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2020年8月21日

ハイパースケールデータセンターの
ファシリティトレンド

ハイパースケールデータセンターとは

 近年国内では,「ハイパースケールデータセンター(以下,HSDC)」と呼ばれる巨大なデータセンター(以下,DC)の建設が相次いでいます。HSDCは,メガクラウドとも呼ばれるグローバルにクラウドサービスを提供する事業者に貸し出すことを前提に建設される超大規模なDCのことを指し*1,従来のDCとは異なる特徴を有しています(図1)。
 本特集では,HSDCとは何か,そこで求められる要件と必要な対応について解説していきます。

  • *1本稿ではメガクラウドが自ら建設するDCを除く
図1 メガクラウドとHSDCの概念図

図1 メガクラウドとHSDCの概念図

グローバルでマーケットを席捲するメガクラウド

 クラウドサービスは,デジタルトランスフォーメーションの進展に伴いAI,IoT,5Gといったテクノロジーのプラットフォームとなっていると共に,政府もクラウド・バイ・デフォルトを原則として,基盤システムのクラウドへの切り替えを宣言する等,すでに社会基盤になくてはならない存在になっています。メガクラウドはグローバル規模でサービスを展開しており,スケールメリットを活かしたビジネスを展開できる点で他のクラウドサービス事業者に対し優位性を持っています。他の事業者は自社クラウドに特化することなく,メガクラウドのサービス取扱いを推進していることも多く,今後もメガクラウドが他の事業者を飲み込みながらさらに大きな市場を形成していくと予想されています。

メガクラウドの求めるDCの要件

 クラウドサービスの根幹を担うDCには,3つの大きな要件があります。
 まず,レイテンシー(通信の遅延)を目標以内に収められる立地であることは必須の要件となります。また膨大な量のサーバー資源を収容し,稼働させるためには,広大なスペースと大電力が確保できる必要があります。さらにメガクラウドは世界中どこにいても同様にサービスが利用できるようDCに一定の品質基準を設け,世界中で統一しています。このような取り組みは,各国での個別検討を避けサービス展開を迅速にし,拡大する需要に対応するという目的もあります。
 つまり,メガクラウドが要求するのは,「適切な立地」「大規模」「統一された品質」のDCであるといえます。

DC事業者から見たHSDC

 このような要求に応えるHSDCには,DC事業者にとって重要な特徴があります。その名の通りスケール(規模)が大きいHSDCですが,ユーザーは大規模調達を行う特定数社のメガクラウドに限られます。このことはDCを構築し,提供する立場にあるDC事業者からみると非常に大きな意味を持ちます。
 メガクラウドの大量調達の結果として,契約がルーム単位やPOD*2単位のように大きくなると共に,ファシリティの専有化が生じます(図2)。
 従来のDCでは多数のコロケーションユーザーをターゲットとし,マーケティングに基づいてDCの仕様が決定されていましたが,ユーザーが限定され専有されることで,その特定のユーザーのニーズをダイレクトに反映した仕様とする必要が生じます。そのユーザーニーズは「統一された品質」であり,仮に統一品質と異なった仕様を提供しようとする場合には,その仕様が要求されている品質を満たしているという説明および証明をしなければならず,営業対応上好ましい状態とはいえません。つまり,ユーザーであるメガクラウドと密接な関係を保ち,そのニーズを具現化していくことが求められるのです。
 以上のようなHSDCの特徴を踏まえて,そこで求められる具体的な対応をサイトデューデリジェンス,装置選定,グローバル仕様への適合,ドラスティックな省エネ推進の4つの観点で紹介します。

  • *2POD:消費電力が1,000~2,000kW程度ごとに構成され,特定のエリアやルーム単位などのかたまりを指す。電力供給システムや空調システムもPOD単位で個別に構成される
図2 契約形態の変化

図2 契約形態の変化

HSDCに必要なサイトデューデリジェンス

 建築計画を行う上で,通常はデューデリジェンスと呼ばれる建設用地の価値やリスク等の査定・評価を行います。これはHSDCにおいても同様で,用地決定に先駆けて候補地で事業を行うにあたっての事業性や収益性の評価を行いますが,そこにはメガクラウド各々にグローバル共通の独自要件が加味されるため,従来のDCとは異なる査定・評価が必要になります。
 投資規模の大きさ,事業期間の長さといった観点から,プロジェクト初期段階でのサイトデューデリジェンスが重要視されており,IX(インターネットエクスチェンジ)からの距離や,電力供給条件,河川からの距離や航空経路等,各要件を総合的に検討する必要があります(図3)。
 メガクラウドからの要望に応えるためには,設計から保守運用までの知見をもとに,事業用地を適正に評価する必要があります(図4)。

図3 建築用地評価イメージ

図3 建築用地評価イメージ

図4 用地選定要件とデューデリジェンスの項目例

図4 用地選定要件とデューデリジェンスの項目例

コストアップを避けるための「大容量化」

 DCが大規模化すると,当然のことながら規模に合わせて構築,保守・運用,エネルギーコストが大きくなります。それぞれのコストを規模に正比例して増大させないためにどうするかが重要です。
 なかでも構築,保守・運用コストについては,スケールメリットによる低減を大きく狙える要素であり, 装置の大規模化によってスケールメリットを最大化することができます。例えばモジュール型チラーは,これまでは単機容量200kW程度が一般的でしたが,近年のHSDCでは単機容量2,000kW程度のチラーも利用され始めています(図5)。大容量チラーを採用することで交換部品点数が大幅に減少し,従来のモジュール型チラーと比較して約60%の保守点検費が削減できます。さらに物品費や工事費も低減可能なほか,構築や保守にかかる期間も短縮できます。
図5 単機容量の大容量化の例

