NTTファシリティーズ
FeatureNTTファシティーズジャーナル No.325
2018年1月

飛躍的に増大するICT装置の発熱
~冷却と放熱はどうあるべきか~

次世代型ワークロードの拡大に伴うICT装置発熱の飛躍的な増大

 GPUなどをアクセラレータとしてスケールアップされたICT装置は,非常に大きな電力を消費します。近年ではわずか3U(高さ約133.35mm)のサイズで3kWを超える消費電力のサーバーもリリースされており,このようなサーバーが仮に42U搭載可能な19インチラックにフル搭載されると,1ラックで数十kWもの消費電力になります。
 これは,近年のデータセンターの平均的な消費電力がラックあたり4~8kW程度であったことを考えると,非常に大きな値であるといえます。ICT装置で消費された電力はほぼ全て熱に変わるわけですから,このような消費電力の増大は,データセンターの発熱密度の飛躍的な増大を意味します。

高発熱なICT装置の冷却に求められること

 高い発熱密度は,冷却の問題を生じます。従来ICT装置の冷却は,空調機から供給される冷たい空気を熱の媒体とした「空冷」が主流でした。しかしながら空冷では,発熱量の平均として,1ラックあたり20kW程度の発熱しか冷却できないといわれています(図1)。空調設備の設置スペースの制約や,ICT装置の風量の限界などがあるためです。

図1:空冷による冷却性能の例

図1:空冷による冷却性能の例

 したがって,1ラックあたり数十kWの発熱というスケールアップに対応するためには,新たな冷却手段が必要になってきます。
 この新たな冷却手段として,現在普及が進みつつある技術が液体冷却(以下,液冷)です(図2)。冷却する対象から熱を奪い,搬送するために流体を媒体として用いる冷却の場合,その冷却能力は以下のような式で表すことができます。

冷却能力=媒体の比熱×媒体の密度×流量×温度差

 この式は,比熱と密度が大きな流体を媒体として用いると,より少ない流量,小さな温度差で多くの熱を搬送することができるようになることを示しています。一般的には気体よりも液体の方が比熱や密度は大きく,例えば水の場合,比熱は空気の4倍,密度は空気の800倍にもなります。液冷では液体を媒体としてICT装置からの排熱の搬送を行うため,少ない流量,小さな温度差で非常に大きな冷却能力を発揮できるようになります。

図2:液体冷却の構成例(コールドプレート方式の一例)

図2:液体冷却の構成例(コールドプレート方式の一例)

 液冷の特長は,大きな冷却能力を発揮できるだけではありません。
 空気を搬送するために使用してきたファンの大きな動力が不要になることと,媒体である液体の搬送温度を空気と比べ高くできることから,冷却のために必要な電力を大きく削減できることも大きな特長です。
 さらに,熱搬送媒体の体積が小さくなるため,冷却設備を小さくできるという特長もあります(図3)。

図3:空冷と液冷の比較

図3:空冷と液冷の比較

液冷に関する論点

 液冷は前述の通り,高い冷却能力で省エネルギーかつコンパクトという優れたメリットがあるため,高発熱のICT装置の導入拡大と共に,今後一気に普及が進んでいく可能性があります。
 一方で,液冷に関する論点は少なくありません。液冷をいつ頃から,ICT装置のどの程度の割合に対して導入し,チラーや冷却塔などの熱源設備を屋外のどこに設置すべきかなどです。
 また液冷は,空冷のように冷却設備をファシリティ側で準備するだけでは足らず,ICT装置もそれに対応した構成になっている必要があります。
 さらに,液冷の方式にも議論があります。液冷は,現在のところコールドプレート方式と液浸方式の2種類が実用化されています。コールドプレート方式は,冷却液をICT装置の発熱部にまで搬送し,コールドプレートと呼ばれる冷却板を介して発熱部の冷却を行う方法です。液浸方式は発熱部だけでなく,ICT装置のシャーシーをまるごと冷却液に浸けて冷却を行う方法です。
 これらは,ICT装置と冷却機構の接続の仕方や運用方法が大きく異なるため,どちらの方式を採用すべきかは大きな論点となるのですが,どのように棲み分けを行うべきかはまだ明確になっていません。

放熱面積は充足するのか

 前述のように液冷に関する論点は多くありますが,特に熱源設備の設置スペースの確保は,極めて重要な問題になってくると考えられます。
 データセンターの冷却は,大まかに3つの工程に分けることができます。①ICT装置からの発熱を吸収する吸熱(冷却),②熱を室外に運び出す熱搬送,③熱を室外の空気に放出する放熱です。
 この表現の中では,液冷とはICT装置からの吸熱を行う媒体として冷却液を用いることで,室内で行う吸熱(冷却)の密度を高める技術です。一方で,室外への熱搬送は多くの場合その媒体として水が用いられていますし,室外での放熱にはチラーや冷却塔が用いられています。これは,空冷の際にも用いられていた従来技術です。
 液冷を導入すれば室内側の冷却密度は高まりますが,熱搬送のために必要となる配管や,放熱のための屋外設備の密度は変わらない,という不均衡な状態が生じ得ます(図4)。

図4:発熱密度と屋外設備スペースの関係性

図4:発熱密度と屋外設備スペースの関係性

 仮に設置されるICT装置の大部分が高発熱化し,それに合わせて無計画に液冷設備の導入を進めてしまった場合には,室外側の放熱設備用の面積が不足する懸念が生じることになります。
 熱源設置スペースの不足は,建物の規模の観点でも懸念されます。スケールアウトへの対応や,規模の経済性追求のため,今後のデータセンターはさらなる大規模化が進行する可能性がありますが,大規模化に際しては,空調屋外設備の設置スペースを慎重に確認する必要が出てきます。
 データセンターに設置できるICTラックの数は,大まかには「建築面積×フロア数」に比例するといえますが,空調屋外設備が設置できる数は,建物の周囲の敷地を利用できる場合を除き,「屋上面積≒建築面積」にしか比例しません。建物の規模が大きくなりフロア数が増えると,熱源設備が設置できる割合はラック数と比較して相対的に小さくなるため,今後建物の大規模化がさらに進行すると,空調屋外設備スペースの不足に拍車がかかる可能性があります。

冷却技術の変化に対応する設計プラン

 ラックあたりの発熱が数十kWの超高発熱ICT装置の冷却技術はいまだ黎明期にあり,前述のような導入時期や規模,方式といった課題の検討のために必要な情報は,データセンター業界を見渡しても十分には存在しないというのが現状です。今後も,データセンターを建設・運用していく上では,この不透明で予測しがたい変化への受容性をいかにして確保するかというのが重要な課題となります。
 このような状況の中で,NTTファシリティーズはデータセンターの新たな設計コンセプトを提案しています(図5)。

図5:NTTファシリティーズが提案する新しい設計コンセプト

図5:NTTファシリティーズが提案する新しい設計コンセプト

 このコンセプトでは,バルコニーを空調屋外設備の設置スペースとすることで建物としての放熱面積を増やし,設計時点で見込まれている発熱に対処します。また,バルコニーに設置する空調機は,効率に優れた間接蒸発冷却式とすることで,非常に高い省エネルギー性能を実現します。
 バルコニーに空調機を設置することで確保した屋上スペースは,将来,超高発熱ICT装置の冷却が追加で必要になった場合のスペースとして活用します。
 「放熱面積を拡大することで冷却設計の整合性を保ちつつ,将来の不透明性にも対処する」。DXがもたらす予測困難な将来の技術変化に対して十分な対応余力を保有するためには,建物計画を含めて冷却をデザインすることが重要であると当社は考えます。


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