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先進の技術力に支えられる日本の宇宙ビジネス

2024年4月24日

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 2024年1月、月探査機「SLIM」が世界で5か国目となる月面着陸に成功するなど、日本の宇宙開発が進んでいます。先進の技術力に支えられる日本の宇宙開発は「宇宙ビジネス」として経済界からも期待されており、民間企業による人工衛星の打ち上げや「宇宙港」整備など、全国でさまざまな取り組みが活発化しています。今回はそうした国内での宇宙ビジネスの現状や展望などについて解説します。

進化する日本の宇宙開発

 2024年4月、アメリカで開催された日米首脳会談において、アメリカ航空宇宙局(以下NASA)を中心に欧州宇宙機関(以下ESA)、日本の宇宙航空研究開発機構(以下JAXA)などのほか、民間企業もパートナーとして参画する月面着陸計画「アルテミス計画」で、日本人宇宙飛行士の参加が約束されました。これまでの日本人宇宙飛行士は、スペースシャトルに積み込まれた実験装置や観測装置の操作および実験を担当するペイロードスペシャリストと呼ばれる専門職の宇宙飛行士、スペースシャトルと実験装置間の調整や船外活動を行うミッションスペシャリストと呼ばれる搭乗運用技術者のほか、国際宇宙ステーション(ISS)の乗組員として活躍してきました。そう遠くない将来に日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ光景を目にする日がやってきます。

 日本の宇宙開発はこれまでに、探査機「はやぶさ」や「はやぶさⅡ」により小惑星の表面から岩石や砂、土などの「サンプル」を採取し、地球に持ち帰る「サンプルリターン」を成功させるなど、非常に高い精度でミッションを遂行してきました。また、2024年1月20日には、小型月面探査機「SLIM」が世界で5か国目となる月面着陸に成功しています。着陸の際に横倒しになったことで搭載した太陽電池による発電が難しい状況に陥りましたが、太陽光の照射状況が変わったことで予定通り「数日間の運用」を達成しました。このSLIMは高精度のピンポイント着陸に挑戦し、着陸予定地点である「神酒の海」と呼ばれる平原のクレーター「SHIOLI」に到達。これは約38万㎞先の月に対し、僅か55mの誤差での着陸と非常に高い精度となりました。

 さらに2024年2月17日には、新たな大型ロケット「H3」の打ち上げに加え、超小型衛星2基および模擬衛星を軌道へ投入することにも成功しています。H3は、2001年から運用している「H-ⅡA」の後継機として新型のメインエンジンを組み込み、搭載する人工衛星の大型化に対応するとともに、低コスト化も実現した新世代のロケットとして認知されています。

 JAXAだけではなく、宇宙開発ベンチャー企業による初の民間ロケットが和歌山県・串本町の発射場で2024年2月13日に打ち上げられました。結果的に打ち上げには失敗はしたものの、日本の民間企業主導による宇宙ビジネスが、着実に一歩を踏み出した瞬間でした。

宇宙開発技術の発展

 世界の宇宙ビジネスは、今や60兆円超規模と言われています。なかでもアメリカは群を抜いており、NASAの2025年会計年度予算は約3.7兆円とされています。その他、民間企業や宇宙開発ベンチャーが富裕層を対象に提供するサービスも拡大しつつあり、アメリカの衛星打ち上げ基数は世界の半数以上を占め、事実上宇宙ビジネスの中心となっています。EUは、ESAが開発した人工衛星打ち上げ用ロケット「アリアンロケット」を用いた衛星打ち上げビジネスを展開しており、2023年から2027年の予算規模を約1兆円としています。アジアでも、中国が独自の宇宙ステーション開発をめざすなど大規模な予算を投じて宇宙開発を進めていくとしています。

 こういった世界各国の動向を背景に、日本の宇宙関連予算に目を向けてみると、2023年度は2022年度補正予算を加えた約6,200億円、2024年度は2023年度補正予算に加えて企業や大学における宇宙開発技術を支援する基金を含む約8,950億円と増加傾向にあります。この予算拡大の動きは、今後アメリカやEUに続き宇宙ビジネスへ本格参入していくために必要不可欠なものとなっていきます。地球を周回する人工衛星、惑星に着陸する探査車、はるか遠くの太陽系惑星をめざす探査衛星などの開発には、性能向上をひたすら追求し続ける必要があります。そのためにはコストを度外視し、信頼性や耐久性を高めるための特殊な素材や堅牢な機器を搭載しなければならないためです。

