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2022年8月1日

企業や組織にとらわれないコミュニティから生まれる「共創」の価値

  • 三浦 宗晃
    (UDS株式会社 事業企画部 システムデザインユニット ゼネラルマネージャー)
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まちづくりにつながる事業企画や建築設計、運営を手がけるUDS株式会社で、事業企画部システムデザインユニット ゼネラルマネージャーを務める三浦宗晃さん。近年は「Tote 駒沢公園」内の「Tote Work & Studio*1」や、NTT西日本と共に作り上げた「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)*2」など、多様な人が集まるワークプレイスの企画や運営を数多く手がけています。

そんな三浦さんに、今後の社会変化に伴うワークプレイスの在り方や、「企業や組織を超えたコミュニティ作り」を目的としたワークプレイス作りのポイントなどを伺いました。

*1 Tote Work & Studio:都立駒沢オリンピック公園に隣接する複合施設「Tote 駒沢公園」の3階にあるシェアオフィス&スタジオ。

*2 QUINTBRIDGE:大阪の京橋にNTT西日本が立ち上げた、事業共創や人材育成支援を目的とした施設。

コロナ禍以降に増えた「ワークプレイスへの要請」

私が所属するUDSはコーポラティブハウス事業からスタートした企業です。現在でもまちづくりにつながるコミュニティが生まれる場として、オフィスやホテルや住まいなどさまざまな案件を手がけています。

2020年以降のコロナ禍で感じた大きな変化は、リモートワークやABW(Activity Based Working)*3の広まりによって、それ以前からあった「住環境の中に『働く』要素が入ってくる」という流れが加速した点です。オフィス勤務が必須でなくなった今、「オフィスに集まる意味」を改めて問われた企業も多いのではないでしょうか。

Tote Work & Studioの内観

また、既存のビジネスの枠組みを超えて新たな価値を創造するため、人への投資を活発化させる企業も増えています。その具体策として、私たちもお手伝いをした大阪梅田ツインタワーズ・サウスのオフィスワーカー専用フロア「WELLCO*4」のように、オフィスビル内に「ワーカーサポートフロア」を設置したり、入居する企業が自社の社員のためにリラックスして働けるような環境を用意したりと、さまざまな方法で社員をサポートする姿勢が見られます。

さらに、企業の枠組みを超えて自社以外の多様な人とどう共創していくか、自律的な環境をどう作るかということも課題に挙がることが多いです。

こうした動きの中で2022年5月に、城南信用金庫の宮前平寮を賃貸住宅とキッチンスタジオ付きコワーキングスペースにリノベーションするプロジェクトに参加しました。そもそも信用金庫は地域に根ざした活動を行う金融機関です。そのため寮をただ改装するのではなく、地域と密接に繋がる施設になることが求められました。

そこで寮生向けの食堂だったスペースを転用し、キッチンスタジオ付きのコワーキングスペースを計画。地域の方も契約して利用できるような形態としました。リモートワークが快適にできる住宅という提案がお客様に支持され、すぐに満室になっています。

宮前平寮内に設置したコワーキングスペース「GoodOffice宮前平」

私はシェア型の住宅の中で形成される住人コミュニティと、地域コミュニティを接続する方法を以前から試行錯誤してきましたが、近年の社会変化によってリモートワークが頻度高く実施されるようになった結果、住居で働く機会が自然と増加しました。このように「暮らす領域」に「働く」という要素が入ってきた結果、住宅内にワークスペースを設け、さらに地域とシェアするといったことが事業として可能になりました。それにより、これまでより自然な形で住まいと地域を接続できるようになったと感じます。

また、現在のワーカーは自身のキャリアを会社内に留まらない形で広く検討しています。こうしたワーカーが抱える悩みやワークスタイルの変化などを受け、あえて社員寮を復活させる企業もでてきています。ワーカー同士がキャリアの悩みなどを相談し合ったり、資格勉強などをしやすい環境を提供したりと、ワーカーの「業務外の時間」もサポートするような動きが見られます。

*3 ABW(Activity Based Working):オフィス内に、仕事のさまざまな活動(アクティビティ)に適したワークスペースを用意し、個人がデスクを固定せず、作業内容に応じて働く場所を変えられる勤務形態。

*4 WELLCO:ワーカーの創造性や生産性を向上させる場として、カフェやラウンジ、フィットネスなどの機能を備えたオフィスワーカー専用フロア。

企業や組織を超えて人材が集まるコミュニティの作り方

企業としての競争力を高めるため、社外の人材も利用できるコワーキングスペースなどの「共創施設」を設ける企業も多くなりました。私たちも協力した、NTT西日本が大阪・京橋に設立した「QUINTBRIDGE」はまさにそうした施設です。

QUINTBRIDGE外観

QUINTBRIDGEがあるのは、NTT西日本が所有するビルのうちの一棟です。ここに会員登録さえすれば誰でも利用できるワークプレイスを作り、NTT西日本社員やその周辺企業のワーカー、スタートアップ、学生、研究者などが利用し、共創が生まれるような仕掛け作りを行いました。

どんなに働くのに適した環境下でも、人がただ集まるだけでは共創は起こりづらいです。なぜなら日本人のカルチャーとして、気軽に他人に話しかけることは少ないからです。

さらに、NTT西日本の社員は同じ敷地内の別のビルで勤務していて、業務時間内は仕事に集中しています。いくら合間の休憩時間や移動前後の時間だったとしても、自分が普段いるオフィスからQUINTBRIDGEに移動し、そこにいる会員の方たちと協創を起こそうという時間の使い方はなかなかハードルが高いと感じます。そんな環境の中でNTT西日本社員とQUINTBRIDGEを利用する会員とをゆるやかな関係性で繋げるにはどうしたらよいのでしょうか。

