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2024年8月1日

持続可能性ある組織を築くための「アンコンシャスバイアスへの向き合い方」

  • 守屋 智敬
    (一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事
    株式会社モリヤコンサルティング 代表取締役)
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近年、組織における持続可能性やダイバーシティ&インクルージョン推進のための多様性確保などの観点から、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が注目を集めています。誰にでもありうるアンコンシャスバイアスは、企業における組織づくりや個人の働き方などにどのような影響をもたらすのでしょうか。一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所代表理事の守屋智敬さんにお話を伺いました。

アンコンシャスバイアスとは何か

現在、私は一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所の代表理事を務め、企業や官公庁、教育機関などを通して、アンコンシャスバイアスに関する研修プログラムを提供しています。これまで研修プログラムの受講者数は10万人以上、当研究所が養成した認定トレーナーは200人以上にのぼります。また2022年には、がんとともに働くことを応援するための共同研究「がんと仕事に関する意識調査」では、アンコンシャスバイアスやその影響を浮き彫りとした報告書を発表し、ビジネスや教育にとどまらない多角的な視点で啓発活動に取り組んでいます。

アンコンシャスバイアスとは「無意識の思い込み」のことです。これは、過去の経験や見聞きしてきたことなどの影響を受けて、何かをみたり、聞いたりしたときに、無意識にこうだと思い込むものです。代表的なアンコンシャスバイアスを挙げると、ある属性に対する先入観や固定観念で「この属性の人はみんなそうだ」と思い込むことや、周りが変化していたり危機的な状況に陥っていたりしても、自分は大丈夫だと思い込むものなどがあります。

私がアンコンシャスバイアスに関心を持ったのは、以前勤めていたコンサルティング会社で管理職向けのリーダーシップ研修に関わったのがきっかけでした。そのなかで、多くの管理職たちがある共通した悩みを抱えていることを知ります。

それは「思ったように部下が動いてくれない」というものです。このほか、「思ったようにチームの成果が出ない」「思ったように評価されない」といった悩みもありました。これらに共通しているのは「思ったように」という言葉です。自分が無意識に思い込んでいる“理想像”に捉われているために、現実とのギャップに苦しむことがあることにも気づきました。

そうしたなかで、私は2012年頃から「無意識の捉われ」をテーマにした研修を手がけるようになります。2013年に米国のIT企業が社内研修に取り入れたことがきっかけで、「アンコンシャスバイアス」という言葉が広く世界に認知されるようになってからは、アンコンシャスバイアスに気づくことへの啓発活動にさらに注力したいと思うにいたり、2018年に当研究所を立ち上げました。

アンコンシャスバイアスに気づく必要性

現在、組織における持続可能性や多様性の確保が求められるなかで、アンコンシャスバイアスへの取り組みは不可欠なものになりました。なぜなら、アンコンシャスバイアスは組織内のあらゆる領域でネガティブな影響をもたらす可能性があるからです。

その一例が、人権侵害やハラスメントです。近年、経営層の発言や働く場でのコミュニケーション、SNSアカウントでの発信などが人権侵害と指摘され、多くの非難を浴びる事例が増えています。アンコンシャスバイアスに基づく判断や行動は、ときに誰かを傷付けたり、不祥事に繋がったりするおそれがあるのです。アンコンシャスバイアスは誰にでもありうるものであるため、企業のガバナンスを強化し、健全な企業活動を営んでいくうえで、組織の一人ひとりがアンコンシャスバイアスに向き合うことが必要です。

また、アンコンシャスバイアスは、イノベーションや組織変革などを阻害する要因にもなりえます。イノベーションや組織変革の原動力のひとつは多様性です。多様な経験やスキルを持ったメンバーが対話しながらアイデアを生み出していくことで、新たな事業やイノベーションが生まれる可能性があるからです。逆に、経営層や管理職が過去の経験などに捉われていると、新たなアイデアや異なる視点を知らず知らずのうちに排除してしまう可能性があります。イノベーションを創発し、持続可能性のある組織を作っていくためにも、自分の中にあるアンコンシャスバイアスに気づくことが大切になります。

そして、アンコンシャスバイアスは完全には解消できないという点にも注意が必要です。なぜなら、アンコンシャスバイアスの正体は「自己防衛心」だからです。つまり、とっさに身を守ろうとすることや、効率的にものごとを理解しようとする本能によるものです。しかし、それは自分にとってその場では都合が良いように思えても、相手や周りにネガティブな影響をもたらしたり、未来に対してネガティブな影響をもたらすことにもなります。

だからこそ、まずは自らの無意識の思い込みを自覚することが大事です。アンコンシャスバイアスに気づくことで、多角的な視点をもつことになり、他者理解や自分の可能性をひらく第一歩につながると思います。

アンコンシャスバイアスを「日常」に落とし込むような施策展開を

ここ数年、企業におけるアンコンシャスバイアスへの取り組みが急速に広がっています。私たちにも以前よりも幅広い業種の企業から研修の依頼がありますし、受講される方の役職やレイヤーも広がりました。例えば、ある大手メーカーでは、国内約6万人の全従業員に対してアンコンシャスバイアス研修を受けてもらうための施策を展開しています。役職を限定するのではなく、経営層含めた全員社員に研修を実施する企業が増えてきています。

また働く環境の変化もあり、オンラインで研修を受ける企業が増えました。オンラインはより場所を問わず受講できるだけでなく、人目を気にせず内省できる受講環境がつくれるという利点もあります。

