NTTファシリティーズ
Case StudyPROJECT事例
2022年4月8日

伝統と⾰新の融合 - 新風館 -

新風館(京都府京都市中京区)は、逓信建築の旧京都中央電話局を活⽤しながら、2001年から段階的開発を行っています。今回新たに増築棟を加え、「商業施設+ホテル」の複合施設として2020(令和2)年3⽉に竣⼯しました。歴史的建築物の意匠を現代の技術で蘇らせながら新増築棟を実現させた本プロジェクトについて、意匠保存や新旧の共存、通信設備への配慮などの観点から、エピソードを紹介します。

伝統と⾰新の融合

―― 旧京都中央電話局の記憶

「新風館は、逓信建築の先駆者である吉⽥鉄郎⽒によって設計された『旧京都中央電話局』を活かした宿泊施設機能を有する複合施設です。京都市内の中⼼部に位置し、歴史的建築物を再⽣した旧棟(2001年竣工)と今回新たに増築された新棟による構成になっています」(⾼橋)

「旧京都中央電話局は、⽇本で最初期の鉄筋コンクリート造建築物です。⽊造建築物が⼤半を占める時代に、⻄洋の技術を取り⼊れた新たな建築として1926(⼤正15)年に竣⼯。1983(昭和58)年には、京都市登録有形⽂化財の第1号として指定されるなど、京都市における歴史的景観を⽀えてきました」(外尾)

鉄筋コンクリート造の旧京都中央電話局は、⽊造建築が並ぶ町屋の中でひときわ目を引く存在だった

その後、2001年に当社と英国の建築家リチャード・ロジャースが意匠を手がけ、「街」と「人」 、そして「歴史的建造物」が呼応する魅惑的な商業施設として生まれ変わりました。京都に新しい風を吹かせたいという想いから、「新風館」と名付けられたその施設は、「人の営みが展開する場」を求めたデザインにより中庭を囲んだ多目的で開放的な場として、地域に愛され、多くの人々で賑わいました。

そして2016年に、NTT都市開発の企画・プロデュースの基、当社と隈研吾都市建築設計事務所の設計により、ホテル・店舗・映画館からなる複合施設への本格的な再開発を目指して、本プロジェクトが始動しました。

新風館外観(リニューアル前)

解放感のある中庭(リニューアル前)

意匠の復元

―― つながりを⽣み出す意匠

「リニューアル前の新風館には地域の⼈たちに開放された中庭があり、市⺠の⽅々に親しまれ、それが街の記憶として定着していました。容積率確保の観点から中庭を設けない選択肢もありましたが、事業主であるNTT都市開発様からは、電話局や中庭の記憶を継承したいとの強い要望がありました」(⾼橋)

「中庭は、京都の⼭間部の植栽を⾃然に近い状態で再現しています。東洞院通り側の建物に設けられた屋上庭園では、電話局の時代に敷地内で発掘された室町時代の滝⽯組を当時のまま復元し、配置しています。ホテルのインテリアにも、興提灯の伝統技法が随所に盛り込まれています」(外尾)

地域の結節点となる中庭

地域の結節点となる中庭

「新風館は、烏丸通り、姉⼩路通り、東洞院通りに⾯しています。この3つの通りをつなぐ⼩路(ストリート)を敷地内につくり、⼈の流れを⽣むことで地域の活性化を図っています。また、京都に残る昔ながらの街並に建物が溶け込むように、例えば、格⼦上のルーバーなど意匠を⼯夫することで温かみや柔らかさを表現し、街並みとのつながりや動線 上のつながりを⽣みだそうとしています」(⾼橋)

3つの通りをつなぐ⼩路(ストリート)

3つの通りをつなぐ⼩路(ストリート)

京都の⽂化や街並みとのつながりを⽣み出す特徴的な意匠

―― タイルと格⼦窓

「旧棟は、新築時の意匠を現代の技術で復元しています。タイルの貼替え範囲の検討にあたっては、劣化に加えて過去の修繕で建設当初の質感と異なる既製品のタイルが使われた箇所も対象としており、より精度高く当時の意匠を再現することを目指しています。タイルパタンについても、新旧が混在した姿が自然に見えるように、配列に工夫を凝らしています」(高橋)

タイルが⾃然に⾒える配列をいくつかのパターンを作って検証した

「格子窓は、見た目は旧電話局時代のまま復元し、現代の技術でアップデートを図っています。パテで固定された単板ガラスの鋼製窓を押縁とシーリング固定によるアルミ製に更改することで、格子窓の繊細なディテールの再現と断熱性や耐震性の向上を両立しています。現場での実測調査やモックアップによる検証を行い、当時のデザインを追求しました」(高橋)

格⼦窓は、外形寸法は当時のままとしながら性能を向上させている

「今回の改修で新たに必要となった消防隊の非常用進入口についても工夫しました。外部から進入できるよう開閉機構を持たせながら、FIX窓と変わらないディテールとしています」(高橋)

地下鉄接続

「地下鉄との接続工事があったこともこのプロジェクトの特徴のひとつで、施工に際してはパイプルーフ工法を採用しています。これは鋼管を敷地に圧入し、管の中に人が入って土をかき出していくという特殊な工法で、土木コンサルとの協働によって実現に至りました。」(外尾)

パイプルーフ⼯法の施⼯現場

パイプルーフ⼯法の施⼯現場

「本プロジェクトでは、当社は設計監理及び関連工事全体を統合する立場を担いましたが、様々な専門技術者やデザインアーキテクト、コンサルタントとの共同の中で実現へと導くことができました。これだけ関係者が多いのにも関わらず一体感があり、ともに追求し共創しあうことができたのは、『伝統と革新の融合』というコンセプトに共感し合えたからだと考えます。」(外尾)

「地下鉄接続や既存建物のリニューアル、意匠保存など、複合化された技術的挑戦がありました。今後、より高度化されていく街づくりにおいても同様に、多岐にわたる敷地の課題や社会的要請等に対して当社のもつエンジリアリング力によって応え続けることが当社の使命だと思っています。」(高橋)

プロフィール
  • 外尾 政信
    NTTファシリティーズ
    首都圏事業本部
    都市・建築設計部 建築設計部門
    第二設計担当 課長(当時)

    外尾 政信(ほかお まさのぶ)
    1996年にNTTファシリティーズ に⼊社。関⻄⽀店でベースロード業務を中⼼に携わり、その後本社建築事業本部に異動。グランフロント⼤阪、新風館の設計業務に従事。現在は、複数の再開発プロジェクト、商業施設の設計を⼿掛けている。
  • 高橋 清紀
    NTTファシリティーズ
    首都圏事業本部
    都市・建築設計部 建築設計部門
    第四設計担当 課長(当時)

    高橋 清紀(たかはし きよのり)
    2006年にNTTファシリティーズ に⼊社。⼊社時は北海道⽀店配属、その後本社建築ソリューション部に異動。ベースロード業務からメガソーラー、DC、通建会社新築等の請負⼯事設計に従事。その後建築デザイン部門を経て、現在は、宿泊施設の設計を⼿掛けている。

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