これまで都市に集中していた人や経済活動、情報の流れを地域が受け持つようになる「分散型社会」。その進展は、リモートワークやMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を普及させ、ビジネス構造そのものを変革する可能性があります。分散型社会を実現するには、距離は離れながらもICTを活用してコミュニケーションを取りながら、新しい価値を創出していくことが求められます。今回は、それらを支えるデータインフラなどの動向をもとに、分散型社会について考察します。
新しい生活様式と経済発展の両立は可能なのか
分散型社会を実現するためには、デジタルサービスの活用を前提にした新しい生活様式と経済発展の両立が必要になります。
現在、新型コロナウイルスが猛威を振るう中で、生活やビジネスにおいて人や物の移動が大幅に制限されています。これに伴い、生産活動や消費活動に支障が出ており、日本経済は大きな影響を受けています。2020年の4月から6月にかけては、GDP(国内総生産)の実質年率がマイナス28.8%という戦後最悪の落ち込みを記録しました。
非常に厳しい状況ながら、これに適応しようとするさまざまな変化が現れています。従来、企業の営業活動は対面で行われていましたが、オンラインによるコミュニケーションが大きく増加。現在では約75%の企業で遠隔・オンラインでの営業活動を実施しているという調査結果もあります。
さらに、感染予防によるフィジカルディスタンスの意識が根付いたことによって、アフターコロナの時代は、新しい生活様式の習慣の一部として、オンラインでのコミュニケーションが主流になるという見立てもあります。オンライン化の浸透が、デジタルの力でビジネスを変革する「デジタルトランスフォーメーション」の契機となれば、新しい生活様式と経済発展の両立による分散型社会の実現も近づきそうです。
民間と行政の好循環に期待
2020年には、テレワークの普及が一気に進みました。テレワークを導入している企業の割合は、同年3月は28.8%でしたが、4月には53.3%にまで急拡大しています(2020年4月に緊急事態宣言が出た7都府県を対象にした調査による)。別の調査でテレワークの体験者にアンケートをしたところ、78.6%が「コロナ収束後もテレワークを続けたい」と回答しています。
こういった傾向を受けて最近では、オンラインワークスペースといった、対面しなくても円滑なコミュニケーションを可能にする新たなサービスが登場するなど、働き方の多様化が進んでいます。
消費も大きく変化しています。ある調査では、2020年4~7月のオンラインショッピング利用率は78.4%となりました。約3人に1人の割合となる35.6%が、「2019年と比べてオンラインショッピングの利用が増えた」と回答。また、定額制動画配信サービスの利用率が前年比30.3%増を記録したという調査結果もあります。
民間の変化を受け、行政も大きく変わろうとしています。政府は、省庁のデジタル化を推進するためにデジタル庁を新設すると明言しているほか、行政手続における「認印の押印」を全廃すると発表するなど、大胆な施策を打ち出しています。こうした行政のデジタル化は、分散型社会の実現を考える上で望ましいものです。
大量のデータを処理するインフラの整備が、分散型社会実現を後押し
分散型社会ではオンラインで各種のデータをやり取りするため、膨大なデータトラフィックが生まれます。そのため、ネットワークとデータセンターといったインフラの整備が欠かせません。
ネットワークについては、すでに光回線の普及が進んでいるほか、2020年3月には5Gの商用サービスも始まっており、高速かつ多数のデータをやり取りできる通信環境が整備されつつあります。今後、5Gが本格的に整備されると、乗用車の自動運転やICT技術を利用したネット家電の普及、工場でのセンサー機器のIoT化などを後押しし、さらに膨大なデータトラフィックが発生すると考えられています。これに伴い政府は、地域のネットワークを整備するために、「ICTインフラ地域展開マスタープラン2.0」を策定。5Gの基地局などをはじめとするデータインフラへの投資を促進しています。
こうした企業活動や家庭生活でやり取りされるデータは、データセンターで収集・処理されることになります。データトラフィックの増大に対応するため、データセンターでは、サーバーの高性能化やメガデータセンターに代表される大規模化が進んでいます。
分散型社会は、それにふさわしいネットワークやデータセンターといったインフラを土台に構築されるものです。今後、5Gの普及やデータセンターの進展とともに、データインフラを利用する多種多様なデジタルサービスが登場すると考えられます。それらを上手に活用することが、企業活動や家庭生活に新たな付加価値をもたらし、分散型社会を実現する原動力となるのではないでしょうか。
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