エネフィス北海道®*1(北海道札幌市)は、これまでのエネフィス九州®*1、エネフィス四国®*1に次ぐエネフィスシリーズの3拠点目として、2021年6月に竣工したプロジェクトです。ダイダン(株)との共同設計体制のなか 「人と地球が共生するオフィス」をテーマに、自然エネルギーの利用が困難とされる寒冷地でのZEB*2に加えて、事業継続性に配慮したRESILIENCE、オフィスとしての快適性を重視したWELLNESSの実現を図りました。
エネフィス北海道 鳥瞰
*1 エネフィス北海道、エネフィス九州、エネフィス四国 :ダイダン株式会社の北海道支店、九州支店、四国支店であり、商標登録された名称を示す
*2 ZEB : Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の略称。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることをめざした建物を示す
「人と地球が共生するオフィス」の実現に向け、掲げた3つのコンセプト
―― エネフィス北海道では「人と地球が共生するオフィス」をテーマとし、その実現のために3つのコンセプトを掲げています。
Ⅰ. ZEB:積雪地の気候条件を活かした自然エネルギーの選択
高断熱化とダウンサイジングによるコンパクト型寒冷地ZEBオフィス
Ⅱ. RESILIENCE:インフラ復旧までの災害復旧拠点として自立分散型電源システムを有するオフィス
Ⅲ. WELLNESS:働く人の健康性・快適性を重視し、その維持と増進を図るオフィス
取得した評価認証指標
*3 BELS認証 : 建築物省エネルギー性能表示制度。新築・既存の別を問わず、全ての建築物を対象とした省エネルギー性能等に関する評価・表示を行う制度
*4 建築環境総合性能評価システム(CASBEE建築) : 建築物係わる環境性能をQ(Quality:建築物の環境品質)とL(Load:建築物の環境負荷)の両面から総合的に評価するためのツール
*5 CASBEEウェルネスオフィス評価認証 : 建物利用者の健康性、快適性の維持を支援する建物の性能、取組みを評価する認証制度
建築概要
―― 外壁面積を抑えた矩形ボリューム
平面計画はコンパクトな敷地形状をなぞるようにシンプルな平面形状とし、外壁の表面積を抑えた凹凸のない矩形の2層ボリュームとしています。これによって外壁からの熱負荷の低減を図りながら、さらに外周部は高性能型外断熱工法を採用し、落雪対策としてパラペットを高く立ち上げています。
配置図兼太陽軌跡図
建物ボリュームと一体化した太陽光パネル配置
―― 積雪配慮型太陽光パネル
創エネ設備の太陽光パネルは東面接道の立地条件を活かし東面外壁の全域にわたって計画しています。屋上面においては本地域で創エネ最適角とされる35度の傾斜型パネルの設置を行うとともに、雪庇対策を兼ねた高いパラペット躯体に沿って外周部に鉛直型パネルを配しています。
断熱を強化したZEB建築では朝方の空調機立ち上げ時が電力需要のピークとなる傾向にあり、東面外壁の太陽光パネルによる創エネは最も電力を必要とする時間帯との整合性を図っており、今後のデマンドレスポンス*6を見据えた計画としています。
*6 デマンドレスポンス : 電力消費のピーク時に電気料金単価が割高になったり、節電努力に応じて何らかの報酬 が得られたりすることで、電力消費の総量を抑制する仕組み
Ⅰ.ZEB
―― 省エネ施策強化型ZEBの実現
これまでのダイダンエネフィスシリーズの一次エネルギー消費量削減率の比較を実施すると、再生可能エネルギーを除く一次エネルギー消費量の削減率が高く、ZEB実現に向け省エネ施策を強化した建物であるといえます。
特に空調設備のBEI*7がエネフィス九州® 0.56、エネフィス四国® 0.57に対し0.46と高評価を得ています。
意匠の観点では高断熱かつ開口部を極力限定したこと、設備の観点では、高効率な地中熱ヒートポンプの採用及び空調熱源システムの機能的な整理・集約がポイントとして挙げられます。空調熱源は2階のオフィススペースはAHU*8系統、会議室等の小部屋を空冷パッケージ系統としています。 AHU系統は熱源機械室-空調機械室-執務室を近接して配置したことでダクト・配管長が最短ルートで設計されており圧損の最小化を図ることで、BEI値の削減に寄与しています。
エネフィスシリーズ 一次エネルギー消費量削減率(BEI)・BPI *9比較表
*7 BEI : 設計一次エネルギー消費量を基準一次エネルギー消費量で除した値。数値が低いほどエネルギー削減効率が高い
※その他一次エネルギー消費量を除く
*8 AHU (エアハンドリングユニット) : 熱源設備から供給される冷水・温水を用いて、室内環境の温度・湿度等を調整する空気調和機
*9 BPI : 年間熱負荷係数(設計値)を年間熱負荷係数(基準値)で除した値。数値が低いほど建物の断熱性能が高い
ZEB実現のための要素技術一覧
―― 地中熱採熱設備
土中深度10m以上の熱環境は年間を通して10~15度と安定しており、貴重なエネルギー資源として積極的に活用しています。外気導入に際して地下に埋設したアースチューブにより予冷・予熱を行うことで、外気負荷の低減を図りました。地中熱ヒートポンプは排熱回収機能付きとし、余剰排熱を融雪用途として活用しています。
地中熱採熱設備の概要図
防雪フード付きアースチューブ(外気取入れ口)
―― ペリメータレスオフィス
オフィス、リフレッシュ、アーカイブ、ユーティリティスペースの4エリアが一体空間の中で連続しながら分節するよう設計しました。
