パリ協定の採択や建築物省エネ法の施行を背景に、建物の「環境性能」に対する社会的な要請が高まっています。そうした中で、環境性能を評価する制度が普及。こうした環境性能評価制度では、「節水」が重要な評価項目の1つとなっています。そんな節水の鍵を握るのが「トイレ」。近年、トイレとIoTを組み合わせ、環境性能と経済性を両立したサービスも登場しています。
建物の環境性能を高め、不動産の資産価値向上につながるトイレの節水術を紹介します。
建物の環境性能が求められる時代に
建物の環境性能が重視されるようになった背景には、2015(平成27)年12月に採択された「パリ協定」の存在があります。温室効果ガスの具体的な削減目標を定めたパリ協定を受けて、政府は、建築物の低炭素化に向けた取り組みを重点事項と位置付けました。
その取り組みの1つとして、2015(平成27)年7月に、政府は「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)」を公布しました。
これは、2000平方m以上の建築物(住宅を除く)を新築する際に、エネルギー消費性能基準に適合することを義務化するなどの内容で、こうした取り組みを通して、環境性能が高い建物の供給を推進しようとしています。2017(平成29)年4月1日には、建築物省エネ法への適合義務が施行されました。「これにより、新たに2,000平方m以上の住宅用途以外の建築物を新築する場合は、同法の省エネ基準を満たす必要が出てきました。
政府の動きを受けて、建築主、テナント、ディベロッパー、投資家といった建物関係者の環境性能に対する関心も高まっています。そうした状況のもと、関係者が理解しやすいように建物の環境性能を「見える化」するために、さまざまな評価制度が普及しつつあります。
そうした制度の中で、いま注目を集めているのが、米国グリーンビルディング協会が開発・運用を行っている「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)」です。同制度では、環境に関する59の項目から評価し、「ゴールド」「プラチナ」といった、わかりやすい格付けが行われます。
また、「GRESB(Global Real Estate Sustainability Benchmark)」も、近年存在感を増している評価制度です。環境サステナビリティー(持続可能性)の取り組みについて評価するもので、投資家が投資先の選定などに役立てています。
LEEDとGRESBでは、“節水”が環境性能を評価するための項目としてあげられています。そのため、不動産の資産価値を考える上で、節水の対策は欠かせません。しかし、日本では取り組む企業が意外と少ないのが現状です。
上昇する水道利用料、節水は喫緊の課題に
多くの企業が光熱費のコスト削減に取り組んでいます。しかし、これまで光熱の部分に比べると、節水に関する取り組みは進んでこなかったといいます。なぜでしょうか。
その原因の一端を示す調査結果があります。内閣府が実施した「節水に関する特別世論調査」の結果から、節水機器を設置している企業は4割未満で、6割の企業が設置していなかったことが明らかになっています。設置しない理由には、「設置費用と比較して、水道利用料が安くなることが期待できない」という回答が、最も多く挙げられていました。
水道料金には地域差があり、これまで低めに設定された地域では、費用対効果の面から節水機器を導入するメリットが見出せなかったのは事実でしょう。しかし、人口減少時代に入り負担者が減りつつある中で、水道料金は全国的に上昇することが予想されています。
NPO法人の日本水フォーラムなどが発表した「人口減少時代の水道料金 全国推計」では、調査対象とした1221事業体の内98%で、2040年度までに水道料金の値上げが必要になり、その約半数で30%以上の料金改定が必要と推計。中には、現状と比べて200%近い値上げが予想される地域もありました。
不動産の資産価値といった面だけでなく、水道料金の上昇に対応するためにも、節水は企業が取り組むべき喫緊の課題といえるでしょう。
節水を促進する“トイレ+IoT”
今後、企業が節水対策を進める上で注目したいのが“トイレの節水”です。ある調査によると、オフィスの水道料金のうち、トイレの洗浄水が占める割合は60~70%にも上るといい、コスト削減という面からも取り組み意義があるといえます。
近年では、あらゆる物がインターネットにつながり、情報を交換する技術「IoT」を活用したトイレの節水サービスも登場しています。
IoTを活用することで、たとえばトイレに取り付けたセンサから、利用人数や利用回数、水量といったデータを取得し、洗浄水量を最適化することができます。定量的な削減効果をデータとして「見える化」することで、LEEDやGRESBなどの環境性能評価における高評価の獲得につなげることも可能です。
また、商業施設や病院といった不特定多数が出入りする施設では、取得したデータから、長時間滞在や倒れ込みを検知し、安全や安心に役立てるといったことも考えられます。イベントなどの会場となるような施設では、トイレの利用人数を毎日レポートしてもらい、マーケティングデータとして活用する事例もあるようです。
こうした節水サービスには、トイレに関わる設備を更新する必要がなく、既存のトイレにセンサを後付するだけで導入でき、イニシャルコストがかからないというものも登場しています。IoTによって、企業は無理なく建物の環境性能向上やコスト削減に取り組むことができる時代がきたといえるでしょう。
投資家やテナントの関心を集めるために、建物の環境性能の向上がますます重要になっています。節水について、“トイレ+IoT”のように、初期投資を必要とせず、すぐに効果を実感できるような節水対策から考えてみるのはいかがでしょうか。
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