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2021年10月1日

イノベーションを生む、場を活性化するオフィス

  • 取  材: 横石 崇
    (&Co.代表取締役・プロデューサー/ Tokyo Work Design Week
    オーガナイザー/法政大学兼任講師)

「Tokyo Work Design Week(2013年)」開催風景

組織づくりに限らず人づくりを行う「&Co.(アンドコー)」代表取締役の横石氏は、様々なメディアサービスにまつわる新規事業開発のほか、国内最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」(2013年~)やコレクティブオフィス「北条 SANCI(鎌倉)」(2018年~)をはじめ、新たな価値・文化の創造に向けた様々な人材交流の場のプロデュースも手掛けておられます。このような多彩な活躍を通じて得られた知見を基に、これからの新しい働き方やオフィスづくりについて、お話しいただきました。

組織や業界や役職の壁を越えて個と個がつながる新しい働き方

働き方やオフィスづくりに深く関わるようになったのは、2013年に「Tokyo Work Design Week(以下、TWDW)」という働き方の祭典を主催してからです。組織の時代から個の時代に急速に移行していくことを以前より感じながら、才能あふれる人たちが個としての働き方や働く場の問題で困ったり悩んだりして奮闘する姿を見てきました。当時から企業のブランディングや組織開発に関わっていましたが、彼らの役に立てればと思い、「新しい時代の働き方の地図を作る」という信念をもってTWDWをスタートしました。
TWDWは、新しい働き方と出会うきっかけをつくっています。組織や業界や役職といったさまざまな壁を越えて、個と個とのつながりが実現できるように、トークセッション、ワークショップ、仕事体験ブースといったさまざまな仕掛けを施し、手触り感のある対面形式のきっかけづくりに徹底的にこだわりました。そうすることで、新しい働き方に関する本やWEBの平面的な知識の提供ではなく、働き方を変えたいと思っている人たちにとってリアリティがある立体的な地図をつくることができると思ったからです。こうした趣旨に多くの方々が賛同してくださり、今では韓国を含めて約3万人を動員する一大イベントに成長しています。
2018年に鎌倉にコレクティブオフィス「北条 SANCI(ほうじょうさんち)」をプロデュースし、今も支配人という形で人材交流のハブの役割をしているのも、さまざまな壁を越えた個と個とのつながりによるコラボレーションへの期待からです。あえて紹介制という高い会員制限を設けることで、個性的で才能豊かな面白い人たちが集まれるシェアオフィスを運営しています。AIエンジニアや編集者、デザイナーなどが頻繁にコラボレーションを行っており、変幻自在にプロジェクトが生み出されている場でもあります。
イノベーションを生み出すには、人と人のつながりや助け合いが必要です。そのためには、組織や業界・役職・経歴などの壁を取り払う必要があります。今はSNSの登場により、スマホやPCがあれば、壁を飛び越えて誰とでもコミュニケーションが取れてどこでも働ける時代になっています。旧来のそのような壁がどんどん溶けているのではないでしょうか。

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(写真)コレクティブオフィス「北条SANCI」(左:執務室、右:会議室)。業界・組織・役職・肩書などあらゆる壁が取り払われ、様々なコラボレーションが生まれている。(写真:北条SANCI)

熱中することでイノベーションが生み出される環境づくり

2021年になり、スタートアップのカルチャーが根づいている渋谷で、渋谷区と一緒になってShibuya Startup University(SSU)を開校しました。①ゼロをイチに変える起業家精神(ゼロイチ精神)を学ぶ、②選考の間口を広げるため、入学料・受講料をゼロにし、4か月のプログラムで協働共創を学ぶ、③渋谷ならではのスタートアップ経済文化圏の形成をゼロから行っていく、という3つの「ゼロ」によって、制約にとらわれずに自分の「好き」に夢中になり挑戦してもらう環境を提供し、イノベーションを生みだす人材育成を目指しています。コロナ禍における教育プログラムのチャレンジとして、3人1組のチームで課題をクリアして卒業していく「Learning by Creating」という実践型学習をオンライン授業のみで実施しています。1人ではなくチームで壁を越えていくことが、何よりも自分を成長させてくれると考えているからです。
自分が夢中になれることにそれぞれが熱中してコラボレーションを図ることで、イノベーションを生み出せる可能性は高まります。社会人に混じって学生も多く参加しており、最年少は14歳の女の子です。夢中には年齢も性別も関係ありません。仕事であっても、趣味であっても、夢中こそがイノベーションのエンジンに違いありません。