図5 単機容量の大容量化の例

大規模に適合する装置選定

 一方で,大規模化に対応する方法として単機容量が小型化している装置もあります。それは非常用発電機です(図6)。HSDCではガスタービン方式ではなく,ディーゼル方式の非常用発電機が採用される場合が多く,単機容量としては小型化しています。大型化によるスケールメリットよりも,備蓄用の燃料タンクが小さくできる点や,メンテナンスが容易である点等がより大きなメリットとして選択されますが,一番大きな理由は,ディーゼル方式が最もグローバルで流通している仕様であるという点です。

図6 ガスタービン方式とディーゼル方式の比較

図6 ガスタービン方式とディーゼル方式の比較

要求されるグローバル仕様への適合例

 HSDCで要求されるファシリティ構成の一つとして,給電システムがあります。
 これまでは非常用発電機は非常用発電機,UPSはUPSとそれぞれのシステム内に限った形で冗長性を確保してシステム構成を検討し構築されるのが一般的でした。
 しかし,グローバルでDCを運用し,様々な構築品質への対応としてあらゆる事故想定が必要なメガクラウドからすると,設備各々で冗長化する構成では給電システム全体に影響を及ぼす障害に対して冗長性が確保できないとして好まれません。そこで,HSDCにおいては非常用発電機やUPSといった一連の給電システム全体を一つの単位として冗長化し,ICT側から見て給電システムが複数ある構成が求められます(図7)。
 ユーザーが限定的で,かつ大規模であるHSDCだからこそできるシステム構成ということもできます。

図7 HSCDで求められる電源システム構成

図7 HSDCで求められる電源システム構成

ローカライズの必要性

 国内DC市場においては,グローバル仕様を求められる状況を踏まえて,グローバルで実績のある外資系のDC事業者やメーカーが躍進してきています。グローバル仕様を導入する上では,仕様に沿った機器を調達するだけで,その後の運用も上手くいくわけではありません。導入国に合わせてローカライズしていくことも重要です。特に日本国内に導入する際には,国内の法規制(消防法や建築基準法関連等)に準拠するように,行政との事前調整,検査対応が求められると共に,地域災害(日本においては地震等)のリスクに対応するために機器のカスタマイズが必要となる場合もあります。また国内にメーカーがない場合,導入前の試験調整や検査,導入後のアフターフォロー等,導入国内で対応する必要があり,メーカーに成り代わって対応する販売代理店の役割も重要となります(図8)。

図8 販売代理店の重要性

図8 販売代理店の重要性

運用指針まで踏み込んだドラスティックな省エネ推進

 契約単位の大規模化とファシリティの専有化によって,電気料金の支払形態も変化しています。使用量にかかわらず一定な固定価格ではなく,使用量に合わせた従量課金制となっており,省エネ効果がそのままユーザーのランニングコスト削減に直結することとなります。省エネ意識の高まりをさらに加速し,ユーザー主導で運用にまで踏み込んだ省エネも進められています。
 こうしたアプローチの一例として,サーバールーム運用管理温度を高く設定する方法があります。
 サーバールーム温度はASHRAEの推奨温度*3を参照して22±2℃程度に設定されるのが一般的です。しかしルーム内のユーザーが単一であり,そのユーザーが許容するのであれば,管理温度を25±2℃等と高く設定することが可能です。サーバールーム管理温度を高くすることで,空調システムの吹出温度や熱交換に利用する冷水温度を高くすることができ,結果として空調システムの消費電力が削減できます(図9)。
 注意すべきなのは,サーバールーム管理温度を満足するために,空調機の吹出温度だけではなく,空調機の吸込温度(ルームからの戻り温度),風量設定,冷水温度等,相互に関係してくる様々な条件をどう設定するかによって空調システム全体としての消費電力が異なってくる点です。
 従って,省エネ効果を最大化するシステム設計が重要となります。特にチラーは冷水温度を高く設定することでCOP*4が向上する機種は限られており,運用条件に合わせた機器選定が求められます。
図9 サーバールーム温度と冷水温度の関係性

図9 サーバールーム温度と冷水温度の関係性

  • *3ASHRAEの推奨温度:米国暖房冷凍空調学会のサーマルガイドライン(Thermal Guidelines for Data Processing Environments 4th Ed.)で定められるICT機器の吸込み温湿度範囲(推奨環境範囲)は,18~27℃ DB,-9℃ DP~15℃ DP かつ60% Rh であり,通常の状況下でこの範囲を満たすよう空調システムを設計することが提案されている
  • *4COP(Coefficient Of Point:成績係数):熱源機の省エネ性能を表し,値が大きいほど省エネ性が高い

今後直面するであろうファシリティ運用技術者不足

 HSDCの新築ラッシュで今後課題として想定されるのは,ファシリティ運用技術者の不足です。
 HSDCにおいては,ユーザーであるメガクラウドがサービスの社会的重要性を鑑み,ファシリティを専門とする責任者を設けています。その技術的要求に応えるためにDC事業者および運用を行うファシリティベンダーには高度なファシリティスキルに加えて,グローバル標準の理解や語学力も兼ね備えた人財が求められますが,こういった人財は稀有な存在であり,ニーズは高まっています(図10)。
 当社も数多くのファシリティ技術者を有し,すでに多数のDCを保守・運用しています。さらに今後の需要拡大に合わせて拠点数を伸ばしていくべく,グローバル標準に適応できる人財の育成等を行い,技術者不足に対する取り組みを強化しています。

 HSDCを取り巻く状況はメガクラウドの存在により変革が求められています。DCファシリティのエキスパート集団であるNTTファシリティーズは,あらゆる側面からDCの変革をサポートし続けます。

図10 DC保守を取り巻く市場ニーズの変化

図10 DC保守を取り巻く市場ニーズの変化


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