NTTファシリティーズ
New Workstyleニューワークスタイル
2021年12月1日

ニューワークスタイル対応と
総務の役割

  • 取  材: 金 英範
    (Hite & Co.代表取締役)

株式会社 Hite & Co.代表取締役社長の金氏は、「戦略総務から社員を元気に、経営を元気にする!」をモットーに、25年以上にわたり国内外の大企業を中心に総務・ファシリティマネジメント(FM)の実務に携わり、インハウス総務業務とサービスプロバイダーの両方の立場から、企業不動産(CRE)戦略、ワークプレイスや働き方の変化に伴うオフィス改革、総務サービスの変革などを手掛けておられます。コロナ禍の影響が続く中、ニューワークスタイル対応と総務の役割についてお話しいただきました。

コロナ禍による総務の役割変化

今、身近に接している企業の総務の方々の声を聞いて思うことは、コロナ禍という前例のない状況の中で、これまで気づいてはいたが、解決できずにいたことが芽を吹き出してきたということです。総務、施設管理部、管財部といった業務の方たちは、会社全体の日用品・消耗品の管理に始まり、事業用の物件、会社の資産、職場のメンテナンスなど至るところまで管理してきました。これまではいずれも前年度ベースで予算のあり方を進めてきましたが、すべてをゼロベースで見直さないといけない状況になっているということです。
2008年のリーマンショックのときも似たような混乱状況でしたが、今回はICTやAIなどのテクノロジーが非常に進化していることもあり、価値観が完全に変わるほどのインパクトがあります。
コロナ禍で迫られた働き方改革、感染対策などの効果を確かなものにするためには、組織全体の運営を見ている総務系の方たちが、専門性のスキルアップを図る必要があります。ただ、そのようなスキルアップは、目先の業務のスキルアップだけでなく「総務業務全体」を俯瞰的・長期的に見渡す視点(例:FOSCの総務業務-ジョブ標準MAPの図)が必要となってきます。ところが目先の業務で手がいっぱいで、例えば来年度の予算をどうするかといった課題が短期的に差し迫っており、専門性のスキルアップを進められないのが大半の総務部の現状です。
総務部の業務は「外部のプロをうまく操るプロ」であると言っても過言ではありません。個別の業務については、その筋の外部専門家へ自分のやりたいことやそれに対する意見を聞きながら、その成果を最大限に引き出すことに注力するわけです。外部の専門家を作業委託者扱いするのではなく、リスペクトしながら専門性を提供してもらうことも重要です。いわば、楽器演奏のプロを束ねるオーケストラの指揮者のような仕事、それこそが総務の仕事と言ってもいいでしょう。外資系のグローバル企業は、私の経験から言っても、協力会社(外部の専門家)との関係づくりにおいて、相手をリスペクトする気持ちが強く、結果は求めますが相応の対価も払い、専門性を提供してもらうことが非常に上手です。結果、その力を最大限に発揮し、成果を出すことで、その先の社員のHAPPY、会社のHAPPYを演出できる。いわば演出家でもあるのです。

図: ファシリティ・オフィスサービス・コンソーシアム(FOSC)による総務業務-ジョブ標準MAP(2021年版)

総務が直面しているオフィス投資・予算の作り方等の課題について

先に述べたように、総務系の業務の方たちは現在、ゼロベースで予算の組み直しを迫られています。その際に必要とされるのが、経営の長期ビジョン、事業の採算性、ユーザー(施設の利用者である社員)の声、ファシリティの4条件のバランスを取るということです。なかなか難しいことですが、これができないと予算組みはできません。

図:総務財布(ハード)の削減分の効率的な社内再投資策(案)

具体的には、全部コンバージョンできる形に数値を変換することです。不動産コストもサービスコストも全部、年間一人頭いくらという金額に直すわけです。
これは、財務管理上のテクニックです。比較できる原単位にすることで、どこにフォーカスすればいいかが見えてきます。つまり、ゼロベースで考える土台ができるということです。
例えばファシリティにかかわることであれば、センサーなどの発達により、ユーザーの動きや利用度などを測ってデータを取ることができます。以前までは「測れないものは管理できない」と諦めても仕方ないとされていましたが、今はテクノロジーの進化もあり、測れるものが増えてきた。そういう意味では「測れないものは管理できない」と言い訳ができない状況ですから、総務系の方たちにとっては頭の痛い状況と言えるかもしれません。
オフィスを測るということに関しては、ABW(Activity Based Working)の考え方などもあり、席数やデスクの数ではオフィスの㎡あたりの評価が難しくなっています。そのため、ワークポイントという考え方が改めて脚光を浴びています。
ワークポイントの設計を行う場合は、ワークポイントの数、実際の席数、キャパシティの3つを管理指標とします。この発想自体は昔からあったものですが、最近では、1,000人の会社だと、健全に働けるワークポイントとしては500から700ぐらいで設計するパターンが多くなっています。実際の席数はもっとあるのですが、ABWで動きながら場所を探すことができることから、そのような設計になっています。健全かつ不愉快でもなく1時間から2時間ぐらい、そこに座って仕事ができる環境を作ることは、ウェルビーイングとも関連してくることです。
ただし、ワークポイントの考え方は、人によって若干違います。特に、時間が変動要因となっているため、健全に働ける時間を1時間とするか2時間とするか、それとも8時間とするか、具体的な数字をあげて検討するのが分かりやすいと思います。

図:ワークポイントの考え方
オフィスの運用では、コロナ禍以前から「ワークポイント」という考え方がある。一定時間(通常2時間)連続して執務に取り組める上に、落ち着ける距離感(パーソナルスペース)も確保できる席を、1WP(ワークポイント)としてカウントする。図中の赤丸がワークポイント。座席数は全部で66あるが、WPは31となる。