図1イリティの概念図

横石氏が事務局長を務めるSSUのコンセプト

イノベーションをお好み焼きに例えればオフィスは熱々の鉄板だ

ところで、そもそもオフィスとは誰のためのものなのでしょうか。現代のオフィスは、経営者のため、総務人事部のため、従業員全員のため、お客さんのためと、様々な顔を持っています。非常に不思議な、面白い存在です。
もともと日本の企業文化には、みんなで職場に年がら年中集まって、ワイワイガヤガヤと話しながら、手を動かして新しいものを作っていくという職場精神がありました。たとえば、ホンダが「ワイガヤ」と呼ばれるミーティング手法で、議論をぶつけあって世界的な大ヒット商品を生み出していきました。オフィスという場でみんなが時間を忘れるほど仕事に熱中してイノベーションを生み出してきたのは明白なのです。先日、米国を拠点にした世界的なリモートワークツールを提供する代表とお話をしましたが、「日本のオフィスカルチャーを参考にすることは多い」とオフィス内での対話の重要性を語っていたのが印象的でした。しかし、日本のオフィスカルチャーからも徐々にワイガヤがうすれてきていると感じており、さらにコロナでのリモート化が追い打ちをかけている状況です。

今後は今まで以上にオフィスづくりがイノベーションに直結することになります。日本企業がもう一度元気になるために、従業員のワイガヤを支えるオフィスをつくることへの立ち返りが求められています。
イノベーションというのはお好み焼きをつくるみたいなものかもしれません。素材ひとつひとつを見れば地味で素朴な存在かもしれませんが、異質な素材同士が混ざり合いながら、熱々の鉄板で焼かれてお好み焼きは完成します。
これを企業の話に当てはめると、自律型人材をいくら育てたところで、鉄板が熱々でなければ素材が生焼け状態のままでイノベーションを起こすことなど不可能、ということになるでしょう。空気を読むことを良しとせず、膝を突き合わせて意見をぶつけ合って新しい価値を生み出すための器が問われています。
いくら素材が整ったからと言っても、鉄板が熱々になっていなければダメなのです。オフィスはこの鉄板の役割を果たす必要があります。すべての従業員の個性を寛容に受け止め、みんなが主体的に意見を交わす活気あふれる場となり、それぞれの個性をさらに拡張していくことが、これからのオフィスに求められています。

オフィスのあり方が分岐点を迎えている今こそPDCAからOODAへ

コロナ禍によるリモートワークの拡大で仕事する環境が変わり、オフィスがないことによる生産性低下の懸念やそれに関する調査結果なども出てきました。中でも深刻なのは、組織の知の元になる暗黙知*の共有ができなくなっていることです。人が居合わせる島型対向オフィスなどの昭和的なオフィス哲学は、新人教育や企業文化形成において素晴らしい手段の1つでした。しかし、リモートワークの拡大と共に目的優先のコミュニケーションになり、暗黙知を共有する機会が減ったために組織やチームのアイデンティティ喪失を招いているところも少なくありません。オフィスは組織のアイデンティティをつくっていくとともに、自分自身のアイデンティティとも関わってくる存在です。
また、昨今ではプロジェクト型への業務展開が求められるなど、役職ではなく役割への移行が叫ばれています。組織における役職・肩書といったこれまで企業文化を支えてきた各々の会社の風習・習慣・常識といったものさえも溶け始め、組織マネジメントの考え方にも変化が現れています。オフィス自体が今のままで良いわけがありません。これからのオフィスに期待されているのは、単なる生産性の向上ではなく、アイデンティティを従業員の心に宿し、企業文化を創り出すことにより、新しい組織能力を獲得することにあります。
「人事は経営メッセージ」だと言われますが、これからは「オフィスに経営メッセージが宿る」と言っても過言ではありません。働き方改革の推進に加えコロナ対策を余儀なくされ、雇用制度もこれからいろいろ変化していくでしょう。企業におけるオフィスのあり方が分岐点を迎えていて、「そもそも、オフィスの機能とは何なのか」「自分たちの会社にとって、オフィスはどういう役割を果たしているのか」といった本質的な問い直しが、今後のイノベーションの分岐点にもなってくるように思います。 そこで重要になるのが、PDCAという「Plan(計画)」が起点になる思考や行動の旧来の様式にとらわれないということです。計画が途中で変わることを前提としたOODA*と呼ばれるアジャイル型のプロジェクトマネジメントに努め、ユーザーを中心とした行動の観察や考察をベースにしていくことが大切です。今のような見通しの利かない時代だからこそ、事業創造に限らずオフィス創造においても非常に有効な戦略だと思います。

