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2023年8月1日

パーパスマネジメントを「形だけ」ではなく真に「実装」するための方法

  • 丹羽 真理
    (アイディール・リーダーズ株式会社 共同創業者 / CHO(Chief Happiness Officer))
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2015年に共同で起業し、パーパスマネジメントやウェルビーイング経営に関するコンサルティングを行っている丹羽真理さん。さまざまな企業を支援する丹羽さんに、どうすればパーパスマネジメントによって自社が活気づき、社員にとって幸せな職場となるのかについてお話しいただきました。

パーパスマネジメントがなぜ今、必要とされているのか

私は新卒入社したコンサルティング企業で、民間企業や公共セクター向けのコンサルティングを担当したのち、社内ベンチャーに参画したことをきっかけに、現在所属する企業を立ち上げました。当社では、パーパスを起点としたコンサルティングである「パーパス・マネジメント・コンサルティング」や、社員の「仕事におけるウェルビーイング(幸福度)」向上をめざした「ウェルビーイング*1・プログラム」などを提供しています。その中で私は、従業員の幸福度を高めることで企業成長に寄与する「CHO (Chief Happiness Officer)」として活動し、このCHOを日本に広めることもめざしています。

まずは、パーパスマネジメントから説明します。パーパスとは、その企業や組織の社会における存在意義のこと。この「社会における」という部分が重要です。そして、このパーパス通りに経営することをパーパスマネジメント(パーパス経営)といいます。

なお、よく似た言葉に「ビジョン経営」がありますが、これは将来の理想の姿であるビジョンの実現をめざして経営することを言います。よって、経営の元になっているものが「社会における存在意義」なのか「自社の将来における理想の姿」なのか、という違いがあります。

グローバルでパーパスマネジメントが大きく注目されたきっかけのひとつは、2019年8月のこと。アメリカのビジネス・ラウンドテーブル*2が発表した声明において「企業は自社の利益の最大化だけでなく、パーパスの実現もめざすべきだ」という姿勢が表明されたことにあります。それから日本でもパーパスの重要性が認識されるようになり、パーパスマネジメントが流行し始め、2020年後半には企業からの相談が急増しました。

この背景には、先ほどのビジネス・ラウンドテーブルを含め「国際社会からの要請」があると思います。「企業は自社の利益を追求するだけでなく、社会にとっても価値を発揮するべきだ」という価値観が少しずつ浸透し、人々の価値観も変わりつつあります。企業を支援する投資家からも「社会にとってよいことをしている会社か」という目線が強まりました。加えて、SDGsに関する取り組みが増えたこともこのような変化に影響しているかもしれません。2021年4月には、パーパスマネジメントの第一人者である名和高司先生が『パーパス経営 - 30年先の視点から現在を捉える』を出版し、パーパスマネジメントという言葉がさらに広まった印象を受けます。

では、パーパスマネジメントを実施すると、どのような効果があるのでしょうか。さまざまな効果がありますが、特に大きいのは、パーパスに共感する社員が自身の業務や働くことに対して意義・やりがいをより感じられるようになること。そして、このような社員が集まることで企業の生産性が向上することです。パーパスマネジメントの導入は必須ではありませんが、導入した場合、社員を採用しやすくなったり、社会から選ばれやすくなったりする可能性があります。

ベンチャー企業はすでにパーパスを掲げていることが多いため、私たちが相談を受ける企業は伝統的な企業が比較的多いです。中には、既存ビジネスが踊り場を迎えていて「このままでは企業成長が続かないのではないか」という危機感から、パーパスマネジメントを導入する企業もあります。

また、すでにパーパスを策定した企業からは「パーパスを策定したものの社員に響いていない。どうすればよいのか」などの相談も受けます。単にパーパスを策定しただけでは、企業成長に結びつけられないのです。

*1 ウェルビーイング:心身と社会的な健康を意味する概念であり、幸福で肉体的、精神的、社会的すべてにおいて満たされた状態のこと。

*2 ビジネス・ラウンドテーブル:アップルやウォルマートなど、米国の主要企業が名を連ねる財界ロビー団体のこと。

パーパスマネジメントの3つのフェーズと、社員が「共鳴」する方法

私たちの考えるパーパスマネジメントには「発見」「共鳴」「実装」という3つのフェーズがあります。まず、経営層や社員の議論、対話などを通じて自社のパーパスを「発見」します。次に、個人のパーパスを探求しながら企業のパーパスへの「共鳴」を促します。そして最後に、上図右側にある“6つの領域”でパーパスに沿った理想的な変化を計画、策定した上で、今までのマインドセットを変化させ、パーパスを「実装」していきます。

1つ目の「発見」フェーズでは、10年後などのかなり先を見据えてパーパスを検討します。過去や今を見ていては将来の変革につながりにくく、3〜5年後は中期経営計画によって目標や活動が定まっていることが多いため、新しい発想が難しくなるからです。フリーハンドでさまざまな理想を描きながら、そんな未来を実現している私たちは、なんのために存在していると言えるのか、という点を探求することにより、自分たちのパーパスを「発見」していきます。

この「発見」フェーズから、経営層だけでなく複数部署の社員を巻き込んでいくと、社員がパーパス策定へ主体的に取り組むことが期待できます。そうすれば、早期に「共鳴」してくれる可能性も高まるでしょう。

