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半導体関連産業の活性化がもたらす地域経済への影響

2024年3月27日

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 2024年、日本の地方都市で進展する半導体関連産業へ注目が集まっています。九州・熊本県では海外大手半導体メーカーの進出、また北海道・千歳市においては最先端半導体の開発から量産を手掛ける工場の開設など、大規模な投資計画が進んでいます。今回は、日本における半導体関連産業の変遷を辿りながら、地価上昇や雇用拡大など地域経済に与える影響、さらに今後の変化などについて考察します。

企業誘致で活性化をめざす地域経済

 新型コロナウイルス感染症が世界経済に影響を及ぼした2020年から2022年の間、日本国民のライフスタイルや働き方に大きな変化がもたらされました。リモートワークの導入、事業所の縮小や移転をする企業が増え、地方都市に新たなオフィスや拠点を構えるという事例も生まれました。日本経済が停滞するなか、受け入れ先となる地方都市では国から思うような援助が受けられず、地域経済を活性化してくれる企業の力を必要としていました。そこで昨今、企業、地域双方への相乗効果が期待できる誘致活動が活発化しています。地域は新たな事業のスタートにより、周辺産業の発展が見込まれ、地域経済が活性化します。また企業は「地方拠点強化税制」などによる税金面に大きなメリットが生まれます。

 一方で世界に目を向けると、産業界ではサプライチェーンの断絶などにより半導体不足が起き、自動車や電子機器の生産が停滞するといった事態を招きました。現在の需給状況は概ね安定しており、2024年以降は世界的に在庫調整が一巡したことや飛躍的な発展を続けているAI開発の需要などを受け、日本国内でも半導体産業への投資が活発化しています。具体的には2024年2月、台湾に本社を置く世界最大手のファンドリー(半導体受託製造)メーカーが、約1兆3000億円を投じ熊本県菊陽町に熊本工場を完成させました。さらに同社は、2024年末までに第2工場を建設することを明らかにしており、全体では約2兆9600億円超の投資規模になる見込みです。また、次世代半導体の量産を目的に設立された企業が、北海道千歳市に世界最先端のプロセスを用いた半導体工場を建設する予定です。2025年4月に試作ラインを稼働させる計画で、投資額は5兆円規模と言われています。その他にも、岩手県、山梨県、石川県、宮崎県などでの工場の稼働ラッシュが続く予定です。これらの地域に大きな半導体関連工場が建設、稼働することは、周辺産業にも影響を与え大きな経済波及効果が見込まれています。

 こういった動きは、半導体需要が世界的に拡大した1980年代から1990年代初頭にかけて、世界シェアトップに君臨していた日本の半導体関連産業を活気づかせています。日米半導体協定(1986年締結)の影響や巨額の半導体投資を控えたことで、アジア各国の成長に後れを取りシェアを落としていましたが、ここにきて世界の半導体供給基地への返り咲きが期待できます。

世界を牽引してきた日本の半導体関連産業

 再活性化の兆しが見えてきた日本の半導体関連産業の歴史を振り返ると、コンピューターの普及や産業機械の電子化などにより、半導体需要が世界的に拡大した1980年代から1990年代初頭にかけて、日本の半導体企業は世界シェアの50%を占めていました。なかでも半導体記憶装置は、世界最先端を走っており、国内各地に半導体工場が建設され、エレクトロニクスやコンピューター関連企業だけでなく鉄鋼関連企業も相次ぎ半導体事業に参入しました。

 しかし、1986年に締結された日米半導体協定により、2大骨子であった “日本の半導体市場における海外企業の解放とシェア20%以上”と“日本の半導体企業によるダンピングの防止”が施行され、失効する1996年までの10年間にわたり日本の半導体企業が自由に輸出はおろか日本国内での販売もできない状況に陥りました。50%を占めていた世界シェアは10%程度まで落ち込み、日本の半導体関連産業は徐々に衰退していきました。1990年代以降、国内企業は海外や国内にある工場の売却や分社化、さらには同業との提携、合併などにより事業の存続を図ってきました。