こうした変化の背景には、アンコンシャスバイアスに気づかないことによる様々な弊害が広く認識されるようになったことがあると思います。例えば、多くの社員が上司に対して「この人には何を提案しても承認されないだろう」と思い込んでいたら、新規事業や新たな施策が生まれなくなるかもしれません。また、営業担当者がお客様に対して「こんな提案をしても無駄だろう」という前例に基づく思い込みを持っていると、本来は獲得できたかもしれない案件を取り逃すことにもなります。実際に、研修を受講したある企業では、営業責任者の発案で「お客様へのアンコンシャスバイアスに気づこう」という取り組みを推進した例があり、営業実績の向上によい影響があったそうです。

では、アンコンシャスバイアスに向き合う際には、どのような施策が有効なのでしょうか。研修やワークショップも大切ですが、それと同じく、その後の「習慣化」も大切です。常日頃から「これは自分の思い込みではないか?」と内省し、自らを点検する習慣を身に付けることで、自分のアンコンシャスバイアスに気づき、対処できるようになることがあります。そのため、日常の中で、アンコンシャスバイアスを意識する機会をつくっていくような施策を行うとよいでしょう。

例えば、研修受講後の1週間は「アンコン・メモ」(アンコン=アンコンシャスバイアスの略称)を取ることを推奨しています。いつ・誰に・どのような思い込みがあったのかを手帳や携帯などに記録していき、日常的にアンコンシャスバイアスに向き合う習慣を作ります。ある企業の管理職は、これまで部下からの相談があっても途中で話をさえぎってしまっていたそうですが、自分のなかの「どうせこういう話だろう」という思い込みに気づいて、部下の話をよく聞くようになったそうです。すると、部下が明るい表情で相談に来るようになったそうです。このように自分が持つ思い込みに気づくことで、周囲とのコミュニケーションによい変化が起こる可能性も高まります。

また、社内で「アンコン川柳」を公募してイントラネット上で定期的に公開する企業や、「アンコンかるた」を社員と一緒に制作してアンコンシャスバイアスに気づく機会を増やす取り組みをしている企業もあります。こうした取り組みを通じて「アンコンシャスバイアス」を共通言語にし、みんなで気づこうとする風土づくりも大切です。

そして、啓発活動を進めるうえで忘れてはいけないのは「アンコンシャスバイアスを人を責める道具にしない」ということです。なぜなら、「あなたに、こういうアンコンシャスバイアスがある」と思うこと自体が、思い込みである可能性があるからです。実例があります。男性と女性の部下を持つ上司が、新規案件のリーダーに男性社員を指名しました。このとき女性社員はリーダーをやりたいと思っていたので「私は女性だから任されなかったのだ」と思いました。しかし理由を確認してみると、この案件の起案者が男性社員だったから指名されたのだそうです。もし女性社員がその上司に「女性だから任せないのは、あなたのアンコンシャスバイアスでしょう」と、その上司を責めるようなことをしていたら、逆にチームの関係性が悪化していたかもしれません。

アンコンシャスバイアスはあくまでも「自分で気づく」「自分で気づこうとする」ことが大切です。企業で取り組む際には、「これって、私のアンコンシャスバイアス?」を合言葉にしながら、対話を通じて相互に思い込みに気付き合えるような環境を作ることが大切です。

アンコンシャスバイアスへの取り組みが、より強靱な組織づくりを可能にする

昨今、持続可能性の高い組織への変革が企業の課題に挙がるようになりました。この「持続可能が高い」とは、「さまざまな環境変化に対応できるケイパビリティを備えている」ということだと思います。その意味では、組織内の多様性の確保を促すアンコンシャスバイアスへの取り組みは、持続可能性の高い組織を作るうえで欠かせないといえるでしょう。不確実性が高まるVUCAの時代、ぜひ多くの企業にアンコンシャスバイアスに気づくことで新たな可能性を生み出す取り組みを推進してほしいです。

一方、アンコンシャスバイアスの取り組みは定量的な成果として捉えにくい面があります。ただし最近では、人的資本などの非財務情報の開示が拡充されつつありますので、従業員エンゲイジメントや、性別・年齢等の属性にとらわれないリーダー候補者数の増加などの定量的な指標によって、取り組みの成果が可視化されていくことも増えていくのではないでしょうか。また、「組織内のコミュニケーションが円滑になった」「経営層に新たな提案をしやすくなった」といった、定性的な成果に目を向けるのも重要でしょう。

アンコンシャスバイアスの自覚に起因する変化は数字では表しにくいものの、組織内の一人ひとりに影響を与えていることは確かです。組織を構成しているのは「人」に他なりませんから、一人ひとりの判断や行動が変われば、組織においても変革をもたらすようになると考えています。アンコンシャスバイアスへの取り組みを起点に、より変化に対応できる強靱な組織を作ってはいかがでしょうか。

著者プロフィール
  • 守屋 智敬
    守屋 智敬(もりや ともたか)
    一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所 代表理事
    株式会社モリヤコンサルティング 代表取締役
    1970年大阪府生まれ。神戸大学大学院修士課程修了後、都市計画事務所、コンサルティング会社を経て、2015年に株式会社モリヤコンサルティングを設立。管理職や経営層を中心に8万人以上のリーダー育成に携わる。2018年に一般社団法人アンコンシャスバイアス研究所を設立、代表理事に就任。2021年より、小・中学校でのアンコンシャスバイアス授業をスタート。2022年には、がんと共に働くを応援するための共同研究「がんと仕事に関する意識調査」報告書を発表。様々な角度・視点から「アンコンシャスバイアスに気づこうとすることの大切さ」をお届けしている。著書に『「アンコンシャス・バイアス」マネジメント』『シンプルだけれど重要なリーダーの仕事』(かんき出版)、『導く力』(KADOKAWA)など。

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