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2023年7月3日

「べき論」から「ハピネス」への転換を。さらなる変革に対応するためのチェンジマネジメントとは

  • 平山 信彦
    (株式会社アクティブブレインズ 経営執行役、日本テレワーク学会理事)
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企業組織を抜本的に改革する「チェンジマネジメント」を用いて、長きにわたり多くの企業の変革を請け負ってきた平山信彦さん。大きな社会変化を受け、これからも持続可能な企業組織をつくっていくためには、どのように組織風土に向き合い、どのようなワークプレイスをつくっていったらよいのでしょうか。チェンジマネジメントの実践例も含めてお話しいただきました。

ワークスタイルの揺り戻しが起きている企業、起きていない企業の違い

私はオフィスデザイナーからキャリアをスタートしました。若手の頃にアメリカの設計事務所に出向して建築要件定義を学んだことをきっかけに、しばらくは建築要件定義を専門として従事。ここ20年ほどはワークスタイル分野に軸足を置き、「チェンジ・ワーキング」、一般的な名称では「組織風土変革」や「チェンジマネジメント」のコンサルティングを行っています。

ここ3年ほどのコロナ禍では、多くの企業がテレワークやハイブリッドワークを導入しました。そして新型コロナウイルス感染症が5類になった今、コロナ以前の働き方に戻ろうとする企業と、新しく導入したワークスタイルを続ける企業とに二極化しています。傾向としては、新しいワークスタイルを「一時的な対応」として取り入れていた企業は元の働き方に戻り、「これからの企業環境への適応」を考えていた企業は、新しいワークスタイルを継続している印象を受けています。

前者の企業では、ワークスタイルの変化になかなか適応できず、経営層や社員の大半は「早くコロナが落ち着かないかな…」ということだけ考えていたのだと思います。このような企業はすでに出社中心の働き方に戻ったと思いますが、一部の社員はハイブリッドワークなどの新しいワークスタイルに慣れ、揺り戻しに不満を抱えていることもあります。経営層が何らかの手を打たないと、離職を助長してしまう可能性もあるでしょう。

またコロナ禍では、柔軟なワークスタイルを取り入れた結果、チーム内でメンバーの勤務時間がどの程度一致するかという「チームオーバーラップ」に対する課題もありました。出社時に比べてチームオーバーラップが減少したとき、どのように対応していくのか。後者のように変化に適応する企業は、その状況下でも意識的にチームのインタラクションを増やしたり、リモートコミュニケーションツールを活用したりして、良質なコミュニケーションを維持できたことでしょう。

どのようなワークスタイルを採用するべきかは企業によっても異なりますが、経営層がコロナ禍で「なぜ新しいワークスタイルを導入するのか」を真剣に考えたかどうかが、その後の企業成長に大きく影響するのではないかと思います。

これからの時代に対応できる「持続可能な企業組織」を作るための要素

これからも変化の大きな時代は続くでしょう。そんな中でも持続可能な企業をつくり、成長させていくために必要な要素を2点挙げます。

1点目は、経営層や社員が自社の存在価値を理解・実感していることです。どのような企業も社会に必要とされることにより存続するものですが、その存在価値を社員まで落とし込めていると、会社全体が一丸となり、変化に立ち向かえる強さが備わります。いち早くパーパス経営*1を実践した企業は、その理解が社員まで行き届いている可能性が高いです。

その上で企業には、時代や環境の変化に合わせる「柔軟さ」と、企業の存在価値からみて大事な部分を譲らない「強靱さ」を併せ持つことが必要だと思います。例えば、ある大手自動車メーカーは、カーボンニュートラルや自動運転技術の導入といった時代の要請を受け入れながらも、「ワクワクする車を作る」という企業の存在価値に関わる部分は不変です。

どこを変化させ、どこを不変とするのかは、経営的なセンスが求められます。センスのある意思決定をし続けられるかどうかも、企業成長を左右するでしょう。

2点目は「2つのハピネス」による“良循環”を起こすことです。「2つのハピネス」とは、経営のハピネス(企業成長)と社員のハピネス(ワークハピネス)を指します。

社員がハピネスを感じていると、ワークエンゲイジメント*2が高まって生産性が上がり、業績向上など経営層のハピネスにつながります。この“良循環”を起こすことが経営の責任だと経営層が気づき、それを実現できるような環境を構築することが大切です。

この2点を意識しながら社内変革を行いますが、その際のポイントは、「ワークスタイルを転換すべきだ」という「べき論」ではなく、「ワークスタイルを変えると社員がより楽しくやりがいを持って働ける」という「ハピネス」を、変革のドライバー(推進力)にすることです。

変革に対して真剣に向き合っていたとしても、「こうすべきだ」「これが正しい姿だ」という姿勢で社員をモチベートできるでしょうか。企業を運営する上でやるべき業務や守るべき制度はありますが、「このやり方でこんなに楽になるから変更しよう」「この制度があるとこんなよいことがあるから新設しよう」など、ハピネスを起点として考えられると、“良循環”が生まれる土壌を作りやすくなります。