 例えば、SLIMに搭載された太陽電池も、信頼性と耐久性に優れ高い発電効率を実現する特殊な化合物半導体太陽電池が採用されました。これは、薄いフィルムを用いて太陽電池セルを封止した構造となっており、軽量かつ曲面への搭載も可能なフレキシブル性を備えています。高効率化と軽量化が求められる宇宙用途に適した仕様として開発されたものです。

 このようにコストをかけて開発し熟成された技術は、その後量産性向上や代替できる新素材の検討・開発などを通じて、低コスト化が図られ、ロケットならば打ち上げコスト削減、人工衛星ならば部品の共通化などを実現し、宇宙ビジネスの活性化に繋がっていきます。その例が前述のH3です。H3はH-IIAの運用で蓄積した技術を活用し、受注から打ち上げまでの期間短縮と打ち上コスト削減を実現しました。

身近な存在になる宇宙ビジネス

 国や地方自治体も宇宙ビジネスを後押ししています。内閣府・経済産業省が運営する「スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク(S-NET)」では、衛星データ等を活用した宇宙ビジネスの創出を推進する全国13の自治体(2023年11月現在)を「宇宙ビジネス創出推進自治体」として選定し、地域における自律的な宇宙ビジネスの創出を支援しています。これらの地域では、宇宙関連施設、技術者や研究者の住宅や宿泊施設の設置、宇宙関連産業の工場が集まる工業団地の整備など、宇宙ビジネスを通じて地域経済の活性化に取り組んでいます。

 既にいくつかの地域では地方自治体や団体等が主導し、地域の強みを活かした宇宙ビジネス振興を図る取組事例も出てきています。北海道大樹町は、北海道東北開発公庫(現日本政策投資銀行)が1984年3月に発表した「北海道大規模航空宇宙産業基地構想」に沿って「宇宙のまち」として知られるようになりました。JAXAや民間企業が宇宙関連の実験などを行い、2021年には北海道スペースポート(HOSPO)が本格稼働。宇宙開発ベンチャーが立地し観測ロケットが打ち上げられたほか、1000m滑走路を備えた多目的航空公園として整備されています。

 また、民間ロケットの発射場として注目を浴びているのが、和歌山県串本町です。串本町の高校には2024年度から宇宙探求コースが設置されました。そのために和歌山県と串本町が連携のうえ宇宙関連学習を積極的に推進し、宇宙に関連した知見を持つ人材の教員採用を始めました。大分県では2020年4月にアメリカの宇宙開発ベンチャーとパートナーシップ協定を交わし、大分空港を拠点に「宇宙港」として活用しています。この宇宙港では航空機にロケットを搭載し、安全な洋上でロケットを発射する「水平打ち上げ」を実施しています。さらに中心市街地には、宇宙関連の最新情報を発信する場を設置し、エンジニアの育成のほか、超小型衛星の開発・運用などにより関連技術を通じ、県内の振興につなげていくとしています。

 観光という視点で注目を浴び、次のステップとして宇宙ビジネスの育成をめざしている地域もあります。「日本一星が見えやすい県」に何度も輝き、『星鳥県』というコンセプトで地域活性化、観光客誘致を推進している鳥取県です。星や宇宙を活用した産業振興として2021年11月に「とっとり宇宙産業ネットワーク」を発足させ、現在70を超える企業・団体が参加しています。

 こうした日本における宇宙ビジネスをさらに発展させるには、国や地方自治体と民間企業が一体となった取り組みが重要だと考えられています。宇宙開発には、ロケットの打ち上げ、衛星運用・データ活用、それらを管理する地上システム、また搭載機器の部品や素材の設計・製造・開発などに多くの公的機関や企業が関わっています。今後更なる強化・連携が実現すれば、世界的な宇宙ビジネスへ本格参入していくことができるでしょう。現在、日々の暮らしの中で身近になっている高精度な天気予報や位置情報サービスは、宇宙ビジネスの一例です。近い将来幅広い分野への活用が期待されるとともに、私たちも宇宙開発やその技術力に支えられたサービスや施設と触れ合う機会が増えていくことでしょう。

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