NTTファシリティーズ
FeatureNTTファシティーズジャーナル No.327
2018年5月

シミュレーションにより省エネルギーで快適なビルをサポート
今と未来を“見える化”する

“今”を知る

 ビルには様々なセンサーが設置され,温度や湿度,電力消費量などがリアルタイムに計測・計量されています。さらに,入退館の情報,設備機器の運転情報などを合わせると,大量の情報が収集・蓄積されています。しかし快適な室内環境であるか,適切な電力消費量であるかを知ることはできません。それは理想的な室内環境,電力消費量を知ることで初めて判断できます。

“未来”を知る

 ビルを運転管理するうえで,「このあとどうなるか」を知ることができれば,事前に対応を検討し,十分な対策をとることができます。天気予報のように一般に公開されている情報やビルのイベント情報など,過去のデータからある程度推測することは可能ですが,それを受けて「どうすればよいか」を検討するためには,高度なスキルが必要になります。不確定要素も多く,あらゆる側面から対応を検討し適切な妥当性を検討することは非常に困難です。

ビルのライフサイクルを通じて活用できる“ものさし”が必要

 “今”や“未来”の室内環境や電力消費量を評価するためには,それを定量化するための“ものさし”が必要です。一方で,
① ビルは様々な製造者の機器を組み合わせ構築される複雑なシステムであり,各々異なる
② 室内環境や電力消費量は,常に変動する気象状況や利用状況に影響を受ける
ため,統一的な基準を設けることができません。そこで,評価したいビルや気象状況ごとに,最適な室内環境状態や電力消費量をトータルに計算できるシミュレーションを“ものさし”として活用することが有効になります。
 シミュレーションを利用する際には,次のような点に留意する必要があります。1つめは,信頼性のあるシミュレーションツールを使うことです。特にエネルギーの評価は,ビルの投資判断に使用される場合もあるため,ビルオーナーが納得するものである必要があります。FITBEMSでは,信頼できるツールとして,国土交通省が監修したシミュレーションツールであるLCEMツールを採用しています。
 2つめは,同じシミュレーターを使い続けることです。評価のたびに基準となるシミュレーションを準備することは,時間や労力がかかり非効率的であるうえ,過去の評価結果との正確な比較が難しくなります。計画や設計の早い段階でシミュレーションを準備し,設計,工事,竣工・受渡の各段階ではオーナーの要求する品質のビルが構築できたことを評価し,運用段階では,最適な運用が行われているか評価するための基準とし,ビルのライフサイクルを通して利用し続けることが望ましいといえます(図1)。

図1:ビルのライフサイクルにおけるエネルギーシミュレーターの役割

図1:ビルのライフサイクルにおけるエネルギーシミュレーターの役割

実際に活用できる情報にするため見せ方を工夫して価値を高める

 シミュレーションは,ビルの“今”や“未来”の理想的な姿を計算し,データとして表現するツールです。しかし,シミュレーションから出力されるデータは数値の羅列であり,そこから必要な情報を見出し,読み解くためには専門的な知識を必要とするため,多くの利用者にとっては難しい作業となります。そこで利用者に応じた見せ方を工夫する必要があります。
 例えばビルオーナーに向けては,月単位・年単位での電力消費量の実績や,今後の予測値を示すことで,更新や改修の必要性を分かりやすく提示し,経営判断をサポートします。ビル管理者には,機器ごとの電力消費量の実績と予測値を統計的に見せることで,不具合の予見ができるようになります。オフィスの利用者には,室内の3次元温度マップなどを提供し,快適な環境を見える化することで,利用者の満足度を向上させます(図2)。

図2:利用者に応じた見せ方のイメージ

図2:利用者に応じた見せ方のイメージ

  現在では,エネルギーシミュレーションとFITBEMSを組み合わせ,センサーで計測された値をもとに理想値を自動的にシミュレーションすることで,実績値と基準値を同時に求め,見える化しています。また,ビルの3次元モデル情報を管理するBIMシステムとの連携も検討しています。できるだけ正確なシミュレーションを行うためには,必要な情報の収集や入力などの事前準備に多くの時間が必要ですが,ビルに関するデータベースとしてBIMを活用することができれば,準備段階での時間を短縮することができます。またビルの3次元情報とシミュレーターの情報を合わせることで,AR(拡張現実)やVR(仮想現実)と組み合わせたエネルギー情報の新しい見せ方が容易になると考えられます。
 シミュレーションは,ビルの環境や電力消費量の“今”や“未来”の状態を可視化し,あるべき姿を定量化できる有効な手段です。これを活用することで,省エネルギーで快適なビルづくりや,永く満足して頂けるビルサービスを支援していきたいと思います。


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