そして、企業を大きく変化させる助けになるのが、チェンジマネジメントです。その定義は人によって異なりますが、私は「企業組織の在り方全体を変えるための手段」と、かなり広く捉えています。チェンジマネジメントで活用する手法は多種多様で、その組織の状況に応じて必要な取り組みを組み合わせて実施していきます。

例えば、変革をスタートするきっかけ作りとしては「ワールドカフェ*3」というセッションが活用できます。私がある製造業でワールドカフェを実施した際には、毎回100名ほどの社員が参加するセッションを十数回繰り返し、職場に関するテーマで語り合ってもらいました。繰り返すうちに、部署を越えて共通する悩みや部署ごとの特性を共有し、社内が一気に打ち解けるきっかけになりました。

こうして社員のマインドに変化が起きたら、「経営から見た在りたい姿」と「社員から見た在りたい姿」を明らかにし、互いに擦り合わせていきます。この過程では「シーンメイキングセッション*4」などの手法を用い、お互いが理解し納得できる「共通言語」を作っていきます。

例えば、経営層が描く「生産性を向上したい」という目標シーン(実現したいイメージ)を見て、社員は「私たちのやり方が悪いというのか!」と捉えるかもしれません。しかし、社員の掲げたゴールのひとつである「無駄な会議をやめたい」というシーンと結びつくことがわかったら、両者の想いは一致します。このように二項対立的な捉え方をやめ、ゴールを共有していくと、変革を駆動する準備が整います。

*1 パーパス経営:自社の存在意義(purpose)を明確にして、その存在意義を軸に事業活動や組織運営を行うこと。

*2 ワークエンゲイジメント:社員が仕事に対してポジティブな感情を持ち、充実している状態。この状態を維持することで、生産性の向上や離職率の低下が期待できる。

*3 ワールドカフェ:セッション参加者が4~6人くらいのテーブルに分かれ、各テーブルをいろいろな街(国)のカフェに見立て、旅人が世界を巡るようにテーブルを移動しながらいろいろな人と同じテーマのディスカッションを行うワークショップ。あるテーマに対し、多様な視点や考えと共通の関心が共存することの気づきなどから深い洞察が得られる。

*4 シーンメイキングセッション:変革の成果として実現したい「在りたい姿」を、具体的な行動様式(習慣化された行動)やマインドセット(ものの考え方)として現れる光景(シーン)として描くワークショップ。通常、組織の在りたい姿を20~30ほどのシーンで表現することが多い。

社員の行動変容や働く環境の整備を進め、チェンジマネジメントを完遂してほしい

ゴールの共有が完了したら、最後は「社員やマネージャーの行動変容」や「働く環境の整備」を行います。行動に着目するのは、トライアルが可能なため意識よりも取り組みやすいからです。トライアンドエラーを前提に、自分の仕事の方法やワークスタイルを実際に変えてみましょう。行動した経験値がたまっていくと、結果的に意識も変わっていきます。

環境整備には、社内制度や評価の仕組みなどの変更や、ワークプレイスなどのインフラへの投資が含まれます。特にワークプレイスのもつ「場の力」は大きく、イノベーション創出に欠かせないセレンディピティ(嬉しい偶然)を生み出すこともできます。なによりも、リモートミーティングでは難しい「腹を割った深いコミュニケーション」には、やはり物理的な場の共有が必要です。そのためハイブリッドワーク下では、人が集まる拠点となるオフィスの役割が大きく、これをどう構築していくのかも重要な課題です。よって、ワークプレイスの構築や運用に携わるファシリティマネジャーの役割も大事といえます。

最後に、チェンジマネジメントを成功させるためのポイントを2つ紹介します。まず、チェンジマネジメントは「自分たちのためになることだ」と社員全員が理解することです。そのために、「その会社によってのチェンジマネジメント」のねらいと目標を社内で共有し、「2つのハピネス」につながることを繰り返し社員に伝えます。チェンジマネジメントが「自分たちのためだ」と納得できると、より積極的に協力してくれるのです。

次に、マネージャーは「チェンジリーダー」となり、変革に前向きでありインフルエンサーとしての役割も持つ「チェンジエージェント」を増やしていきます。企業組織は社員の集合体だからこそ、社員のモチベーションや価値観は重要な要素です。変革に前向きな社員が増えるほど、チェンジマネジメントは成功に近づいていきます。

その中でもファシリティマネジャーは、ワークプレイスがもつ「場の力」を再認識し、経営層や社員のそれぞれに価値があることを伝えながら、チェンジマネジメントを成功させてください。私も引き続き、多くの企業変革の力になれたらと思います。

著者プロフィール
  • 平山 信彦
    平山 信彦(ひらやま のぶひこ)
    株式会社アクティブブレインズ 経営執行役、日本テレワーク学会理事
    千葉大学工学部工業意匠学科卒。内田洋行環境デザイン研究所、IA(米ロサンゼルス)、内田洋行マーケティング本部開発統括部長、千葉大学大学院非常勤講師(デザインインタラクティブ論)、内田洋行執行役員・知的生産性研究所長等を経て、2020年より現職。大手企業を中心に、組織風土変革・働き方改革・イノベーション創出等のコンサルティングを数多く担当。「チェンジ・ワーキング~イノベーションを生み出す組織をつくる(翔泳社)」をはじめ、執筆・講演等多数。

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