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2023年1月4日

データから読み解く、日本企業の
サテライトオフィス活用戦略

  • 石崎 真弓
    (株式会社ザイマックス不動産総合研究所 主任研究員)
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オフィスマーケットを専門に調査分析・研究を行っている石崎真弓さん。ワークスタイルが大きく変化した近年は、働き方と働く場に関する調査研究や情報発信を精力的に行われています。そんな石崎さんに、近年増加するリモートと出社を掛け合わせたハイブリッドワーク下でのワークプレイス戦略について、オフィスに関する調査データに基づいて語っていただきました。

コロナ禍でもオフィス面積を「拡張」する理由とは

私は「オフィスマーケットの需要・供給」をテーマに、市況データなどマーケット系のデータリサーチを行っています。現勤務先だけでなく、日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)や日本オフィス学会(JOS)、仕事とワークプレイスをテーマとしたグローバルネットワーク「WORKTECH Academy」などにも所属し、個人としても研究発表の場を広げているところです。

日本のオフィスエリアは、東京、大阪、名古屋など大都市の都心部に集中しているという大きな特徴があり、特に東京は「世界一の床面積を誇るオフィスマーケット」として存在感を示しています。このオフィスエリアが広大なことから、ワーカーがオフィスエリアの周辺に広がるベッドタウンに住み、1〜2時間を費やして通勤するという文化もできました。

そんな日本では十数年前から、働き方改革への取り組みが進んでいます。そのため、オフィスマーケットの調査・研究と並行して、ワークプレイスの在り方やワーカーに関する調査なども実施してきました。

具体的には、オフィスビルやサテライトオフィスなどに関する定点調査や、働き方の変化に対応したワークプレイスの調査などです。特に近年は、リモートワークの増加に伴い「ワークプレイスがどうハイブリッド化しているか」という視点で見ています。

先日実施した「大都市圏オフィス需要調査2022 秋①需要動向編」の調査結果によると、さまざまなワークプレイスのうち、オフィスの床面積(サテライトオフィスを除く)を「縮小した」企業は、2021年秋をピークに減る傾向にあります。一方、「拡張した」企業は、2020年春から秋にかけて減少しましたが、それ以降は安定的に推移しています。つまり、コロナ禍でオフィス面積の縮小ばかりが続いているわけではなく、拡張するケースも一定量みられているということです。

従来、オフィスの面積を拡張する理由としては、社内メンバーの「人数増」や「会議室不足」などが上位に挙がっていました。現在も「人数増」に対応する目的はもちろんありますが、それだけでなく「採用強化」や「快適性アップ」が上位に挙がっています。また「会議室不足」と「従業員のモチベーション向上」は過去最高の数値となりました。

また、「大都市圏オフィス需要調査2022春」の調査結果を元に別途作成した「ハイブリッドワークでオフィス面積は縮小するのか」というレポートでは、メインオフィスを設ける物件に求める要件についてまとめています。ここでは「自然光が入る」「ビル内・周辺のアメニティの充実」などのウェルビーイングの視点が入ってきており、ワーカー目線からワークプレイス拡張が検討されている変化を感じます。

また、コロナ禍以前から、サテライトオフィスの導入率がじわじわと増加しています。2017年春の調査では10.2%でしたが、2022年秋の調査では28.5%に伸びました。

往々にして「IT系の大企業はサテライトオフィスを導入しやすい」など、企業規模や業種によってサテライトオフィスの利用動向が語られがちです。しかしこれまでの研究や調査データから私が察するに、企業規模や業種だけで動向を分類できるほど単純な話ではなさそうなので、さらに研究を進めていきたいと考えています。

また以前のサテライトオフィス利用は、都心部などのオフィスエリアや出張先周辺などでの短時間的な利用が中心でした。しかし働き方の変化に伴って、郊外での利用や長時間利用が増加しています。またオンライン会議が普及した影響で、個室利用のニーズもより鮮明になりました。