ウェルビーイングに関しては、すでに多くの会社が取り組んでおり、これからニーズが顕著になると思われます。コロナ対応としてオフィス再構築を具体的に検討する際、感染症や心身の健康への取り組みの推進という観点から、ウェルビーイングの優先順位を上げ、福利厚生をさらに充実させることも可能でしょう。私の個人的な観測ではまさに2022年−25年の間は、今までの会社とは次元の違うレベルでのウェルビーイングへの投資が行われると予測します。市場もその総務人事部のニーズに早急に対応するでしょう。
ウェルビーイングにも認証制度がありますが、そもそもウェルビーイングの目的は認証取得にあるのではなく、社員が心身ともに健康で力を最大限発揮できるようにすることですから、ウェルビーイングに含まれる10個の項目を参考にしながら1個1個地道にクリアしていくことが大切です。

図:総務が実行できる「Well-Being」への投資(例)

また、総務系の方たちにとってのお客様はユーザーである社員ですから、社員のペルソナに関するマーケティングも必要でしょう。マーケティングなしで総務戦略やニューワークスタイルに関する計画は立てられません。総務には社員のことを知る義務がありますし、外部の専門家を呼んで会社の分析を行うのは、ペルソナのマーケティングを終えてからです。
総務系の業務は、ユーザーのウェルビーイングな場づくり、多様な働く環境のマネジメントをはじめとするワークプレイスの運用など、この1、2年で面白いほうにシフトしています。総務にはワークプレイスの改善を進めるチャンスが訪れているのです。先ほど述べたようにコロナ禍という状況をきっかけに、コストを見える化することで、経営に対してもゼロベースでの予算の見直しの提案が可能になると考えています。

日本の総務の現状と求められる姿勢

日本の現状においては、もともと総務系の業務は広範であるがために明確な業務として分かれておらず、役割が不明確です。
外資系とは限定しないですが、グローバル統制ができている多くの企業では、業務レベルは明確に定義されています。そのため業務以外の取り組みを行うことは、新しい業務を作り出して実行することになり、それは新しい成果を伴って報酬アップにつながります。自分のやりたいこと、得意分野などにフォーカスし積極的に新しい仕事に取り組み、報酬を得ることをチェリーピッキング(さくらんぼを摘む)と呼んでいます。新たな仕事をチェリーピッキングと考えることができるようになれば、面倒なことを排除するのではなく、前向きに解決することになり、喜ばれる総務になることができます。そのため、これは単に報酬の上積みを意味するだけでなく、積極的に新しい仕事に取り組もうとするため、自分自身のマインドチェンジにもつながるものです。そこに気づいた人は今、総務系の業務をかなり楽しんでいます。スキルが無くても、自分の視点と姿勢を変えるだけで、「チェリー」がそこにたくさんあるからです。
例えば、自社のエレベーターに乗って、そこに居合わせている人全員をお客様と思えるかどうか、エレベーターの中が熱かったら空調管理ができていない自分のせいだと思えるかどうか。そういう謙虚な姿勢は、もともと日本の企業のカルチャーにあると思いますし、日本の総務もチェリーピッキングの可能性が大いにあると思っています。
そのために総務がまずすべきことは、ゴール設定です。「こうするべきだ」ではなく、何年か後の自分たちの働き方のありたい姿、すなわち「自分たちの会社はこうありたい」という願望に近いものを明確に持つことです。通常は3年を目途にゴール設定します。そして、予算を積み上げ、実現させていくのです。

SDGsの影響が予想されるワークプレイスの今後

コロナ禍の影響が落ち着いた後で、働き方やワークプレイスのあり方がどうなっていくかということに関しては、既にダイバーシティやSDGsの考え方が広まり、社員にとって多様性のある働き方という方向に進みつつあるのが現状です。私は今後も、SDGsの考え方に引っ張られていくのではないかと見ています。
SDGsの考え方の本質は、結果の平等ではなく機会の平等を与えるということです。ですから、働き方に関しても、すべての人にチャンスを与えるという方向に、SDGsがワークプレイス業界を引っ張っていくのではないかと予想しています。
そのため従業員、経営者だけでなく従業員の家族、地域の人など、様々な人に喜ばれるような働く環境がより必要となっていくでしょう。既存社員の継続雇用だけでなく、新卒、中途採用などリクルーティングのためにもそれはさらに重要なポイントとなってきます。総務としては、社員一人ひとりが気持ちよく働ける職場環境を戦略的に考え、失敗を恐れずに実行していく必要があります。これは、今までと変わらない点でもありますが、多少安全運転だった今までよりは攻めに転じてリスクを取るマインドをもって進むことが今は大切であり、それを実践できた企業が市場をリードする存在となれるでしょう。

著者プロフィール
  • 金 英範
    金 英範
    Hite & Co.代表取締役
    1967年生まれの在日韓国人2世。早稲田大学理工学部建築学科卒。オフィス設計事務所勤務を経て、米国大学院へファシリティマネジメント(FM)修士留学。帰国後、モルガン・スタンレー・グループ株式会社、ゴールドマンサックス, メリルリンチ日本証券株式会社、米ジョンソンコントロールズ、日産自動車など大企業を中心に、25年以上にわたり総務・ファシリティマネジメント(FM)業務一筋にて実務経験を積む。2019年9月、株式会社 Hite & Co.設立。一級建築士、MCR(不動産管理資格)、 認定ファシリティマネジャー(CFM)の資格を保有。共著書に『戦略総務 実践ハンドブック』。

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