日本では、人口減少、高齢化といった課題が深刻化し、都市に押し寄せています。さらに、訪日外国人への対応、医療費の削減、教育の高度化、頻発する災害対応など、対応すべき課題が複合化する様相も見えており、従来型の街づくりが限界を迎えようとしています。
今、ICTの進展とともに、世界的な流れとなりつつあるのがビッグデータを活用したソフト面での街づくりです。日本では、政府主導の「データ利活用型スマートシティ」という取り組みが始まっています。果たして、ビッグデータを活用した街づくりとはどのようなものなのでしょうか。今回は、データ利活用型スマートシティという新たな潮流を紹介します。
Society 5.0時代のスマートシティが描く未来
データ利活用型スマートシティとは、ICTによって収集したビッグデータを活用し、地域住民の生活の質、いわゆる「QoL(クオリティ オブ ライフ)」を高め、都市の抱えるさまざまな課題の解決につなげようという街づくりの新たなコンセプトです。
日本では総人口の減少がはじまっており、人口の増加を要因とした従来のような経済発展は望めなくなっており、深刻な課題となっています。それに対し、政府はIoTやAIなどデジタル技術の力によって新たな価値を生み出す、これからの社会像「Society 5.0」を提唱しています。
データ利活用型スマートシティは、Society 5.0時代の都市ともいえます。IoTやAIによってデータの活用を推進し、質の高いサービスを都市に暮らす人々に提供することでQoLや生産性を高め、都市の活力を維持・創出しようという狙いがあります。
世界の先進的な都市では、ビッグデータを積極的に活用した事例が数多く見られます。例えば、イギリスのブリストルでは、スマートフォンや車載GPSなどから、交通、エネルギー、空気の状態など都市生活のあらゆるデータを収集し、渋滞緩和、大気汚染対策、エンターテインメントなどに貢献する幅広いサービスに活用しています。
日本では、2012年頃からビッグデータを活用した街づくりが本格的に始まりました。当初の取り組みは、教育の再生や健康情報の一元化など単一分野の課題解決を目指すものばかりでした。その後、より高度なICTの活用により、都市が抱える複数分野の課題解決に取り組むため、2017年に総務省が「データ利活用型スマートシティ推進事業」を開始。データ利活用型スマートシティの実現に向け、これまでに13の地域で実証事業が行われています。
都市OSはデータ利活用型スマートシティの心臓部
データ利活用型スマートシティの特徴は、現代の都市が抱える課題を複合的に解決する点にあります。そこで重要になるのが、データの連携です。
これまでの街づくりでは、前述の通り単一分野の課題解決を目的としていたため、蓄積したデータを他分野に転用することが困難でした。また、データベースも当事者の自治体以外のアクセスを想定していないケースが多く、横展開もしづらい状況にありました。
一方、データ利活用型スマートシティは、他の自治体や企業、教育機関などとデータを共有することを前提にしています。蓄積したデータの連携により情報のエコシステムを形成してイノベーションを創出し、複数の分野にわたる課題を解決しようというのです。また、自治体間でのデータ共有には、投資コストを抑えながら市民サービスの質の向上を図ろうという狙いもあります。
データを連携する上で重要な役割を担うのが、「都市OS」と呼ばれるプラットフォームです。都市OSは、地域内のさまざまなデータを集約するとともに、企業や大学などに提供する機能を持ちます。データ利活用型スマートシティにおいて、都市に活力をもたらすデータを血に例えるとすると、それを循環させる都市OSは心臓に当たるといえます。
現在、世界各国がしのぎを削って都市OSの開発を進めており、日本ではデータ利活用型スマートシティ推進事業などの中で実証事業が行われているところです。
各地で増える取り組みに民間企業も参戦
各自治体が行っているデータ利活用型スマートシティの取り組みは、それぞれどのようなものなのでしょうか。主な例を紹介します。
政府の実証事業に取り組むある市では、データの登録、蓄積・管理、提供を行うプラットフォームを構築。そこでは、地域の人口グラフと年代・男女別のヒートマップを一覧できる地図や、地下鉄と人々の流れを可視化したグラフなど、さまざまなデータをダッシュボード上から閲覧することができるようになっています。
またある市では、属性情報や住民ニーズなどの各種データを解析・可視化し、課題の発見と解決を行うプラットフォームを構築。そこで得られた知見やデータをもとに、住民参加型ワークショップを開催。また、プラットフォームを他自治体へも展開するといった動きもみせています。
政府や自治体主導のプロジェクトだけでなく、民間でも同様の取り組みが登場しています。ある自動車メーカーと通信事業者がタッグを組み、プラットフォームを構築した上で、スマートシティの実現に取り組むと発表。自動運転なども視野に入れた街づくりに乗り出すようです。
このように、官民でデータ利活用型スマートシティの実現に向けた取り組みが盛り上がりつつあります。実現されれば、都市の課題解決が前進するだけでなく、地域に眠るデータにアクセスできるようになることで、新たなビジネスチャンスも生まれるものと考えられるため、期待がふくらみます。
データ利活用型スマートシティの進展のカギを握るのが、その心臓部ともいえる「都市OS」です。次回は、都市OSの動向を追いながら、データ利活用型スマートシティの展望について考察します。
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