを生み出すことで、日本橋エリアの街づくりに貢献できればうれしいです」(伊藤)

サブエントランス側に広場を配置

サブエントランス側に広場を配置

プロフィール
  • 宮野 隆行
    NTTファシリティーズ
    東日本事業本部都市・建築設計部 建築設計部門
    第三設計担当 課長

    宮野 隆行(みやの たかゆき)
    2003年NTTファシリティーズに入社。入社時は本社にて新築設計に携わり、その後NTTグループのオフィスや公共施設の新築設計を中心に従事。現在は、改修やコンストラクションマネジメントも手掛けている。
  • 伊藤 優太
    NTTファシリティーズ
    東日本事業本部都市・建築設計部 建築設計部門
    第一設計担当

    伊藤 優太(いとう ゆうた)
    2018年NTTファシリティーズに入社。入社時より同部署に配属し、オフィス改修や新築設計を中心に従事。現在は、オフィス関連の他、研究所の改修やデータセンターも手掛けている。

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