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2024年6月21日

チーミングは「選抜」ではなく「組み合わせ」で。中長期的に成果を出すチームづくりのコツと心構え

  • 勅使川原 真衣
    (おのみず株式会社 代表取締役社長 組織開発コンサルタント)
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社会情勢や市場環境の変化が激しさを増すなかで、企業には環境変化に強い組織づくりが求められています。突如として降りかかる危機に負けず、長期的に成果を残せるチームは、いかにして実現できるのでしょうか。

個人の行動や思考傾向など、性格行動特性を活用した組織開発の専門家であり、約1万人との対話を通じて組織のチーミングを支援してきた、おのみず株式会社の勅使川原真衣さんに伺いました。

画一的な評価指標を押し付ける「能力主義」がもたらす弊害

私は、東京大学大学院教育学研究科で教育社会学を学び、教育学修士を取得したのちに、複数の外資系コンサルティングファームで企業の人材開発、組織開発に携わりました。その後、2017年に組織開発を専門とするおのみず株式会社を設立し、大手企業やスタートアップ、医療法人など、幅広い組織の組織開発を支援しています。

現在の専門である組織開発に関心を持ったのは、ある一つの違和感がきっかけです。幼少期の私は活発な性格で、小学校では積極的に発言してクラスを引っ張るタイプでした。しかし、その行動がもとで諍いやトラブルを招くことがあり、中高大と成長するにつけ、控えめに振る舞うようになります。

そして、学生時代も終盤に差し掛かる頃、就職活動で壁に突き当たりました。就職活動の面接で尋ねられるのは「あなたの個性は何ですか」「リーダーシップを発揮した経験はありますか」といった、積極性や主体性を問う質問が中心です。子どものころに煙たがられていた行動が、就職活動では一転して貴ばれることに、私は「何かおかしいのでは…」と疑問を抱くようになりました。

その後、人事組織コンサルタントとして企業の採用や人事評価を手がけましたが、そのなかで気付いたのは、「能力」というものが個人の中に固定的に存在しているわけではない、ということです。職場で活躍していた人物のパフォーマンスが人事異動や転職をきっかけに低下し、あまり活躍できなくなった事例を目にしたことがある方は多いと思います。それは無理もないことで、一般的には個人の能力だと思われているものも、実は周囲の人々や職場環境、与えられたタスクなどとの組み合わせによって引き出された力に過ぎません。つまり、環境によって活躍しやすい人物や求められる特性は異なるのです。

それにも関わらず、「リーダーシップ」「課題解決力」「コミュニケーション力」など、どのような環境でも役に立つ能力が存在し、それが評価ツールによる診断などで一元的に評価できるとする「能力主義」は後を絶ちません。そもそも、人間は一人ひとりで特性が異なるので、画一的な指標を押し付けて、能力の向上を競わせても意味がありません。そうした問題意識のなかで、私は個人の能力向上を促す「人材開発」ではなく、一人ひとりの特性を組み合わせて最適な組織を構築する「組織開発」を専門とするようになりました。

組織開発を手がけるうえで重要なツールにしているのが、性格行動特性です。心理学で用いられる「ビッグファイブ理論」などをベースに、その人の解釈の傾向を分析します。わかりやすく言うと、性格行動特性は、その人が「どんなメガネをかけているか」を分析したものです。私たちは物事を解釈するための「メガネ」を無意識に身に付けていて、そのメガネの違いが解釈の相違を生み出し、それが行動や性格の違いとして顕在化しています。

いわゆる「個性」とは、かけているメガネの違いに他なりません。こうした一人ひとり異なる性格行動特性を把握し、それらを組み合わせて最適な組織を構築するのが、私が手がける組織開発の特徴です。

それは、トイブロックで作品を作るようなものかもしれません。一つひとつは小さなブロックですが、その凹凸の特徴を捉えて上手に組み合わせていけば、芸術作品さながらの巨大な造形物を創作できます。組織開発も同様で、メンバー一人ひとりの特性が最適な形で組み合わさったときにはじめて、強い組織が立ち上がります。その意味では、組織という造形物をどのように作るのかを構想し、リードしていくのが、私の役割です。

チーミングの第一歩は「観察」。足元を見直し、自社に最適なチームを構想する

昨今、個人の能力開発を行う人材開発ではなく、チーム内の人と人や人とタスクの組み合わせである「チーミング」に課題を感じる企業が増えていると感じます。チーミングとは、チームワークの構築と最適化を模索し、実践し続けることですが、社会の環境や価値観が急速に変化するなかで、自社に適した組織のあり方が見失われているのが要因かもしれません。

これは人間の心理にも共通しますが、組織は環境変化に直面すると不安が高まり、一足飛びに明快な答えや理想の解決法を求めてしまいます。しかし、組織開発の第一歩は既存のメンバーの特性や社内の状況を把握することです。そのため、チーミングを見直す際には、まず従来の採用や人材配置、育成などの状況を丁寧に観察することから始めてはどうでしょうか。

以前、とある大手企業から「採用がうまくいっていないので支援してほしい」という依頼を受けたことがあります。聞けば、毎月数十件の中途採用の面接を実施しているものの、条件に適した人材を獲得できずに苦戦しているとのことです。そこで、選考の候補者や採用担当者、さらに他部門の社員にも性格行動特性の診断テストを実施したところ、意外な結果が見えてきました。採用の可否に強い影響力を持つ、いわゆる「切れ物」の人事部長が、自分と性格行動特性が似ている候補者をことごとく不採用にしていたのです。

