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2024年1月4日

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)に取り組む価値と、企業に多様性をもたらすワークスタイル

  • 白河 桃子
    (相模女子大学大学院 特任教授、昭和女子大学 客員教授)
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近年、ESG投資、SDGsの推進やコーポレートガバナンス・コード*1の改訂などを受けて、企業に多様性への担保を求める動きが活発化しています。多様な従業員がいきいきと働ける「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(以下、DE&I)」はどうすれば実現できるのか、DE&Iやワークスタイルに関して広く取材、研究されている白河桃子さんに伺いました。

*1 コーポレートガバナンス・コード:上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)における実効的原則・指針を定めたもの。東京証券取引所が取りまとめている。

ジェンダー平等を阻害する旧来的な社会構造。その打開策のひとつがDE&I

私は2000年に著述家としてデビューした後、「働き方改革実現会議」の有識者委員をはじめ、政府や行政のさまざまな会議に委員として参画しながら、相模女子大学大学院などで教鞭を執っています。

私のテーマの軸は一貫して「女性×働く」です。ここでいう「働く」は、キャリアアップや家庭とキャリアの両立といったトピックに留まりません。働く女性のライフステージ全体を考え、より良いあり方を探求することに関心があります。

そのなかで現在、特に注力している領域が「ジェンダー平等」です。従来の日本における働き方は、家事や育児などのケア労働をパートナーに任せて長時間仕事にコミットでき、なおかつ健康でいられる男性を標準的なモデルにしていました。しかし、人口減少社会が到来し、企業の多様性に対する要請が高まるなかで、従来型の働き方を維持するのは困難になりました。同時に、家庭、個人のライフスタイルの多様化も進み、人権課題として、また労働力不足など迫り来る問題として、今後の社会では、男性だけでなく女性や障がい者、外国人といったマイノリティが活躍できる環境を整備する必要が生まれたのです。

そして、そうしたマイノリティのなかで多数を占めているのが女性です。いわば女性は「最大のマイノリティ」であり、その存在をいかに活躍に導けるかが、社会の今後を担う鍵になります。誰もが属性にかかわらず活躍するためにも、ジェンダー平等は必ず通る通過点だと考えています。

では、ジェンダー平等をどのように実現すればよいのでしょうか。このとき、DE&Iがヒントになります。DE&Iの概念は2020年頃から次第に浸透してきました。ダイバーシティ(Diversity)やインクルージョン(Inclusion)が口にされることは多いですが、エクイティ(Equity)については馴染みの薄い方が多いかもしれません。エクイティとは「公平」を意味し、単に平等な環境やルールを用意するのではなく、それによって生じる機会の公平性を担保することです。

これについては、働き方におけるジェンダー平等の歴史的経緯を振り返るとわかりやすいでしょう。1986年に男女雇用機会均等法が施行され、日本企業におけるジェンダー平等がスタート地点に立ちましたが、当時の社会が期待していた働く女性のモデルは「男性と同じ働き方ができる女性」でした。しかし、従来の男性中心主義的な働き方では、結婚や出産といったライフステージの変化をカバーできず、キャリアを断念する女性が数多く出てしまいました。

そのため、その次にフォーカスが当たったのが「女性だけのキャリアと家庭の両立支援」です。このころに時短勤務や育休制度が普及します。しかしこの方法では、家庭内の育児・家事が女性に偏ってしまい、女性が特別な働き方をすることで昇格昇進から遠のいてしまう「マミートラック*2」に陥るなど、意思決定層になかなか参画できませんでした。

こうした経緯などを経て進められたのが、働き方改革です。働き方改革のポイントは、女性だけが対象ではなく男女ともに長時間労働を是正し、有給取得を促し、さらに時間当たりの生産性を上げることをめざしました。また2021年には育児・介護休業法が改正され、2022年、2023年と段階的に施行されました。つまり、女性の活躍を促すにあたって、働く人全体の環境整備、ひいては男女役割分担の強い社会構造にメスを入れたのです。これまで、さまざまな制度や施策を設けたにも関わらずジェンダー平等が実現しなかったのは、労働環境や社会構造を放置したまま女性だけに働きかけを続けていたからに他なりません。
この社会構造を是正しながら、人々の機会の平等を担保していく取り組みこそ「エクイティ」だと考えています。こうした価値観を加えたDE&Iを押し進めることで、旧来的な社会構造により活躍を阻害されていた人々が、いきいきと働いて暮らせる環境を実現できるのではないでしょうか。

*2 マミートラック:母親となった女性従業員が産休・育休から復職した際に、自分の希望やこれまでのキャリアと関連のない職務内容や勤務時間になり、結果として社内におけるキャリアアップが妨げられる事象のこと。

「制度はあっても使えない」をなくし、DE&Iの推進を

DE&Iは企業にとって喫緊の課題です。2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは「意思決定層の多様性担保」が重要な指針として盛り込まれたほか、2023年には、有価証券報告書に男女賃金格差や男性育休取得率などの情報開示が義務化されました。これらの項目を重要指標として評価する傾向は、とりわけ海外の機関投資家の間で高まっています。

ただし、こうした社会からの要請だけが、DE&Iに取り組む理由になるわけではありません。DE&Iを推進すれば企業価値は向上しますし、多様性がイノベーションを促すことは広く知られています。また、日本の伝統的な大企業では「変革を起こしたいが、どこから手を付けていいかわからない」という悩みを抱えているケースも少なくありません。そうした際に、変革の起爆剤としてDE&Iに取り組むのも一つの方法でしょう。

