ワークスタイルや価値観の多様化が進むなかで、職場におけるチームのあり方にも再考が求められています。一人ひとりが個性を活かし、モチベーション高く働くために、チームや組織はどのように変化していくべきでしょうか。創造性を生む組織づくりを専門とするコンサルティングファーム、株式会社MIMIGURI代表取締役Co-CEOの安斎勇樹さんにお話を伺いました。
目の前の課題ではなく、その課題を生む「環境」に目を向ける
私が共同代表を務めるコンサルティングファーム・MIMIGURI(ミミグリ)は文部科学省認定の研究機関の一つであり、「人と組織」に関する研究や「人と組織の可能性を最大限に活かした新しい多角化経営モデル」を提供しています。これまでの研究成果は複数の著作にまとめ、同様の悩みを抱える企業への解決法として発信しています。
現在のキャリアに至る原体験は、大学時代に熱中していたワークショップの活動にあります。当時、私は大学に通いながら、遊び心のある活動で創造性を育む小中学生向けワークショップを運営していました。そして、この活動を通じて「場の設計や問いかけの方法によって子どもたちの発言回数や積極性が変わる」ことが分かりました。そこでの体験から環境や人間関係が人の創造性に大きな影響を与えることを痛感した私は、人や組織についての研究を始めました。その後、MIMIGURIの前身となる会社を創業し、企業の組織変革や文化醸成などのプロジェクトに携わるようになります。
現在まで、多岐にわたる企業の課題や領域に関わってきましたが、なかでも多く取り扱ってきたのが「組織間に生じる問題」です。組織内の問題は比較的解決しやすいのに対し、組織間の問題はそれぞれの所掌範囲が曖昧であり、複数組織の利害がぶつかることも多いからだと考えています。例えば、企業が提供するプロダクトについて、営業組織と開発組織との間でKPIや目標が異なるために利害が一致しないというケースは珍しくありません。
こうした問題に対しては、適切な問いやファシリテーションを通じて解決を促します。先ほどの営業組織と開発組織との対立の例なら、単にKPIや目標を最適化するだけでなく、「組織間で協働しやすい環境とは何か」「その環境はどうすれば実現できるのか」といった問いを投げかけ、問題の根本にある真の課題を解き明かしていきます。目の前の問題に囚われるのではなく、その問題を生んでいる土壌に目を向け、本質的な課題解決へと導いていくのが私の役目です。
なぜ今、組織に「冒険的な世界観」が必要なのか
昨今、組織やチームに関する悩みをよく耳にします。ワークスタイルや価値観の多様化が進むなかで、既存の職場のあり方に疑問を感じる方が多いのでしょう。それには私も同感で、今まさに私たちは組織に対する意識を刷新する過渡期を迎えていると思います。
この「意識の刷新」を、私は「軍事的な世界観から冒険的な世界観へ」という言葉で表現しています。「軍事的」というとやや物騒にも聞こえますが、現在の企業組織や企業文化の多くの部分は、軍事にルーツを持ちます。「戦略」や「ロジスティクス」といった軍事に由来する用語は現在も頻繁に用いられていますし、ハーバート・A・サイモン『経営行動』*¹をはじめ、経営学の古典的名著には軍事や軍隊を参照しているものが少なくありません。
軍事が経営に転用されてきた背景には、製造業を中心に発展した20世紀の産業に、均質で勤勉な労働者が欠かせなかったという理由があります。工場のラインを安定させ、計画通りに製品を生産するためには、軍事で培われた方法論やノウハウが労働者の育成に最適だったのです。
しかし、こうした世界観にはすでに限界が見え始めています。不確実性が高まる昨今の市場環境においては、従来型の硬直した組織からは自由な発想やイノベーションは生まれにくく、柔軟で先を見据えた組織運営が求められます。
これからは、軍事的な世界観に加えて、不確実な環境において一人ひとりがものごとを探究しながら価値を生み出す「冒険的な世界観」を取り入れることが必要だと考えています。この世界観では、従業員それぞれが強みを発揮しながら集団の目的を達成していき、「個性を活かし合う仲間」へと変化していくことが求められます。組織を次世代型にアップデートするうえでは、こうした変化が必要不可欠です。
*1 『経営行動』:国際的社会学者であるハーバート・A・サイモンが、経営組織における意思決定過程の研究成果について発表した書籍。初版は1947年に発行。
「つながりの再構築」が組織の世界観を刷新する
冒険的な世界観を実現するために重要なのが、チームにおける「つながり」です。近年は多くの大企業が新規事業の創出に挑戦していますが、これが失敗する主な理由は、事業そのものの質やリソース不足などではなく、社内で十分な支援やサポートが得られなかったからだといわれています。周囲から応援されるためには、その取り組みに関する背景や、それを押し進める個人の思いなどを伝え合い、「つながり」を再構築していくことが大切です。
