NTTファシリティーズ
FeatureNTTファシティーズジャーナル No.325
2018年1月

進展する
デジタルトランスフォーメーション

ビジネスや人々の暮らしを変える「デジタルトランスフォーメーション」

 今や世界的に広がりをみせているデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)。接頭辞「Trans」を「X」で表記する英語の慣習からDXの略称で呼ばれることが多く,日本では「デジタル変革」という用語も定着しつつあります。
 デジタルトランスフォーメーション(DX)は,2004年にスウェーデンのウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱しはじめた概念です。2016年頃からビジネスシーンでも使われはじめ,「最先端のICTやデジタル技術の活用でビジネスを変革し,新しい製品・サービス,ビジネスモデル,価値を創出する取り組み」と定義されています。
 十数年前まで主流であったマスマーケティングでは,企業が発信するテレビCM・新聞広告・雑誌などの媒体を介してユーザーは情報を得て,実際に店舗へ足を運びサービスを利用,あるいは商品を購入していました。最近ではインターネットを利用し,SNSや口コミサイトなどからの情報をもとに商品やサービスを選択する時代になりました。このような「ユーザーの購買行動のオンライン化」に対し,既に多くの企業が自社ブログやSNS,オンラインショップなどを運営し,ターゲットマーケティングあるいはセグメントマーケティングと呼ばれる手法を用いて市場のニーズに対応しています。
 では,なぜDXという概念が注目されているのでしょうか。それは社会のデジタル化がユーザーの購買行動をオンライン化させ,新たなサービスモデル,価値を提供し,企業にビジネスチャンスと新たな競争をもたらしているからです。
 よく語られる例が,本の販売です。本の販売のデジタル化の第一段階では,オンラインによる書籍購入が普及し,インターネット上で早く,簡単に,安く購入できるようになりました。「本を販売する」というビジネスは大きく変貌しましたが,この段階では,品揃えの豊富さや価格,購入の利便性というところまでが差別化要因でした。
 次の段階では,ネットワークを活用した世界中の書籍の検索機能,オンラインでしか実現し得ないいわゆる「ロングテール」の品揃え,さらには購入履歴を使ったリコメンデーションといったデジタル化ならではの独自のサービスへと進化しました。本の販売プロセスに今まではなかった切り口を提供し,ユーザーの選択肢を増やすと共に,ニッチな書籍を扱う企業や,海外書籍の輸入ビジネスというビジネスチャンスを生み出したことになります。
 その次は,本の中身(コンテンツ)自体のデジタル化です。電子書籍の普及は,「紙でできている本」を「デジタルコンテンツ」へと,商品自体をも変革させました。コンテンツのデジタル化は,ユーザーにとっては保管場所を必要とせず,いつでもどこでも好きな時に何百・何千という書籍に接することができるという価値をもたらし,一方で企業には「本を届ける」という配送プロセスや「本を印刷する」というプロセスを不要にしてしまいました。
 このようにデジタル化によって,既存の産業構造が破壊されることを,デジタルディスラプションと呼びます。デジタルディスラプションを引き起こして競争力を獲得すること,あるいはこのような変革に対応できるよう準備することは,全ての企業にとっての優先事項になるため,今,DXが注目されているのです。

DXを支えるICT技術

 DXを支えているのは,ICT技術の進展です。具体的には,ネットワークの高速・大容量化,経済活動のオンライン化に伴うビッグデータの蓄積,それらを分析するAI・データ解析方法の高度化などの複合的に進化しているものです。
 ヒトやモノがデジタルデータで直接つながり,地域や時間,移動といった様々な制約を気にすることなく,新たなビジネスモデルをつくり出せるようになってきています。また,スマートフォンやタブレット端末の普及により,誰もがインターネットに常時つながっていることで,ユーザーのオンライン化に拍車がかかり,日々蓄積される膨大なデータが事業に役立つ知見を導き出すビッグデータとして活用されるようになっています。そして膨大なデータをAIが分析することで,新たな気づきや定量的なデータに基づく将来の予測も可能となります。
 このようなことから,従来はICTやデジタル化とはあまり縁のなかった業種でも,AI,IoT,ビッグデータの活用を前提にした新たなサービスを提供する企業が増えてきています。

ICT技術の進展がデータセンターにもたらす影響

図1:世界で生成される年間データ量の予測

図1:世界で生成される年間データ量の予測
出典:IDC White Paper, sponsored by Seagate, Date Age 2025, April 2017

 こうした中,プラットフォームの上で流れるデータを集め,蓄積し処理をするデータセンターは,DXを支える重要なインフラであり,そこにも変革の波が訪れています。米国調査会社のIDCによると,世界で生成されるデータ量は,2025年には163ZB(ゼタバイト。1021バイト)になると予測されています。これは,仮にブルーレイディスクに収めて積み上げた場合には,地球と月をおよそ5往復できるボリュームであり,16.1ZBであった2016年比で10倍もの量になります。これらはIoTやサービスのデジタル化の進展によって,今後も増加するとみられています(図1)。

 また,生み出された膨大なデータの分析・解析には,ディープラーニングなどAI技術を活用する事例も増えていますが,こうした情報処理は次世代型ワークロードと呼ばれ,非常に高い計算能力が必要になります。
 データ量の増加と次世代型ワークロードに対応するために,データセンターにはコンピューティングリソースの増強が求められます。コンピューティングリソースを増強する手法には,一般的に「スケールアップ」と「スケールアウト」があり,状況や目的に応じて双方のアプローチが取られます(図2)。
 スケールアップは,プロセッサーの高性能化や,メモリーやストレージの増設などを行い,サーバー単体の処理能力を向上させる方法です。ディープラーニングやビッグデータ解析などに代表される,複雑な演算が求められる次世代型のワークロードの処理にはスケールアップによる対応が必要ですが,CPUの高性能化だけではドラスティックなスケールアップは望めないため,特定の機能を持ったアクセラレータ(処理速度を向上させるハードウェアまたはソフトウェア)を導入して処理能力を向上する対応が進められています。例えば,グラフィックス処理を行うGPUを用いてディープラーニングやイメージ処理などの計算量の多い処理を分散させるなどの手法がその一つです。このようなスケールアップのための対応は,ICT装置単体の消費電力の増加,すなわちデータセンターにおける消費電力密度の飛躍的な上昇をもたらします。
 一方スケールアウトとは,サーバーの台数を増やしてシステム全体で性能を向上させる方法で,多量の情報を分散処理するのに適するとされています。装置を並列に設置するため,装置台数の増大やシステム規模を拡大する方向に作用します。
 DX時代のデータセンターでは,次世代型ワークロードとデータ量の増加に対処するために,設置される機器の性能アップに伴う消費電力密度の増加や,ICT装置の数そのものの増加という変化が生じることになります。

図2:DXの進展とデータセンターの変化

図2:DXの進展とデータセンターの変化

DX時代のデータセンターの進化への期待

 DXの進展によりビジネスは変革し,人々の暮らしはより安全・快適なものに変わっていくことが期待されています。そのDXを支えるのはいうまでもなくデータセンターであり,データセンターで障害が発生した場合,その影響はもはや単一の企業にとどまらず,業種・産業の境界を越えていくのがDX時代です。人々の暮らしの多くを支えるDX時代のデータセンターは,もはや欠くことのできない社会インフラだといえます。
 本格化していくDX時代。「変化への対応が完了する前にまた次の変化が求められる」。従来の限界を乗り越え,社会の要請に応えるデータセンターの進化に期待が寄せられています。


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