私はDE&Iの最大のメリットを「同質性リスクの排除につながること」だと考えています。似たようなバックグラウンドや思考法を持つ人々が組織を形成すると「集団浅慮*3」が発生し、企業における重大なリスクになる可能性があります。企業や行政組織における不祥事をたびたび目にしますが、そのなかには集団浅慮に端を発しているものが珍しくありません。こうした取り返しのつかないミスを避けるためにも、組織の同質性を解消し、多様性を確保する必要があります。

では具体的に企業は何をすればよいのかというと、明確な目的のもと、DE&Iの推進にかなう施策を実施していくべきです。ただ多様な働き方ができるよう環境を整備したり、制度を設けたりするだけでは不十分だといえます。

例えば、近年はテレワークが急速に一般化しましたが、テレワークに必要な技術は以前から存在していました。また、育休制度も多くの企業が取り入れていますが、その制度の利用率には性別により大きな差があります。女性では制度が普及した2007年頃から現在まで80〜90%、男性は2018年まで10%に満たず、2022年にやっと24.2%まで上昇しました*4

なぜこうしたことが起こるのでしょうか。それは、環境整備や制度の目的が見失われ、形骸化していたからです。「制度はあっても利用できる風土がない」という状態では意味がありません。

DE&Iの推進にかかる施策を効果的に実施していくためには、行動と組織風土を変えること。具体的には、「育児は女性のもの」などの無意識の偏見を取り除くアンコンシャスバイアス研修など、DE&I推進に向けた社内教育を強化していきます。その際のポイントは、意思決定層などの職位の上位者から研修を実施していくことです。意思決定層は社内の意識を変えるうえで重要な役割を果たしますが、その一方で、旧来的な価値観が固定化されていることも少なくありません。そのため、意思決定層を起点にして、取り組みを進めていく必要があります。

また、人事評価の基準を変えることも重要です。先ほども述べた通り、DE&I推進のためには、目の前の課題だけではなく、その後ろにある企業運営の構造にも目を向けなければいけません。例えば、マネージャーとしての評価をする際にも、「どれだけチームの生産性を上げたか」「売り上げに貢献したか」といった基準だけでなく、「チームのワークライフバランスを充実させたか」「どのように部下のキャリア形成を支援したか」といった、生活やライフイベントも視野に入れた基準で成果指標にしていくのです。こうした社内の働き方、風土の変革や評価制度の変更を通じて、DE&Iに資する施策を活性化するのが、今まさに日本企業に求められていることではないでしょうか。

*3 集団浅慮:組織内の同調圧力により、自由に意見が交換できなくなったり、外部環境を過小評価したりする現象のこと。

*4 育休制度の利用率:厚生労働省「令和4年度雇用均等基本調査」事業所調査より。

当時者だけではなく、「制度を利用していない人」への手当ても必要

さらに、DE&Iやジェンダー平等を実現するうえで特に注目しているのが、仕事と生活の両立支援制度を利用していない人の存在です。仮に産休や育休、介護休暇などの施策を推進したとしても、休んでいる人の仕事を「制度を利用していない人」が無条件に吸収していては、不公平感は募るばかりです。

実際に、働く男女300名にアンケート調査を実施したところ、このうちの約3割が「同僚の産休などにより仕事の負担が増加している」、約2割が「不公平感を感じている」と回答しました。さらに驚くべきは、約6割が「今後、産休などの制度を利用する予定はない」と回答していることです。つまり、「お互い様」という価値観のもとで仕事の負担増を受け入れる価値観は薄らいでいるといえます。

今後、企業は「利用していない人」への手当ても考えるべきでしょう。例えば、ある住宅メーカーは、育休取得者の業務を引き継ぐ従業員に対して10万円を支給するなどの施策を実施しています。このように、仕事の負担増に対して賃金や評価などで対価を渡すような動きが少しずつ見られるようになりました。

いずれにせよ、DE&I推進の行く末は「いかに従業員の多様性を尊重し、柔軟な働き方を確立するか」にかかっています。多様な人々が集まり、いきいきと働くためには、それを可能にする環境の整備が欠かせません。最近では、前日の終業から翌日の始業まで一定時間以上の休息時間を設けるインターバル規制や、コワーキングスペースなどのサードプレイスを利用した働き方にも注目が集まっています。これらの施策も取り込みながら、自社なりの生産性の高いワークスタイルを実現してはいかがでしょうか。

先日、商業施設を運営する大手企業が公表した資料のなかに、10年以上前と現在の経営戦略会議の風景を比較したページがありました。10年以上前の経営会議は黒のスーツを着た男性ばかりでしたが、現在は多様な年齢・性別の方が会議に参加していて、その対比が非常に印象的でした。その企業は多様性の確保を経営課題であると認識し、さまざまな施策を通じてDE&Iを推進したのでしょう。こうした事例を聞いて不安になった方は、明日からでもDE&Iの推進に動き出すことをお勧めします。

著者プロフィール
  • 田辺 新一
    白河 桃子(しらかわ とうこ)
    相模女子大学大学院 特任教授、昭和女子大学 客員教授
    東京生まれ。私立雙葉学園、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒業。中央大学ビジネススクール戦略経営研究科専門職学位課程修了(MBA 取得)。住友商事、リーマンブラザースなどを経て執筆活動に入る。2008年に中央大学教授の山田昌弘氏と『「婚活」時代』を上梓、婚活ブームの火付け役に。内閣府男女局「男女共同参画会議専門調査会」専門委員、内閣官房「働き方改革実現会議」有識者議員などを務める。働き方改革、女性活躍、ジェンダー、ダイバーシティ経営などをテーマとする。

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