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2024年3月1日

コミュニティデザインの見地から考える、企業内コミュニティのつくり方

  • 山崎 亮
    (関西学院大学建築学部教授 studio-L代表)
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オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドな働き方が広がるなか、企業内コミュニティのあり方にも変化が訪れています。オフラインでの働き方を交えながらも、従業員一人ひとりが生き生きとつながる企業内コミュニティを形成するには、どのような取り組みが必要でしょうか。

関西学院大学建築学部教授であり、コミュニティデザイナーとして多彩なコミュニティづくりの実績を持つ山崎亮さんに伺いました。

コミュニティデザインの意味と、企業内コミュニティの特徴

私はコミュニティデザインを専門とするstudio-Lの代表を務めるとともに、関西学院大学建築学部でコミュニティデザインに関する研究・教育活動に取り組んでいます。

コミュニティデザインと聞くと、「コミュニティをデザインする仕事」と捉える方もいらっしゃるかもしれませんが、私たちが考えるコミュニティデザインとは、人と人をつなげ、コミュニティが抱える課題をそこに住む人たち自身で解決できるように支援することです。

私は大学・大学院で建築工学やランドスケープを学び、公共施設などの建築設計を手がける建築事務所でキャリアをスタートしました。そのため、公園や図書館をつくるプロジェクトに関わることが多かったのですが、そのなかで「公共施設をつくるのであれば地域の人々の声を反映させるべきではないか」という問題意識を持つようになりました。

地域の人々に利用される施設をつくるということは、「建築家の作品」を押し付けるのではなく、施設を利用する地域の人々の声に耳を傾け、そのアイデアを反映させることなのではないかと考えたのです。

そうした問題意識から、プロジェクトのなかに住民向けのヒアリングやワークショップを取り入れたのですが、その過程で地域の人々が自然とつながり、コミュニティが形成されていくことに気がつきました。そしてその様子を発信しているうちに、商店街や自治会などのコミュニティに関するプロジェクトへ参画を求められるように。もともとは設計のプロセスに利用者が関わってほしいという願いから始めた仕事が、より広い領域で仕事の依頼を受けるようになりました。この経験は、私が現在の活動に至るきっかけになっています。

現在、studio-Lでは、行政、教育機関、自治会、商店街、医療機関など、さまざまな関係者とプロジェクトを手がけています。プロジェクトのテーマも地域活性化や産業振興、行政計画の策定、防災、環境課題解決など実に多様です。こうした経験を重ねた結果、コミュニティデザインの「コミュニティの活性化」や「人と人をつなぐ」ということは総論的な効果であり、「さまざまな人々でチームを作り、何らかの目的や課題解決に向けてプロジェクトに取り組むこと」こそ、コミュニティデザインの重要な要素ではないか、と考えるようになりました。

また、コミュニティデザインを手がける組織や団体はstudio-L以外にも存在し、それぞれで方法論やアプローチは異なります。そのなかでstudio-Lは、私が建築やデザインをバックグラウンドにしていることもあり、形のある・なしを問わず「何かをつくる」ことで人がつながるというアプローチでコミュニティデザインを手がけているのが特徴といえます。

私たちは企業内コミュニティに関するプロジェクトへ参画することもあります。企業内コミュニティにはさまざまな形があり、個別の事情もプロジェクトによって異なりますが、地域と企業ではコミュニティとしての性質がやや異なる印象があります。例えば、地域でのコミュニティデザインのプロジェクトは、参加者を募ること自体が大きな関門になりやすく、丁寧に告知をしても参加してくれる人々は声をかけたうちの1割程度でしょうか。対して、企業では業務の一環としてプロジェクトに参加するため、参加率に関して悩むことはほとんどありません。「プロジェクトの立ち上げやすさ」という点では、企業のほうが滞りなく進むことが多いです。

その一方で、「プロジェクトの進めやすさ」という点では様相が異なります。地域の人々は有志で参加している分、熱量が高く、適切なファシリテーションさえあれば自律的にプロジェクトが進みやすい傾向があります。しかし企業の場合、仮に参加者が自律的にプロジェクトを進めていたとしても、「上層部から承認が得られない」などの社内理由で立ち消えになることが少なくありません。

こうした違いが生まれる原因のひとつとして、「上下関係」が挙げられるかもしれません。地域のプロジェクトには原則として上下関係がないので、参加者それぞれが自発性を発揮し、自律的にプロジェクトが進みやすいといえます。一方の企業では、あらかじめ上下関係が存在しているので、部下が上司を気づかったり、自らの立場をわきまえたりするうちに、プロジェクトへの熱量が削がれてしまうこともあるように思います。そのため、企業内コミュニティの立ち上げに参画する際は、あらかじめ上層部とプロジェクトの目的や目標を共有しつつ、ワークショップを現場のメンバーを中心に実施するなど、より効果的な取り組みを実践するようにしています。

ハイブリッドワークの環境において、企業内コミュニティの機能を維持するには

昨今、オフラインとオンラインを組み合わせた働き方が一般的になりつつあります。業務効率性の面でいえば、オンラインの利点は大きいでしょう。しかし、その一方で、企業のコミュニティとしての役割をオンラインだけに担わせるのは難しいと、私自身がstudio-Lを運営するなかで痛感しています。

studio-Lは2015年頃から複数のオフィスをオンラインでつなぐ取り組みをはじめ、2017年にはフルリモートでも業務ができる体制になっています。東京や大阪にオフィスは設けていますが、出社するかどうかは自由です。こうした体制は、私や長くいるメンバーにとっては非常に快適なのですが、studio-Lへ新たに合流してくるメンバーには酷な面もあるような気がしています。日々のコミュニケーションはリモートでとれ、コミュニティデザインの実務は出張先の現場で習得できても、実務以外の部分を直接学ぶ機会が少ないからです。

