前回は、お天気キャスターのパイオニア・森田正光氏に、激甚化する異常気象の現状について語ってもらいました。そうした気象の変化に、私たちの行動の1つひとつが大きな影響を与えています。その縮図ともいえるのが、大手町で金曜に雨が多くなるという現象。一体どういうことなのでしょうか。今回は、経済活動と気象の意外な関係、さらに、極端に「ハズレ」が減ったという最新の天気予報事情についても語ってもらいます。
【プロフィール】
森田 正光(もりた まさみつ)
気象予報士。株式会社ウェザーマップ会長。財団法人日本生態系協会理事。1950年愛知県生まれ。当時気象庁の外郭団体だった日本気象協会を経て、41歳(1992年)の時に独立。同年9月、株式会社ウェザーマップを設立し、フリーランスのお天気キャスターとして活動を始める。分かりやすいお天気解説と、親しみやすいキャラクターで、テレビやラジオの天気予報には欠かせない人気者となる。2002年には、気象予報士の養成講座を運営する株式会社クリアを設立。後進の育成にも力を注ぐ。
金曜の大手町に雨が降る理由とは
―― 温暖化に代表されるように、企業活動や人の行動が、気象に大きな影響を与える時代になったように感じます
温暖化のような地球規模の話だけでなく、我々の身近なところでも、社会活動が気象に影響を与えている事例はたくさんあります。
私がまだ大手町にあった(財)気象協会に当時勤務していたころの話です。東京の大手町では、なぜか金曜日に雨が多いことに気づきました。前回お話しした通り、雨のもとになるのは空気中の水蒸気です。しかし、雨は水蒸気だけでは降りません。水蒸気が空気中の小さなゴミやホコリに付着することで、雨や雪になります。ということは、水蒸気の量が同じでも、ゴミやホコリが少なければ雨は降りません。
そこで、私はひらめきました。大手町では月曜日から金曜日にかけて人の活動が活発になる。それによって月曜から徐々にホコリが蓄積されていき、金曜日に雨が降ることが多いのではないか。
その仮説を確かめるために、週休2日制がまだ定着していなかった時代のデータを調べました。すると、予想通り大手町では土曜日が雨のピークとなっていました。些細なことですが、このように人の活動が気象に影響を与えていることは多々あると思います。
自然現象に加え、このような社会活動も影響するため、気象予測はひと筋縄ではいきません。気象予報に身を置いて50年以上になりますが、これはいまでも痛感させられます。
―― 実際に天気予報の的中率というのはどうなっているのでしょうか
今から40年ほど前に、当時人気のクイズ番組で「当たりハズレのあるものといったら?」という問題が出たことがありました。案の定、1位は「天気予報」です(笑)。
それほど、当時の天気予報は、「ハズレる」ものだと思われていた。しかし、その“常識”は、いまや過去の産物といっていいでしょう。天気予報の精度は、コンピュータの進歩によって飛躍的に向上しているのです。
例えば、夕方の予報では明日の天気を占いますが、その的中率は84%ぐらいまで高まっています。この数字も、水蒸気が増えて天気の予想が難しくなる、梅雨どきから夏の季節を除けば、90%以上の数字になるではないでしょうか。
天気予報は「ハズレる」から「アタる」時代に
―― いつごろから、コンピュータの予測が当たるようになったのでしょうか
私がコンピュータ予測を重視するようになったのは、1990年のことです。実はこの年の11月30日に、季節外れの台風28号が紀伊半島に上陸しました。
コンピュータは、この進路を数日前から予測していました。当時11月にもなって台風が日本を通過することは非常に珍しく、私を含めた同業者はみな、「11月も末なのに、台風が上陸するわけはない!」と高をくくっていました。ところが、プロの予測を裏切り、台風はコンピュータの解析通り上陸したのです。本当に驚きましたね。この台風28号は、観測史上もっとも遅く日本に上陸した台風として、今も記録されています。
以来、私は、コンピュータの数値予測と、実際の天気がどうなっているか。その相関性をずっと気にしてきました。
―― コンピュータが発達した今、気象予報士の経験や勘は必要ないということでしょうか
自らを否定するようで、心苦しいのですが(笑)、天気の予測という意味では、その通りです。予報士が予測に立ち入る余地は、もはやほとんどありません。その意味では、現在の気象予報士にまず求められる能力は、コンピュータの数値予測を正確に読み取る力だといえるでしょう。
私が気象協会に入った50年前は、経験や勘がほぼすべてでした。「冬型気圧配置で、低気圧が八丈島より南側を通過すると関東地方は雪、北側を通過すると雨になる」、「日本列島に等圧線が5本かかっていれば、明日は10メートル以上の風が吹く」といった、経験から導かれた予報術を、当時は先輩からよく教えられたものです。
しかし、これはその可能性が高いということで、そうならない時も当然あります。ウソと言っては言い過ぎですが、真実ではありません。ただ、天気を分かりやすく解説するという、気象予報士のもう1つの大きな役割においては、これらの経験則は非常に役立っています。
【第3回】は最終回です。異常気象にどう備えればいいのか、危機管理の観点からお話をうかがいます。
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