すでにあるパーパスが「形だけ」になっている企業は、この「発見」を第三者に任せたり、形式上社員を巻き込んだりしただけで終わったのかもしれません。主体的に探索しなかったパーパスは、ただの「額縁パーパス」になってしまい、「共鳴」にもつながりにくくなってしまいます。

2つ目の「共鳴」フェーズでは、パーパスマネジメントを企業に根付かせる上で非常に重要です。ここで企業のパーパスを社員に「自分ごと化」してもらえるかどうかが、大きな分かれ道になります。特に、経営層がパーパスを粘り強く伝えることで、社員が「認知」している企業は多いものの、社員の「理解」や「共感」を呼び起こす部分でつまずいている企業も多い印象です。

社員が企業のパーパスに「共鳴」するためには、社員が企業のパーパスを「認知」「理解」するとともに、自身のパーパスを明確にする必要があります。コンサルティング時は、社員のパーパスを明確にし、組織のパーパスを重ね合わせるワークショップをたびたび実施しています。

このときに「自社のパーパスと社員のパーパスが重ならないかも…」という不安を抱く企業も多いのですが、経験上、企業のパーパスと社員のパーパスの重なりを見出せることがほとんどです。自分のパーパスを知ることは「自分はこの会社でこういうことをしたかったんだ!」という再認識に結びつき、最終的に企業のパーパスとつながって、企業のパーパスが「自分ごと化」していきます。

3つ目の「実装」フェーズに関して、ここに到達している日本企業はまだそれほど多くないかもしれません。私たちはこれまでに多くの企業を支援していますが、「発見」「共鳴」フェーズの企業が圧倒的に多い印象です。ただし、今後パーパスマネジメントを長く実行している企業が増えるにつれ、「実装」に関する相談も増えてくると思います。

社員のウェルビーイングに関与する4要素と、今後の求められるワークプレイス

パーパスマネジメントと並び、今多くの企業が課題としているのが「ウェルビーイング」です。ウェルビーイング施策はさまざまですが、私たちは、その企業にとっての「社員のハピネス」や、仕事におけるウェルビーイングを向上させることを目標に、以下の4要素の観点から支援しています。パーパスマネジメントの「共鳴」フェーズにおいても、個人のパーパスと組織のパーパスの重なりに着目しますが、それはウェルビーイング向上のための重要な要素のひとつとなっています。

• パーパス(存在意義):自分のパーパスと、組織のパーパスに、つながりを見出すことができる
• オーセンティシティ(自分らしさ):自分の強みを活かし、自分らしく仕事が行える。仕事の進め方に自由度があって、ある程度のコントロール権がある • リレーションシップ(関係性):一緒に働く人々と良い人間関係を築き、協力して働ける
• ウェルネス(心身の健康):仕事に取り組む上で、心身が健康である

例えば、ある企業では「社員のウェルビーイングとは何か」を知るために独自の指標を作り、社員サーベイを行って分析。その結果「自分らしく働くこと」が重要だとわかり、単一だったキャリアステップを多様化させたそうです。こうした取り組みは、オーセンティシティやウェルネスの面で社員によい変化をもたらすでしょう。

また、最近では社員同士のコミュニケーションを良好にするために、コロナ禍での一過性の対応だったフルリモートワークから、意図をもってハイブリッドワークに変更する企業も増加しています。こうしたワークスタイルの変更は、社内のリレーションシップや社員のウェルネスに大きな影響があります。

最後に、今後も価値を発揮するワークプレイスの条件について、私たちの業務に照らし合わせて考えてみたいと思います。コロナ禍では私たちもすべてリモートで支援していましたが、パーパスを「発見」するなどのクリエイティブかつ複数人で実施する活動は、対面に戻しました。また各企業では、従来のように無条件に出社するのではなく、必要があるから出社するワークスタイルが定着したように感じます。

よって今後は、対面の価値を促進するようなワークプレイスや、わざわざ行きたくなるようなワークプレイスを構築すると、より社員に利用され、結果的に社員のハピネスにもつながるのではないでしょうか。また、オーセンティシティとリレーションシップの両立も課題になりがちなので、社員が自分らしく働けて、かつ社員同士の関係性も構築できる場作りができたらよいかもしれません。

コロナ禍前と同様の感覚でワークプレイスという「リアルな場」が必須だと思いすぎず、自社のパーパスや社員のハピネス、ウェルビーイングから考えて、バランスのとれた環境を構築してはいかがでしょうか。私も引き続き、パーパスマネジメントなどのコンサルティングに尽力していきます。

著者プロフィール
  • 丹羽 真理
    丹羽 真理(にわ まり)
    アイディール・リーダーズ株式会社 共同創業者 / CHO(Chief Happiness Officer)
    国際基督教大学卒業、University of Sussex大学院にてMSc取得後、株式会社野村総合研究所に入社。 民間企業及び公共セクター向けのコンサルティング、人事部ダイバーシティ推進担当等を経て、社内ベンチャーIDELEA(イデリア)に参画。 2015年4月、アイディール・リーダーズ株式会社を設立し、CHO(Chief Happiness Officer)に就任。 社員のハピネス向上をミッションとするリーダー「CHO」を日本で広めることを目指している。 ウェルビーイング向上プロジェクト、経営者やビジネスリーダー向けのエグゼクティブ・コーチング、パーパスを再構築するプロジェクト等の実績多数。 特定非営利活動法人ACE理事。 2018年に『パーパス・マネジメントー社員の幸せを大切にする経営』を出版。

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