オフィスビルは、建物内の機能、そして、快適性を維持するために大量のエネルギーを必要としており、その省エネ化は容易なことではありません。
2016年に地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が発効され、世界で省エネに対する取り組みが加速する中で、多くのエネルギーを消費するオフィスビルのあり方が問われています。そうした企業の課題を解決するため、オフィスビルは、年間一次エネルギー消費量をゼロにし、コスト削減にもつながる「ZEB」を前提とした「スマートビルディング」へと進化することが期待されています。
スマートビルディングが求められる背景と、その実現の鍵を握るZEBが果たす役割と効果について紹介します。
パリ協定後の省エネへの要求に応えるビルとは
「パリ協定」の発効後、日本では建物の省エネ化に向けた取り組みが、官民をあげて進められています。
2017年4月には、「建築物省エネ法」が完全施行され、床面積2,000平方メートル以上のビルに対して、空調や照明といった設備の一次エネルギー消費量や、外皮の省エネ性能などに関する基準が義務化されました。
さらに、パリ協定以前から、建物の総合的な環境評価を行う「CASBEE(キャスビー)」や、建築の一次エネルギー消費の性能を表示する「BELS(ベルス)」といった制度が運用されていました。発効後はこれらの制度の注目度も高まっております、積極的に取得を目指す企業が増えています。
こうした流れを受け、企業にとってビルの「省エネ」は、努力目標ではなく、達成すべき目標となりつつあるのです。
これらの課題を解決する手段として、注目を集めるようになったのが「スマートビルディング」です。スマートビルディングとは、ICTを活用してビル全体の省エネと快適性の両立を実現したビルのこと。省エネ性能だけでなく、知的生産性にも良い影響を与えます。
2030年のスタンダードはエネルギー消費量ゼロ
スマートビルディングを実現する上で、カギを握るといわれるのがZEB(ネット・ゼロ・エネルギービル)です。
ZEBとは、省エネや再生エネルギーの活用などを通じて、年間の一次エネルギー消費量を正味(ネット)でゼロ、またはおおむねゼロにしたビルを指します。
具体的には、快適な生活環境を保ちながら、高断熱、自然換気といった空調システム、昼光を活用した照明システムといった自然エネルギーの利用と、照明や換気、空調、給湯などの設備システムを高効率化することで省エネに取り組みます。
その上で、太陽光発電などによって生産した分、いわゆる創エネした分のエネルギーで、消費した分のエネルギーを埋め合わせ、一次エネルギーの消費量をゼロにするのです。
2014年4月に閣議決定された「エネルギー基本計画」では、「2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均で、ZEBを実現することを目指す」ことが示されています。ZEBは、これからの建築物のスタンダードとなりそうな存在です。
ZEBの第一歩は50%以上の省エネ実現から
ZEBを実現するためには、いくつかの段階があります。
ZEB設計ガイドラインでは、まずは「ZEB Ready」に取り掛かることが推奨されています。
「ZEB Ready」を実現するポイントは、自然換気、日射遮断、高断熱、昼光利用などによって建物への負荷を抑制し、自然の力を活用することです。それに加えて、照明や空調、給湯などさまざまな設備システムの高効率化に取り組み、50%以上の省エネを実現します。そして、太陽光発電のスペースを確保するなど再生可能エネルギー活用の基盤づくりも行います。
ZEBの構築では、建築物の各設備や機器でどのようにエネルギーが消費されているのかを把握し、最適な制御を行うためのエネルギーマネジメントといった技術も重要な役割を果たしています。
こうしたビルの建設や改築には、多額の費用がかかりますが、その負担を国からの補助金を活用して軽減することもできます。環境省や資源エネルギー庁は、ZEBに関する補助金を設置。環境省の方はシステムや機器の導入が対象になっており、資源エネルギー庁の方はZEBプランナーの関与が条件となっているなど、それぞれ特徴が異なるので自社に合った補助金を活用するとよいでしょう。
社員一人ひとりの働き方も変えるZEBの効果
ZEBはエネルギー消費量を削減するだけでなく、ビルオーナーやテナント企業にさまざまな効果をもたらします。
その1つに不動産価値の向上があります。環境に配慮した建築物を求めるテナントや投資家が増えている中で、環境認証を取得しているビルが、新規成約料金にプラスの影響を与えているという調査結果もあります。
それだけではありません。ZEBは、オフィス環境に、働きやすさ、心身の健康にもやさしさをもたらすという効果もあります。これまでの省エネでは、多少寒くても空調を止める、少々の暗さに我慢して照明を一部消すといったように、快適性とトレードオフとなるような方法も多くとられてきました。しかし、ZEBでは、エネルギーマネジメント技術によって、快適な室内環境を維持しながら、エネルギー運用を最適なかたちで制御することができます。
心地よい室内環境は、スマートビルディングの条件でもある、ウェルネス(心身の健康)にもつながります。オフィス環境内のウェルネスを確保すれば、社員一人ひとりの知的生産性にも良い影響を与えることができるため、近年、実践する企業が増えています。ZEBを前提としたスマートビルディングは、企業の優位性にもつながる技術なのです。
次回は、オフィスのウェルネス化について掘り下げます。ZEBとウェルネスを実現したスマートビルディングが、企業の生産性にどのような影響を与えるのか紹介します。
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