今後も「ワークプレイス環境をどう構築するか」という議論が必要な状況は、続いていくと考えています。

ハイブリッドワーク下におけるサテライトオフィスの有用性

前述したように、コロナ禍ではオフィスエリアの縮小やサテライトオフィスの郊外出店などがみられましたが、大都市にオフィスが集中する状況はそう簡単には変わらないでしょう。ただし、テレワークを前提としたハイブリッドワークの流れも不可逆であり、都心部のオフィスと郊外のサテライトオフィスを併用するなど、ワークプレイスのハイブリッド化が進むのではないかと考えています。このうちサテライトオフィスに求める役割は、年々変化していると感じます。

ザイマックスが提供するサテライトオフィス「ZXY 赤羽西口」の内観

以前は「異なる企業の社員同士が共創すること」を目的として設置される都心部のサテライトオフィスが注目されていましたが、現在は「自宅の延長線上で、業務効率をあげるためのソロワーク」で郊外のサテライトオフィス利用が増えています。在宅勤務だけでは様々な不満や不具合があるため、あえてサテライトオフィスに出向いて気分転換をしたり、移動によって運動不足を解消したりするワーカーも増えたようです。また、この移動中に仕事に有用なアイデアが浮かぶなど、クリエイティブ面でプラスに働くケースもあると感じます。よって「移動」は、ワークエンゲージメントを高める変数にもなり得るのではないか、とも考えています。

このようなサテライトオフィスを利用する企業は増えているのですが、実際利用しているワーカーはまだまだ少なく、両者にはギャップがみられています。利用企業のうち、社員全員を利用対象としている企業が全体の5割だったのに対し、実際に社員全員が利用していると答えた企業は2割しかありませんでした。その背景には、そもそも自分がサテライトオフィスの利用対象者だと知らないことや、上長や部署がテレワークに否定的で、チーム内で「あまり利用しないようにして」というケースもあるようです。

たしかに、サテライトオフィス導入によってコストが増えるケースもあります。しかし、メインオフィスの面積を調整する、定期代などの経費を削減する、ワーカーのウェルビーイングやワークエンゲージメントを高める効果などと総合的に考えるべきでしょう。また、その検討には、サテライトオフィスによって働き方に柔軟性が生まれ、人材採用や退職率の軽減にも繋がるなどのメリットも含めてほしいと感じます。

社会の変化に呼応するかのように、オフィスビルの動向にはすでに変化が生まれています。大企業がフロア単位で借りていたような大きな床が区分けされ、中小区画に変更される動きがあり、さらに増加する可能性があります。また、オフィスビルやエリア内に飲食店や保育施設、エンタメ施設など、働くための機能以外の生活利便施設やエンターテインメント機能を複合的に配置し、ワークプレイス周辺の環境を充実させる動きも加速するかもしれません。

今後もワークスタイルやワークプレイスにおけるトレンドは変化し、それに対する所属企業の施策も、時期や実施結果などによって変化していくでしょう。しかし、そのような施策の揺り戻しや変更は必要な過程だと考えています。まずはワークスタイルやワークプレイスに関する運用を定めて実行し、その結果をみながらPDCAを回すという動きをとってはどうでしょうか。私も引き続きオフィスマーケットや働き方に関するリサーチ・研究を行い、確たるデータとして皆様に還元していきます。

著者プロフィール
  • 石崎 真弓(いしざき まゆみ)
    石崎 真弓(いしざき まゆみ)
    株式会社ザイマックス不動産総合研究所 主任研究員
    リクルートビルマネジメント(RBM)にて、オフィスビルの運営管理や海外投資家物件のPM などに従事。2000年にRBMがザイマックスとして独立後から現在のザイマックス不動産総合研究所に至るまで、一貫してオフィスマーケットの調査分析、研究に従事している。日本ファシリティマネジメント協会、日本オフィス学会、日本テレワーク協会、WORKTECH ACADEMYなどでも活動。

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