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ビジネスに応用したい「トリアージ」という考え方

2022年3月2日

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 もともとは医療用語だった「トリアージ」。災害時などに多数の傷病者が出た場合、治療や処置の優先順位をつけ、分類することを意味します。近年ではビジネスやマーケティング用語としても使用されるようになってきました。企業にとって重要な意味を持つとされるトリアージについて解説します。

医療現場で優先順位をつけるトリアージ

 2011年3月11日に発生した東日本大震災から11年を迎えようとしています。復興が進む一方で依然として被害の影響は大きく、また、今後もさまざまな災害が予想されています。防災意識を高めて減災につなげるためには、日々の着実な取り組みが求められます。

 東日本大震災の発生当時、よく耳にしたのが「トリアージ」という言葉です。大事故や災害の医療現場では、医師や設備のキャパシティを大きく上回る、多数の傷病者が出ることがあります。その場合に、ケガや病気の重症度、緊急性によって分類を行い、治療や処置の優先順位を決める必要があります。これをトリアージといいます。

 混乱を極めた災害の現場では、すべての傷病者に最善の救急医療を提供することが物理的に困難となります。1人でも多くの傷病者へ治療を行うためには、限られた医療資源を適切に配分しなくてはなりません。このため、トリアージという考え方で優先する治療や搬送の順位を決めます。人命に関わる重大な内容なため、迅速に、しかも繊細な判断が必要になります。

 もともとトリアージはフランス語で、コーヒー豆やブドウ、羊毛などを基準に従って選別することをいいました。それがナポレオン戦争時代に、戦力の減少を避けるため「傷病兵の選別」の意味で使われるようになり、その後今日のような使い方をされるようになりました。

 この言葉が、最近になって再び大きな注目を集めるようになっています。きっかけは新型コロナウイルス感染症への対応です。陽性患者が急増して病床がひっ迫、場所によっては医療崩壊のような状況に直面しました。そのような中、限られた数の医療資源をどう配分するかという問題が起こり、トリアージの提案がなされました。

トリアージ方法とビジネスへの応用

 トリアージは主に「START法」と呼ばれる方法で行われます。STARTとは、「Simple Triage and Rapid Treatment」の略で、「歩けるかどうか」「呼吸の有無」「呼吸数」「脈拍」「自発呼吸の有無」などの条件から、フローチャートで患者を区分I(赤)、区分II(黄)、区分III(緑)、区分0(黒)の4区分に分類していきます。

 災害発生現場では、色分けされた札(トリアージタグ)を患者に付けて見分けが付くようにします。また、患者の容体は時間が経つにつれて変わるため、トリアージは1回だけでなく複数回行われます。

 また、比較的医療資源が充実している病院では、体温や血圧などの指標を用いた、より精度の高い「PAT法」と呼ばれる手法で患者を分類します。災害発生現場と病院、どちらの場合も患者一人一人をじっくり診察している時間はありません。判断にかけられる時間は、患者1人当たり1~2分程度になり、正確かつ迅速に判断する必要があるため、日ごろの訓練がとても重要になってきます。

 医療用語として使われてきたトリアージですが、近年では意外な世界で活用されるようになっています。それは、ビジネスやマーケティングの世界です。たとえば、セキュリティインシデントが発生した場合に、対応すべきさまざまな要因のうち何から着手するか、優先順位をつける必要性が生まれます。そうした際にトリアージの考え方を応用することができます。

企業でも活用されるトリアージの考え方

 インターネットの不正アクセス被害に対応するため設立された「JPCERTコーディネーションセンター」(JPCERT/CC)という情報提供機関があります。特定の政府機関や企業からは独立した中立の立場で、セキュリティインシデントの対応支援を行っています。

 一般的なセキュリティインシデントの対応は、事前に発生する可能性のある事故・事象を可能な範囲でリストアップし、それぞれについて対応マニュアルを用意することが求められます。JPCERT/CCでは、そのマニュアル作りの参考となる、「インシデントハンドリングマニュアル」を公開しています。

 「インシデントハンドリングマニュアル」では、インシデントへの対応の優先順位付けを「トリアージ」と呼んでいます。医療現場と同様に、企業内の人的、設備的な資源には限りがあり、すべての事象について一度に対応するのは困難です。そこで、あらかじめ「守るべきものは何か」といった基本的な活動ポリシーに沿って、判断基準を明確に定め、それに従って対応します。

 セキュリティインシデント以外に、近年、企業のマーケティング活動においても、トリアージの考え方を活用する例が出てきています。これまでのマーケティング活動によって達成すべき目標は、多くの場合、売上や市場シェアでしたが、これらに加えて社会的な責任を果たすCSR活動や、脱炭素化をはじめとする環境貢献などの要素が加わっています。

 そこでは、「限られた資源をいかに有効に配分して、最大限の効果を上げるか」という視点でマーケティング活動全体を見直すことが行われています。達成すべき目標の優先順位付けを行い、迅速かつ繊細な判断を下すためには、事前にマーケティング活動の根幹となる企業のビジョンを明確にしておく必要があります。

 トリアージの最も重要な目的は、優先順の高い「実施しなければならないこと」に能力や人員、時間などのリソースを割けるようにすることです。もしも、リソースに限界がある場合には、優先順位としては下がる「実施すべきこと」のいくつかをあきらめるという決断も必要となってくるでしょう。

 このように、地震などの大規模災害以外のセキュリティインシデントやマーケティング活動などにもトリアージの考え方は応用できます。対応フローや、取捨選択の判断基準を事前に決めておき、トリアージの考え方をもとに検討を進めることで、もしもの場合にも適切な対応が取れるようになるのではないでしょうか。

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