阪神・淡路大震災や東日本大震災をはじめとした震災を経験する中で、これまでの防災や減災対策の限界が明らかになっています。これからの災害対策をどのように考えればいいのでしょうか。過去を教訓に、今求められている災害対策について考えます。
阪神・淡路大震災や東日本大震災が残した教訓
1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生しました。
この地震は戦後初めて大都市の直下を震源地とし、住家の約52万棟、非住家の約5,800棟が損壊や焼損するなどの被害をもたらしました。さらに、高速道路や新幹線といったインフラへの被害もあり、社会や経済に大きなダメージを与えました。
その時の反省から、2000年には建築基準法が改正され、木造建築物の耐震基準が強化されます。全国で高速道路や橋脚の耐震補強も進み、災害に強いまちづくり、国づくりのあり方が見直されていきました。
そうした中、2011年3月11日に東日本大震災が発生します。
この震災では、観測史上初となるマグニチュード9.0を記録。全壊した住家の数は10万を超え、高速道路や鉄道も寸断されました。震源地から遠く離れた東京でも被害があり、身近なところでは、中高層建物のオフィスの約2割で什器類などの転倒・落下・移動が発生しました。
その中で、2000年の建築基準法改正以後に建てられた木造建築は、それ以前のものと比べて被害が少なかったといいます。阪神・淡路大震災後に対策が施された橋梁も、致命的な損傷はなかったと報告されています。
高層ビルの大敵「長周期地震動」を制する技術とは
東日本大震災では、津波や電力危機などの新たな課題が明らかになりました。その1つが「長周期地震動」です。
長周期地震動は、周期の長いゆっくりとした大きな揺れのことで、東日本大震災では高層ビルの什器を転倒・落下・移動させる原因となりました。
建物には固有の揺れやすい周期があり、その建物の周期と地震波の周期が一致すると共振して、建物が大きく揺れます。高層ビルは低層ビルと比べて周期が長く、長周期地震動と共振しやすいため、その揺れが大きくなってしまうのです。
長周期地震動による大きな揺れは、エレベーターの停止、建物の損傷につながるだけでなく、2003年の十勝沖地震では石油タンクを損壊し、火災につながったケースもあります。
2016年4月に起きた熊本地震では、非常に強い長周期地震動を観測。その揺れは、超高層ビルを倒壊させる危険性があったことが後の調査でわかりました。発生する確率が高いといわれている南海トラフ地震でも、長周期地震動による被害の発生が予想されています。
長周期地震動の揺れを抑制する手法には、地震の揺れが建物に伝わりにくくなるようにして安全性を確保する免震や、建物自体を強化して振動に対抗する耐震などがあります。現在では、高層ビルにこうした対策が求められるようになっています。
長周期地震動に備えるためには、ビル自体の地震対策に頼るだけではいけません。オフィス内においても、災害に備えたプランニングをする必要があります。
たとえばオフィスのゾーニングは、什器などが転倒・落下・移動する前提で行う必要があります。「大型の家具、コピー機などは、できるだけ人の多い場所から遠ざけて設置する」「避難場所を確保する」「オフィス内になるべく物を置かない安全なスペースを用意して、いざという時にはそこに避難する」といった対策が考えられます。
一見どれも当たり前のことのように思えますが、オフィス内の安全性についても改めて見直す必要がありそうです。
帰宅困難者など新たな課題が明日の安心安全を築く
企業にとっては、従業員の安全確保も重要な課題となっています。
東日本大震災では、首都圏に約515万人の帰宅困難者が発生しました。駅周辺などは人や車で大混乱し、2次災害の危険もありました。
その反省から、東京都をはじめ各自治体では企業備蓄の義務化が進みました。災害発生時にむやみに従業員を帰宅させないように、会社で待機できる準備をあらかじめ整えておき、帰宅困難者を出さないようにする取り組みです。
こうしたことをふまえて、それぞれの企業でも従業員の安全確保の方法を見直すべきでしょう。オフィス内に安全な場所を確保したり、非常食、寝具などの防災備蓄品を強化したりして、一時的に待機できるような環境を整えておくことが大切です。
従業員を安全に帰宅させるために、災害が発生した際の被害の想定範囲や避難場所、避難経路などを示したハザードマップを作成しておくこともおすすめします。土砂災害警戒区域が指定された市町村には作成が義務づけられていますが、企業でも自社周辺のマップを作成しておくとよいでしょう。
このように、わたしたちはいくつもの災害を経験する中で、新たな教訓を学び、それによってまた新たな防災の課題が生まれています。
阪神・淡路大震災からは23年、東日本大震災から7年が過ぎようとしています。あの時に得た教訓を忘れず、明日に活かしていくことが、安心安全を考える上では大切になるのです。
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