*暗黙知:経験や勘といった言語化が難しい主観的な知識のこと。一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏は著書『知識創造企業』(1996年)において、日本企業が国際市場で存在感を発揮できている理由として「暗黙知が形式知に変換され、組織の知として蓄積されていく」ことを挙げている。

*OODA(ウーダ):「観察(Observe)」「仮説構築(Orient)」「意思決定(Decide)」「実行(Act)」のサイクルを繰り返す、柔軟かつ即応的な組織マネジメント手法。

人が集まるオフィスがイノベーションを創出する

これまでの10年を振り返って思うことは、日本人の働き方やオフィスのあり方に関してニュースではいろいろと騒がれますが、それほど大きな変化はなかったと考えています。むしろこれからの10年でとんでもない変革を迎える予感があります。
目下、新しい働き方の話題はハイブリッドワークに移りつつあります。特にシリコンバレーの企業群をはじめとする大手IT企業の場合、リモートワークとオフィスワークのいいところを融合させた基盤と制度を整えつつあります。来年は日本もそのような状況が顕在化し、いつでもどこでも自分らしく働けるようなハイブリッドワーク元年と呼ばれる年になると思います。その準備をしている企業とそうではない企業とでは、事業面だけでなく、人材確保をはじめ組織能力の面でもかなりの差がつくことになるでしょう。
リモートワークを契機として、「働き方が会社を成長させる」と経営層が認識を新たにし、働き方やオフィスを経営戦略に組み込むようになりました。リモートワークで仕事自体は滞りなく進むかもしれません。しかし、リモートワークが主体では企業が組織体として創造的になることや従業員の帰属意識やエンゲージメントを向上させることなどの限界が見え始めています。
オフィスは企業の理念や存在意義を伝えるメディアでもあります。オフィスが本来持っているポテンシャルを生かし、求心力のある働く場を作ることは、工夫次第でいくらでも可能です。従業員がオフィスに自らの意志で顔を出したり多様な人材が能動的に集まってきたりする、お好み焼きの鉄板のような熱々の場を作ることが、イノベーションを創出するカギだと思います。

「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)を主な仕事場にしている横石氏。眼下にSSUの舞台となる渋谷の街を見渡せる。

「渋谷から世界へ問いかける、可能性の交差点」SHIBUYA QWS(渋谷キューズ)を主な仕事場にしている横石氏。眼下にSSUの舞台となる渋谷の街を見渡せる。

著者プロフィール
  • 横石 崇
    横石 崇
    &Co.代表取締役・プロデューサー/ Tokyo Work Design Weekオーガナイザー/法政大学兼任講師
    1978年大阪生まれ。多摩美術大学卒。広告代理店、人材会社を経て、2016年に&Co., Ltd.(アンドコー)を設立。ブランド開発やコミュニケーション戦略、社会変革を中心としたプロジェクトプロデューサー。毎年11月に開催している、アジア最大規模の働き方の祭典「Tokyo Work Design Week」では3万人の動員に成功。鎌倉のコレクティブオフィス「北条SANCI」支配人。渋谷区発の起業家育成機関「渋谷スタートアップ大学(SSU)」、集合本屋「渋谷◯◯書店」などをプロデュース。代官山ロータリークラブ会員。法政大学兼任講師。米国ビジネス誌「FAST COMPANY」をはじめ国内外でアワード受賞。著書に『自己紹介2.0』
    (KADOKAWA)、『これからの僕らの働き方』(早川書房)がある。

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