企画の発想法、準備の段取り、情報収集する書籍など、コミュニティデザインの業務を遂行するには、実務以外にも身につけておくべきことが数多くあります。それはオフィスに出社して同じ空間を共にし、先輩や上司の振る舞いを観察することで習得できるものです。その意味では、オフィスには人材育成を後押しするという重要な機能もあるのだと思います。

この課題は、リモートワークを取り入れている多くの企業に共通しているはずです。コロナ禍には、新入社員とのコミュニケーションや育成手法に頭を悩ませる企業が少なくありませんでした。しかし、大きな社会変容によって企業運営にも変化が見られる以上、コロナ禍以前の働き方に逆戻りするのは現実的ではありません。

では、ハイブリッドな働き方を維持しつつ、どのように企業内コミュニティを維持、発展させていけばよいのでしょうか。組織の規模や業種によっても事情は異なると思いますが、「管理職はあえて出社しない」のも良いのではないでしょうか。一定以上の管理職がリモートワークで勤務することで、現場のメンバーやリーダークラスはオフィスで知見を共有し合ったり、切磋琢磨したりしながら働きます。そうすれば、管理職から同調圧力を感じるなどの対面による心理的負担を低減しつつ、効率的に人材育成を行えると考えています。

もちろん、従業員を対面で管理できないことに不安を感じる管理職は多いはずです。「部下が怠けるのでは」という懸念もあるかもしれません。だとすれば、従業員が怠けたくなくなる環境をつくるのも一策だと思います。従業員が自律的に仕事に取り組めるよう、「仕事が楽しい」「顧客への貢献が感じられる」「信用の脆弱性の共有」「給与体系などの適切なインセンティブ設計」という4つを揃えることを意識することが大切だと考えています。

私がほとんど出社しなくてもstudio-Lが運営されている理由は、これら4つが満たされているからかもしれません。もし、従業員が自律的に働く環境を築きたいのであれば、こうしたポイントを見直し、再検討してみてはいかがでしょうか。

企業内コミュニティを組成し、持続させるための3つのポイント

最後に、企業内コミュニティの創出に応用できそうな事例を紹介します。2012年から2014年にかけて、studio-Lが広島県の福山市役所で手がけた地域活性化プロジェクトです。このプロジェクトの特徴は、行政職員自身がコミュニティデザイナーの役割を担ったことです。このときは、有志の若手職員が組織内コミュニティ「F-net」を組成し、3年間に渡るプロジェクト全体を主導しました。

このプロジェクトでは、studio-LがF-netのメンバーにファシリテーションやヒアリングなどのスキルをお伝えし、OJTにも伴走しました。ここで注力したのは、F-netのメンバーに普段の行動様式や思考の癖を一時的に忘れてもらうことでした。そして、このプロジェクトについては上長への書面での報告を不要にするなど、自由にプロジェクトに取り組める仕組みや雰囲気をつくりました。

その結果、F-netのメンバーは徐々にコミュニティデザイナーとしてのスキルを高めていき、地域の人々を巻き込んだワークショップや地域活動を自律的に推進できるようになりました。加えて、庁舎内の雰囲気が変わり、コミュニケーションが活発になったとも聞いています。

福山市役所のプロジェクトにおけるポイントは3点あります。1つ目は、コミュニティの組成を『目的』ではなく『手段』にしたことです。組織のトップが「さあコミュニティをつくりましょう」という号令をかけても、人はなかなか繋がれないものです。何らかの目的や課題解決に向けたプロジェクトを推進する手段としてコミュニティを組成し、その活動のなかでつながりを醸成していくのが良いと思います。

2点目は、プロジェクトを本業となるべく切り離すことです。プロジェクトが既存業務の延長線上にあると、従来の組織内での人間関係が維持されてしまい、新たなコミュニティやつながりは生まれにくいからです。プロジェクトの成果を既存の評価制度と紐付けすぎないことも重要でしょう。

3点目は、プロジェクトのテーマを「誰かに感謝されるもの」にすることです。本業と切り離したプロジェクトが良いとはいえ、レクリエーションのような活動ではメンバーの本気度は高まりません。例えば、地域の課題解決をプロジェクトのテーマに据えれば、地域の人々からは感謝されますし、それが活動のモチベーションに繋がります。また、企業にとってはCSR活動の一環にもなるので一石二鳥でしょう。

企業内コミュニティの創出をめざしている担当者の方は、これらのポイントを踏まえて、自社に適したプロジェクトを立ち上げてみることをおすすめします。

著者プロフィール
  • 梅本 龍夫
    山崎 亮(やまざき りょう)
    関西学院大学建築学部教授
    studio-L代表
    1973年愛知県生まれ。大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。
    建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。 著書に『コミュニティデザインの源流(太田出版)』『縮充する日本(PHP新書)』『地域ごはん日記(パイインターナショナル)』『ケアするまちのデザイン(医学書院)』など。

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