建物を建てる際に発生する、土地取得から解体までの生涯にかかる費用、いわゆる「ライフサイクルコスト」を最適化するにはどうしたらよいのでしょうか。その鍵を握るのがランニングコストです。建物の完成後に発生するランニングコストとは何か、その中で重要な維持管理費に関するリスクや計画の立て方などとともに解説します。
ライフサイクルコストのほとんどは建物完成後に発生する
ライフサイクルコストは、「イニシャルコスト」と「ランニングコスト」に分けて考えることができます。イニシャルコストは、建物を建てる際にかかる土地の取得や設計、建設などの費用。それに対して、ランニングコストは完成後の運営や維持管理にかかる費用です。
オフィスビルや工場から民間のマンションに至るまで、建物の建設を計画する時には、どうしてもその建設費をはじめとしたイニシャルコストに目が行きがちです。ただし、土地の取得から解体までの費用全般から見れば、高額な建設費も氷山の一角にすぎません。
建物のライフサイクルコストの約8割は、維持管理費などのランニングコストが占めているともいわれています。建物の各種維持管理業務は、多岐にわたるうえに、建物が完成してから役目を終えるまでその間ずっと発生し続けます。完成した建物には、電気や空調、給排水、エレベーター、防災などに関わる非常に多くの設備があり、機能を維持していくためには、設備の故障対応や運転監視、日常的な点検などの管理業務が欠かせません。さらに、建物によっては清掃や植栽、警備といった業務も必要になります。
維持管理業務の中で、注目したいのが修繕業務です。それには、外壁の修理、雨漏りした箇所の修理、照明器具の交換などさまざまなものがあります。いずれも建物の維持には必要不可欠なものなのですが、劣化や老朽化が想定よりも進んでいない場合には、後回しにされがちな傾向にあります。
修繕業務を決して後回しにしてはいけない理由
例えば、鉄筋コンクリートの建物の耐用年数については諸説ありますが、法人税法、所得税法に基づく「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」の規定では47年とされています。ただし、これはあくまでも税法上の規定であり、建物ごとに劣化の速さも違うので、一律に考えるのは危険です。おろそかにすれば、建物の運営や維持管理に大きなリスクを背負うことになってしまいます。
建物の劣化、老朽化が進めば、建物の破損によってテナントや居住者へ危険が及ぶ恐れがあります。また、劣化した執務環境が従業員のモチベーションや集中力を奪い、オフィスでの知的生産性を阻害することも考えられます。さらには、オフィスビルやマンションの場合は不動産収益や資産価値の減少につながる可能性があります。
こうした事態が起きれば、その対応に多額の費用がかかり、思わぬ出費を強いられることになります。それによって、ライフサイクルコスト全体が大幅に跳ね上がってしまいます。こうした事態は避けるべきです。
そのために重要なのが中長期整備計画の策定です。建物の劣化を前提に日頃から維持管理業務を行うことで、安定した建物運営や維持管理が可能になり、ランニングコストの抑制につながります。
ライフサイクルコストを最適化する中長期整備計画とは
最適な維持管理業務に取り組むためには、まず「中長期整備計画」を策定することです。長期的な展望に立って修繕業務の時期や工事の内容、費用などを前もって検討します。
その中長期整備計画にもとづいて、早い段階から余裕をもって準備を進め、必要な費用を確保します。また、テナントの合意や関係者間の調整なども必要になります。その上で、時期が来たら万全の体制で工事を実施します。
ただし、建物は立地条件・周辺環境などにより、劣化状況に違いが生じることがあります。中長期整備計画を立てても、実際はその計画通りに行かない場合もあるのです。
劣化が進めば修繕業務などが必要になり、その分ライフサイクルコストが増えてしまいます。法定点検以外にも日常的に点検を行うことで、建物の状態把握や劣化の早期発見に努め、適切なタイミングを見極めることも大切です。そのためには、中長期整備計画に従って、定期点検の費用を確保しておくことも欠かせません。
このように、万全な体制を整備し、適切な維持管理業務を行うことで、建物の寿命を延ばすことが可能になります。また、建物の資産価値も維持し、総合的なコスト削減へ貢献します。意外に軽視されがちなライフサイクルコストの最適化ですが、この機会にじっくりと考えてみてはいかがでしょうか。
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