おそらく部長は、自分と似たタイプの優秀な人材を、自らを脅かす存在として敬遠し、無意識に不採用にしていたのだと思います。これでは自社の求める人材が獲得できませんし、採用した人材は部長と反りが合わないため、思うようにパフォーマンスを発揮できません。

依頼当初、この企業は選考のプロセスや候補者のターゲティングに問題があると想定していました。しかし、本当の問題は採用担当者のバイアスにあったのです。そのため、私は人事部長をはじめ複数の社員と面談を重ね、バイアスを和らげる取り組みを続けたところ、同社の採用数は向上していきました。

さらに、この話には続きがあります。社内でローパフォーマーと分類されている社員の多くが、部長とは対照的な性格行動特性を有していたのです。たしかにこの人事部長は外向性や論理性が高く、行動力も伴っていましたが、彼を影で支えている対照的な社員たちも組織には必要な存在です。

このように、チーミングにおいては、既存のメンバーの特性を把握して、そのマッチングを検討する必要があります。人材を「選抜」するのではなく、自社に適した人材を「組み合わせる」という視点が大切なのです。このような視点でのチーミングには、3年から5年などの時間を要することも多々あります。

また、チーミングで重要な役割を果たすのは、採用担当者だけではありません。チームを統率し、タスクを割り振る現場のリーダーの役割も大きいです。特にリーダーに求められるのは、観察とフィードバックのサイクルを回すことです。チーム一人ひとりの行動をつぶさに観察し、そのうえで「あなたにはチームでこんな役割を果たしている」や「あなたにはこんなタスクが向いているのではないか」とフィードバックしていきます。これによって、メンバー一人ひとりが、チームのミッションや、そのなかで果たすべき役割を自覚でき、よりメンバー間の組み合わせが洗練されていきます。

最近では、リモートワークが普及し、職場で直接顔を合わせる機会が減っているため、その際にはチャットの反応や文面を観察して、メンバーの特性を掴むのがよいでしょう。オンラインの機会が増えると、メンバーの働きを観察しにくくなったように思うかもしれませんが、テキストメッセージなど意外と多くの情報があふれているものです。

そして、何よりチーミングで大切なのが、現場で働く一人ひとりの役割です。多くの職場では花形的な部署や仕事が存在し、それ以外の仕事に従事する人々は、しばしば自らの役割を他愛もないものだと認識します。しかし、自動車が役割の違った数万個の部品が揃ってはじめて安全に走行できるのと同様に、花形的ではない仕事があってこそチームは機能します。逆にいえば、花形的な仕事だけではチームは成果を残せないのです。

加えていうなら、リーダーが観察とフィードバックのサイクルを回すだけでなく、現場で働くメンバーが自らの役割を自覚し、その役割がたとえ花形ではなかったとしても、社内でアピールする姿勢も必要ではないでしょうか。そうすることで、チーム内のコミュニケーションは活発化し、チーム全体がより最適な形に変化するきっかけになるはずです。

立ちはだかる「わからなさ」に耐え、中長期的に成果を残せる組織づくりを

多くの企業が中長期的に成果を残す組織づくりに取り組んでいる今、時間軸の長い取り組みは「わからなさに耐える」ことの連続だと思います。短期的な成果を望むのであれば、ある目標を設定し、その目標に向けた効率的なオペレーションを構築すればよいでしょう。

一方で、目標への時間軸が長期化するほど、不確実な要素が増え、是非を判断し難い事態にも直面します。先ほども述べたように、不確実で不安定な状態に陥ると、人や組織はわかりやすい答えや局所的な解決策に飛びつきたくなるものです。しかし、そうした「わからなさ」に耐えて、目の前の問題を一つひとつ解きほぐしていくのが、中長期的な組織づくりに必要な姿勢だと思います。会議や議論の場で、耳心地のよいわかりやすい結論が導かれそうになったら、自らを再点検するクセをつけるのがよいかもしれません。

最後に、企業で何らかの施策を立てている方には、「個人ではなく、環境や仕組みに目を向けること」をお伝えしたいです。もし、施策がうまくいっていないときには、その理由を個人に帰責するのではなく、環境や仕組みに阻害要因があるのではないかと考えてみてください。それが問題解決の近道になるはずですし、メンバー一人ひとりの特性や役割に気付くきっかけにもなります。

可視化されていないだけで、チーム内では、あらゆるメンバーが複雑かつ重要な役割を果たしています。それに気付くことができれば、一人ひとりへの謝意が生まれ、「能力主義」から脱却する契機にもなると思います。

著者プロフィール
  • 勅使川原 真衣
    勅使川原 真衣(てしがわら まい)
    おのみず株式会社 代表取締役社長 組織開発コンサルタント
    1982年横浜生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。BCG、ヘイ グループなど外資コンサルティングファーム勤務を経て独立。2017年に組織開発を専門とする、おのみず株式会社を設立し、企業はもちろん、病院、学校などの組織開発を支援する。二児の母。2020年から乳ガン闘病中。2022年12月『「能力」の生きづらさをほぐす』(どく社)は紀伊國屋書店じんぶん大賞2024において、第8位に入賞。そのほかに、2024年6月『働くということ 「能力主義」を超えて』(集英社)、7月には『職場で傷つく -リーダーのための「傷つき」から始める組織開発』(大和書房)が出版予定。

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