そこでまず働く環境作りとして、ワークプレイスに意図的に段差を設け、個々が仕事をしながらも、「あっちで楽しそうなことをやっているな」「ここではさまざまな取り組みができるようだ」などと、周囲の雰囲気を自然と感じられるように意識しました。

QUINTBRIDGE(周囲の人の動きや活動が見渡せ、オープンに隣り合えるワークプレイス)

さらにQUINTBRIDGEでは、ワーカーの役に立つようなセミナーやミートアップなどを実施しながら、利用者同士の潤滑剤となるコミュニティマネージャー的な役割を担うスタッフが配置されています。具体的にはNTT西日本にある「社内ダブルワーク*5」を利用してQUINTBRIDGEの運営に携わる社員や、新規事業を担当する部署の人員をアサインし、社員やワーカー同士を繋げる役割を担う形を取っています。

こうした取り組みの影響もあって、QUINTBRIDGEにはオープン1ヶ月で約5,400人もの方に利用いただいています。しかしスペースの広さからすれば、まだまだ発展していくと思います。

*5 社内ダブルワーク:NTT西日本が設けている、現在の業務を継続しつつ社内の新しいフィールドで経験を積める制度。視野拡大・人脈形成など付加価値につながる自己成長を促進する取り組み。

こうした共創施設の「成功」は、自社社員を含んだワーカーの間で共創が生まれることです。しかし目立った成功事例はまだ多くなく、仕掛ける側の企業が運営に参画し、意識的にコミュニティを作っていく必要があります。社内・社外のワーカーが業務時間内の「余白の時間」で新たな関係性を構築することは、決して自然発生するものではありません。

社外の優秀な人材を呼び込むためのイベント設計だけでなく、入ってきた人と社員がきちんと繋がるよう、社内をよく知る社員などを活用して接続させていく。そして社内の新規事業創出に繋げていく。そんな地道な取り組みが必要不可欠です。

ワーカー視点で見ると、業務時間の合間や業務終了後にこうした施設を利用することで、本業以外の学びを得られたり、他社の優秀な人材と関わる経験ができたりします。何をしてもよい「余白の時間」にこそ、思わぬ学びや人間関係が作れるかもしれません。そしてこうした「余裕」から、共創が生まれていくのではないでしょうか。

バーチャルにはない、リアルなコミュニティから生まれる価値

今後ビジネスのためのコミュニティはより細分化され、リアルなワークプレイスだけでなく、ソーシャルメディアやメタバースなどのバーチャル空間にも展開されていくと考えられます。その際に関連する可能性として注目しているのが、平野啓一郎氏らが唱える「分人」という概念です。

分人とは「唯一の『本当の自分』というようなものは実は存在せず、対人関係ごとに立ち上がる複数の顔の集合体が自分なのではないか」という考え方です。この概念を適用すると、例えば普段のワークプレイスとQUINTBRIDGEとでは、自分の違う「顔」が見えているのかもしれません。

またリアルとバーチャルでは、人格を意図的に使い分ける人も出てくると思います。現在メタバースのコミュニティはプライベートで使われていることが多い印象ですが、今後はビジネス上で必要なペルソナを疑似体験したり、何らかの行動観察をしたりと、より分人的な使い方もできるでしょう。

こうしてバーチャルのコミュニティの価値が高まってきた場合でも、リアルのコミュニティの価値は毀損しないと考えています。リアルは非常に情報量が多いため相互に信頼関係を築きやすく、視認性の高さから後々「あの人どうしているかな」と思い出してもらえる可能性も高まります。今後もリアルな場が活かさせる機会は少なくないでしょう。

今回は、企業や組織にとらわれないコミュニティ作りや、共創を生み出す工夫などについてお話ししました。これから社内に多様な人材を集め、社外人材との共創コミュニティを作るのであれば、ワーカーの「余白の時間」をどう活用するか、業務時間以外での行動をどうサポートできるかが焦点になります。

社員寮やQUINTBRIDGEのような大規模アセットはないけれど、何か取り組みを行いたい場合には、編集的な視点を持って「まちを使う」ことも可能です。例えば、自社オフィスの近くに、他社の社員やまちの人も「食堂」として使える場所を設け、「食」を通して交流を図る、まちにあるコワーキングスペースに自社社員が行けるような、広義のABWを実施するなどです。広くまちを使って分散型オフィスの活用を検討する場合には、自社のワーカーをどうサポートしていくか、体系的な計画も必要になるでしょう。

近年はワークスタイルやワークプレイス、住環境に関連したさまざまなサービスが生まれています。これらをキュレーションし、新しい価値が生み出せるようなワークプレイスを作っていける可能性も高まると思います。今後もさまざまなワークプレイス作りに携わっていく所存です。

著者プロフィール
  • 三浦 宗晃(みうら ひろあき)
    三浦 宗晃(みうら ひろあき)
    UDS株式会社 事業企画部 システムデザインユニット ゼネラルマネージャー
    山形県鶴岡市出身。東北大学工学部建築学科卒業。コリビング、コワーキング、学生寮など、主に日常の領域におけるプロジェクトの「妄想」から「実装」までを行う。

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