これまで車両等を優先し、デザインされてきたストリート(街路)のあり方を見直そうという機運が国内外で高まっています。人を中心に考えられたストリートは、ウォーカブルなストリートとも形容され、日本各地でも取り組みが始まっています。ストリートの中心を人へと移行する動きは、今なぜ注目されているのでしょうか。ストリートを巡るこの新たな動向と、これからの街づくりのあり方について探ります。
ストリートは"人"中心の時代へ
「ウォーカブルなストリート」とは、"人"中心にデザインされ、居心地が良く、つい歩きたくなる街路のことです。このようなストリートのあり方が注目されるようになった背景には、従来の街づくりに対する反省があります。
もともと「ストリート=道」は、古くから人々が行き交い・出会う、交流の場でした。日本では中世以降、道に市場が並び、劇場が建ち、経済や文化を生み出す場として機能してきました。しかし、その風景は自動車を中心とした交通手段の発達とともに一変しました。
高度経済成長期、公共交通機関の普及に合わせて車道の本格的な整備がはじまりました。今日まで進められてきたのは、この流れを汲んだ、車両等の通行を優先した街づくりです。一方で、街中の車道が人の生活空間を分断し、快適性を低下させているのではないかという指摘もありました。交通機関優先の街づくりが都市の生産性や価値を損なっているというのです。
「ストリート=道」を"人"中心に見直し、居心地良く、歩きたくなるような道にすれば、人々の往来と滞在時間が増えます。ストリートがにぎわうようになれば、街の価値が高まります。さらに、人々の往来が多くなることで、地域経済や住民同士のコミュニケーションの活性化にもつながり、イノベーションが生まれやすくなるという効果も期待できるのです。
こうした取り組みは、すでにニューヨークやライプツィヒ、ソウルといった世界の都市で始まっており、成果も明らかになっています。例えば、ニューヨークではタイムズスクエア周辺を広場として開放し、交通機関のための空間を歩行者空間へ転換したところ、歩行者が増え、市民の満足度も向上したといいます。それだけでなく、店舗の売り上げが50%近く増えた地域もありました。
魅力的な街の実現を政府が支援
日本でもウォーカブルなストリートを実現するため、各地でさまざまな試みがはじまっています。政府もそうした取り組みを推進、支援するため施策を講じています。2020年9月には、「都市再生特別措置法」が改正されました。これにより、所有している土地を公共空間として開放したり、街の魅力に貢献するような建物の改修を行った場合、税金が軽減されるようになります。
同法の改正は、安全で魅力的な街の実現に、国と民間が一体となって取り組みやすくするという目的のもとで行われました。さらに掘り下げると、少子高齢化や地域の過疎化が進む中で、シャッター通りといった問題が顕在化しており、今後、ますますの活力低下が懸念されています。そうした課題を解決するために、ウォーカブルなストリートによって街なかのにぎわいを生み出したいという狙いがあります。
2020年には、国土交通省が「まちなかウォーカブル推進プログラム」を開始し、「居心地が良く歩きたくなるまちなか」の形成に取り組む自治体を募集しています。同事業には、北は北海道から南は沖縄まで、309の自治体が参画しています(2021年5月31日時点)。
また、同省では、ストリートデザインのポイントとなる考え方を、さまざまな例とともに示した「ストリートデザインガイドライン」を発表、人を中心としたストリートへの転換を支援しています。こうした施策や資料の準備が進むことで、人を中心としたストリートへの転換がさらに加速していくものと考えられています。
「WE DO」で読み解くこれからの街づくり
"人"中心という街づくりの方向性によって、ストリート=街路はどのように変わるのでしょうか。それを読み解く上でキーワードとなるのが、「WE DO」です。
「WE DO」は、Walkable、Eyelevel、Diversity、Openの頭文字をとったもので、2019年6月に「都市の多様性とイノベーションの創出に関する懇談会」で、これからのまちづくりの方向性を示すフレーズとして打ち出されました。
Walkableは「居心地の良い、"人"中心の空間をつくると、街に出かけたくなる、歩きたくなる」という意味が込められています。Eyelevelは「歩行者目線」という意味です。歩行者の目に入る一階部分に、ガラス張りで中が見えるようになっている店舗があれば、歩いている人の目を楽しませることができます。Diversityは「多様な人々が交流するためには、空間の自由な使い方が必要」という意味があります。例えば、駅前に広場を設け、そこでイベントを開催すれば、人が集まり、留まるようになって交流の機会が生まれます。Openは「開かれた空間」という意味です。人がそこで時間を過ごしたくなるように、歩道や公園を開放して椅子を置いたり、カフェを設けて心地良い空間をつくり出します。
4つの視点からストリートをデザインすることにより、人を中心とした街の実現が可能になります。
国内では「WE DO」を体現するような事例も登場しています。ある地域では、車線を減らして歩行空間を拡大するとともに、沿道と一体となったデザインで道を整備したところ、歩行者数が倍増し、地価も上昇しました。
別の地域では、駅前の自家用車通行を制限してトランジットモールと呼ばれる歩車共存道路を整備しました。これは、公共交通機関と歩行者だけが優先的に通行できる道路です。駅前のトランジットモール化により人通りが活性化し、地価が約25%上昇したといわれています。
ウォーカブルにストリートをデザインすることで多くの成果が生まれています。"人"中心の街づくりは、人々の生活の満足度を高めるだけでなく、地域への経済的な効果も生み出します。そこで生活する地域住民として、またビジネスパーソンとして、これからのストリートのあり方に注目してみてはいかがでしょうか。
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