眺望のための開口部はリフレッシュスペースに集約させることで、メインの執務空間はペリメータレスとし、上部のハイサイドライトによる採光で安定かつ良好な光環境を形成しています。
オフィス平面ゾーニング図
―― 放射対流統合型床吹出し置換空調システム
オフィスエリアの空調方式は、OA フロアを利用した床染み出し空調と OA フロア自体の表面で行う床放射空調の組合せとし、寒冷地固有の足元からの底冷え対策に配慮しました。OAフロア下部に設置した伝熱配管には地中熱ヒートポンプを用いて生成した冷温水を送水し、OAフロアへ熱を伝えています。
また、カーペットには気流の伝達のために目には見えない微細な穴を設けており、配置はデスクのレイアウトに合わせて変更可能なフレキシビリティ性を持たせた計画としています。さらに、還気は直天井のオフィス空間に配置したダクトによる置換換気方式を採用し、執務空間の快適性に配慮しています。
床染み出し空調方式・二重床の構成
―― 北側ハイサイドライド
・昼光利用
オフィススペース上部に17m×2mの連続的なハイサイドライトを設け、自然光を取り入れる計画としています。窓面を北向きとすることで夏季よりも冬季により高い照度が得られる計画としており、年間を通して過度な直射光を避けながら、冬季により体感として暖かみが感じられる環境を構築しています。
・自然換気
北西、南東風の発生頻度が非常に高い卓越風、中間期に低湿度かつ26℃を下回る環境条件を活かし、自然換気を取り入れた計画としています。1階ホールの換気窓とハイサイドライトを開けることで、階段を通じて執務室に風が抜け、中間期では空調レスで快適な室内環境を形成しています。
季節ごとの昼光利用シミュレーション
自然換気時の気流シミュレーション(南北断面図)
―― 放射暖房ルーバー
オフィススペースとリフレッシュスペースの間に、温水を用いた放射暖房ルーバーを設け、空間の緩やかな分節を行うとともに冬季のホットスポットとしての機能を与えています。
またコート掛けにも同ルーバーを設け、衣類乾燥機能を持たせることで、降雪地における健康・衛生の維持に配慮しました。
オフィス空間での利用
コート掛けとしての利用
Ⅱ.RESILIENCE
―― 災害復旧拠点として自立分散型電源システムを有するオフィス
北海道胆振東部地震を教訓に、建物の自立性を強化することをコンセプトの1つに掲げています。非常時に備えて複数のエネルギー供給設備を設けた自立分散型電源システムを構築するとともに、大会議室を事業継続拠点 および帰宅困難者等の防災拠点として機能させています。
RESILIENCE 要素技術一覧
―― 自立分散型電源システム
災害発生時における電源容量として3日間を定め、これらを複数のエネルギー供給設備(非常用発電機・電気自動車プラグイン・太陽光パネル+蓄電池・小型CGS)に分散備蓄することで、有事の信頼性向上を高めた自立性の高い電源システムを構築しました。
小型CGSは家庭向け汎用品を転用して採用し、さらに蓄電池はリサイクル品の採用を試みています。
自立分散型電源システムの概要
Ⅲ.WELLNESS
―― 健康性・快適性の向上
働く人の健康性・快適性を重視し、その維持と増進を図る施策の導入に加え、知的生産性の向上に寄与する仕組みを導入しています。積極的なバイオフィリックデザインの採用や、個別制御性を高めた光・風・熱環境システムの導入によって、執務者それぞれにとって居心地の良いオフィス空間を実現させています。
加えて、エントランスホールにはサイネージを設置し、建物の運用状況を見える化することで利用者の省エネ意識向上に寄与することを期待しています。
WELLNESS 要素技術一覧
エントランスホールに設置されたサイネージ
―― タスク&アンビエント照明*10・空調
執務室はベース照明で机上面照度を500 lxとするアンビエントの視環境を形成し、タスク照明は調光可能で最大750 lx の器具を設置しています。照明による消費電力は4W/㎡を実現し、利用者によっての快適性を損なうことなく全般照明方式と比較し約50%の省エネ効果を実現しました。
執務室全体を床下から空調し、更にひとりひとりが快適に過ごす工夫としてイス型タスク空調を導入しました。送風もしくは加熱が可能な椅子は体感温度を約 ±1℃ の範囲(5段階)で調整可能であり、Bluetooth通信により使われ方のデータを集積することで空調の運用改善判断を行うことが出来ます。
*10 タスク&アンビエント照明 : 「アンビエント」(周囲環境)照明として控え目の照度で室内全体を照明し、「タスク」(作業)照明として局部的に作業面を明るく照明する方式
今後の展望
カーボンニュートラルな社会の実現に向けて、ZEB建築の需要は全国各地にて益々加速しています。 ZEBの達成のためには、その土地の特徴を定量的に把握し、そこからいかにして環境と建築との好循環サイクルを生み出すかを構想、具現化する必要があります。本件の場合、厳しい気候に対して徹底した熱的遮断を果たすことと、限られた自然エネルギーを効果的に活かす技術を導入することの両立によって、その実現を図りました。
また、社内体制としては首都圏チーム主導のもと、北海道支店との連携体制によってプロジェクトを推進しましたが、コロナ禍での工事が余儀なくされるなか、リモート型業務の実践によって着工から竣工まで首都圏チームが現地へ訪れることなく無事完成を迎えることができました。当社の全国体制やリモート型業務環境を活かした先駆事例としての知見を活かし、今後も多様化していくお客様ニーズに対して、ロケーションに囚われない業務実践、品質確保の両立を図っていきます。
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