「環境に優しい建物」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。屋上の太陽光パネル、最新の高効率空調、LED照明、そして削減された光熱費——
これらは確かに重要です。これまで建物の評価は「いかにエネルギーを使わないか」という尺度が中心でした。しかし、ただ電力を減らすだけの建物は、本当に「良い建物」なのでしょうか?
働く人の心身の健康、集中力や創造性、企業のレジリエンスやブランド価値、資産としての持続的な収益力
——それらを置き去りにした節電は、時に見えないコストを生みます。
だからこそ、私たちは問い直す必要があります。「建物の良し悪しを、エネルギーという単一の物差しだけで測っていないか?」と。
省エネの最適化が生む「見えないコスト」
省エネの最適化が生む「見えないコスト」
極端な話、空調を止めて照明を暗くすれば省エネになります。しかし、その空間で長時間過ごす人は快適でしょうか?
適切に喚起されずCO2濃度が上がれば判断力は落ち、眩しさやチラつきは疲労につながります。温熱環境の不満は生産性を下げ、離職意向は高まり、結果的に事業のパフォーマンスは損なわれるかもしれません。 これでは本末転倒です。
「環境(E)」だけを最適化し、「人(S)」や「事業の持続性(G)」を犠牲にすることは、ESGの本旨に反します。実際、建築・不動産の現場では、快適性や健康と省エネのバランスをどう定量化し、意思決定に反映させるかというジレンマに長く悩まされてきました。
背景には三つの壁があります。第一に、快適性や生産性は「見えにくい」ため、短期の光熱費ほど評価されにくいこと。第二に、設計・施工・運用の各フェーズが分断され、意図した性能が運用で再現されないこと。第三に、リスクやブランド、採用力といった経営便益が部門横断で見えづらく、投資の正当化が難しいことです。
結果として、「一部しか評価できていないまま」の最適化が繰り返され、ユーザー満足度も資産価値も取りこぼす事態が起きています。
NEBsが拓く「環境・人・経営」の三位一体の価値
この課題に対し、評価の視野を広げて進化させたのがNEBs(Non-Energy Benefits:非エネルギー便益)という考え方です。NEBsは、省エネの副産物として語られがちな効果
——たとえば生産性の向上、健康リスクの低減、メンテナンス性・故障リスクの低減、人材確保、さらには不動産価値向上など——
さまざまな効果を体系的に捉え、意思決定のテーブルに載せます。
高性能な外皮と適切な換気により認知機能が高まり、自然光と眺望はウェルビーイングを支え、遮音や音環境の最適化は集中力を高めます。省エネ用センサー等による運用データ可視化は、メンテナンス費用を減らし、魅力的なオフィスは人材を繋ぎ留めます。
こうして「環境にも、人にも、経営にも良い建物」の全体価値が、初めて定量・定性の両面で見えてきます。
「本当に価値のある建築物」でよりよい社会に貢献する
私たちが本当に伝えたいのは、「NEBsの評価」そのものではありません。ラベルは手段に過ぎず、本当に達成したいゴール目的は、価値の実現です。
設計段階での意図、施工段階での品質確保、運用段階での計測と改善、この一連のサイクルを回してこそ、NEBsは組織の成果へと結実します。そうして生まれた空間は、人の時間を豊かにし、企業の挑戦を支え、地域の誇りになります。
その成果は財務諸表にも表れます。欠勤・離職の低減や保守費・更新投資の最適化など、短期的な光熱費削減額だけでは捉えきれなかった価値を可視化し、経営の持続性を力強く支えます。
だから私たちは、評価をゴールにしません。目指すのは、「本質的に価値のある建物」を増やすこと。それが結果として、働く人を幸せにし、社会をよくしていくと信じています。私たちは、そんな世界の実現を願っています。