 このような厳しい状況におかれ、半導体産業が縮小に向かったなかでも、日本の半導体製造装置、半導体材料関連企業は成長を続けていました。半導体を製造するためには、設計に始まり、前工程や後工程、検査に至るまでいくつもの工程に分かれ、それぞれに専用の製造装置を用います。日本の半導体製造装置は、世界シェアでトップの米国に続き30%前後を占めていると言われています。

 半導体材料も同様です。大部分の半導体はシリコンウエハーに回路パターンを焼き付けて作ります。そのシリコンウエハーから回路パターンの作成に必要なレジスト、成膜のための半導体ガス、パッケージ材料、テスト用ソケットなど多くの分野で日本企業が競争力を保ち、高い世界シェアを誇っています。これまでに日本企業が国際競争力を長く維持できているのは、継続的に世界最先端の半導体企業と密接な関係を築いてきたためだと考えられています。

 今後、半導体製造装置市場は、2030年には約20兆円近くまで成長する可能性があると言われています。引き続きシェアを維持し、拡大させていくためには、世界の最先端半導体企業から新規の案件を引き出すとともに、最先端分野の開発を常に進めていく必要があります。さらにこれらの半導体は、自動車の電子化や再生可能エネルギー利用、省エネ推進を追い風に、近年市場を拡大しています。再び国内の半導体投資が活発化することで、好調を維持する半導体製造装置、半導体材料関連企業にも好影響を与えることになります。

産業活性化がもたらす地域経済への影響

 こういった産業活性化による地域経済の影響に目を向けると、半導体関連工場の新設にともない、立地周辺の地価が上昇しています。2023年7月1日に公表された基準地価を見ると、熊本県内では調査地点の住宅地、商業地、工業地すべて地価が上昇しており、2023年の平均変動率は1.2%と2022年の0.4%を上回る上昇率となりました。特に新設される半導体工場に近いエリアでは菊陽町が12.8%、隣接する大津町は10%上昇しています。同様に北海道の基準地価では、千歳市が住宅地、商業地の上昇率上位を占め、中でも住宅地は30%超の上昇率となっています。北海道はインバウンド需要も活況で、スキー場など観光施設の多い地域も地価が上昇していますが、半導体関連工場新設のインパクトはそれを上回る勢いです。

 地方都市における半導体工場の新増設は、地価の上昇だけでなく様々な分野へインパクトを与えると考えられています。工場の新増設により、そこで働く技術者用の住宅が必要となり、その建設が活発になります。特に海外企業が進出する地域においては、日本人だけでなく外国人技術者が来日してその地域で働くことになるため、人口増となる見込みです。その影響により商業施設をはじめとして流通、サービス産業の誘致が期待され、すでにそれらの地域では地価上昇に加え、マンションや住宅の家賃も上昇傾向にあるようです。

 新たな商業施設、流通、サービス産業の誘致により、地元の雇用機会拡大が期待できます。地域に大学などの教育機関があれば新卒人材の雇用や、パートやアルバイトなどの雇用創出にもつながります。さらには、地元の運輸業、原材料生産者などへの発注需要、近隣飲食店での利用需要にも広がります。また、オフィスや工場の増新築によって建設業や機械製造業への新規発注により、関連企業の売上増加も考えられます。世代という点でいえば、若年層のみならず中高年世代の雇用促進にも有効になるでしょう。

 また、地域に人口が増えれば税収増が見込めることもあり、政府や自治体も半導体関連工場の新増設に多額の支援を表明しています。こういった施策も立地する地方都市の経済に大きなインパクトを与え、今後、新たな住宅の整備をはじめ、道路交通網の整備、電力や水の消費量増加も考えられます。私たち消費者の目線では、経済の活性化を推進させることだけにとらわれず、持続可能性な社会に配慮した形での地域活性化をめざしていくことも必要となっていくのではないでしょうか。

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