しかしワークスタイルや価値観の多様化が進んだ現在、共に働く仲間がどのような考えを持ち、仕事において何を大切にしているのかを知ることは、以前よりも難しくなっています。リモートワークでは物理的な接触の機会が減少しますし、「飲みニケーション」も随分と少なくなりました。
では、どのように「つながり」を再構築すればよいのでしょうか。私は「可視化」がキーワードだと考えています。一人ひとりの思いや、とりとめのない考え事など、一見すると業務には関係のないような情報を、忌避感が生まれない程度に可視化するのです。
例えば昨今、従業員同士が雑談するポッドキャストを社内で配信する取り組みが一部の企業で行われています。これは従業員たちの個性を可視化し、チーム内でのつながりを生むきっかけになります。このように、通常の業務では顕在化しにくい一人ひとりの個性を、何らかの手段で可視化することで、チーム内のつながりを醸成できるのです。
また、逆説的ではありますが、「つながり過ぎない」ことも大切です。社会学者のマーク・グラノヴェッターは、密な人間関係よりも弱いつながりの人間関係のほうが新規性のある情報が流通しやすいとする「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」という理論を提唱しています。つまり、適度な人間関係の希薄さを保つことで、逆に有意義なつながりが生まれることがあるのです。
一方で、職場に限らず、あらゆる共同体は「村社会化」しやすく、構成員の個性を抑圧する傾向があります。そのため、従業員が所属部署や人間関係から自由になれる時間や場所を設けることは有効な手段のひとつです。例えば、フリーアドレスやオープンスペースなどをオフィスに取り入れることで、個性を発露しやすい環境が築かれ、有意義なつながりが醸成されやすくなります。
さらに「場」の観点でいえば、オフィスの設計でも従業員同士のつながりを後押しできます。海外ではイノベーション研究の文脈でさまざまな実験が行われているのですが、例えば部署Aと部署Bの中間に休憩室や食堂などのコミュニケーションパス(情報が伝達される経路)があると、部門A・部門Bに接点が生まれます。また、部署Aと部署Bの構成メンバーの座席を一部入れ替えると、部署Aと部署Bの交流がとても活発になります。一方で、部署Aと部署Bを別フロアに配置すると、部署Aと部署Bのコミュニケーションは激減するのです。
このことから、「つながり」やコミュニケーションにおいては「視界に入ること」が非常に大切だと言えます。ショッピングモールで目的の店舗に向かっている途中、別の店舗が目に入り、興味を惹かれることはないでしょうか。これと同じ要領で、業務では関わらない部署の従業員が視界に入るようにすることで、他組織の従業員たちにも自然と関心を向けるようになるのです。
すべての施策はカルチャーづくりであるべき
施策や制度を設けるだけでは、従業員の行動変容を起こせるわけではありません。そうした施策や制度を「どのような意味づけで運用するか」によって、取り組みの成果は大きく変わります。
例えば先日、働き方に関するアワードで、ある建設会社が表彰されました。その企業では、ベテラン従業員における有給休暇の取得率がなかなか上がらず、その影響で若手従業員も有給を取得しにくいという課題がありました。ベテラン従業員には仕事を生きがいにしている職人気質な方が多く、それが有給休暇取得のボトルネックになっていたようです。
そうした状況に頭を悩ませていた人事担当者が、ベテラン従業員たちの行動を観察しているうちに、あることに気付きました。普段は仕事に厳しいベテラン従業員たちが、孫の学芸会や習い事の話をしているときには表情が緩み、とても楽しそうにしていたのです。
これをヒントに「孫と過ごすための休暇制度」を設置したところ、ベテラン従業員たちの有給休暇取得率は劇的に向上し、それに伴って全社の有給休暇取得率も向上しました。さらに、ベテラン従業員たちがプライベートを充実させることで自然と社内の会話が増え、従業員間のつながりが強化されるという副次的な効果もあったそうです。
この事例のポイントは、人事担当者が現場をよく観察し、制度に「自社に適した意味づけ」を行ったことです。他社の事例をただ真似するのではなく、従業員の振る舞いを観察し、自社に合わせてアレンジしたからこそ成果が得られました。
こうした事例からもいえることですが、私は「すべての施策はカルチャーづくりであるべき」だと考えています。自社のカルチャーとは何か、あるいは築き上げたいカルチャーは何なのか。そうした視点に基づいて、あらゆる施策を考え、実践していくと、社内のつながりを再構築し、より強固にすることができるのではないでしょうか。まずは、自社の環境を丁寧に観察することから始めることをお勧めしたいです。
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