環境に対する意識の高まりを受け、有害な物質の製品使用が規制される傾向にあります。中でも顕著なのが照明の分野。照明に使用されている水銀を、ここ数年で大幅に制限しようという流れが世界的に進んでいるのです。その代替品として、環境にやさしいLED照明に期待が集まっています。しかし、オフィスや家庭ではLED照明への移行が進む一方、工場ではまだ水銀灯が使用されているといいます。今回は、そんなLED照明をめぐる現状について解説します。
製造も輸入も禁止される水銀
水銀は、その発光しやすい性質から、蛍光灯などの照明に使われてきました。しかし、照明の材料として使い勝手がいい一方で、水俣病の原因になるなど、重い健康被害を引き起こす可能性があります。
水銀は揮発性が高いため、何かのきっかけで環境中に排出されると空気中をただよい土壌や海に取り込まれます。もし水銀を多く取り込んだ魚を食べてしまうと、人体中に水銀が蓄積されることになります。多量の水銀が人体に蓄積されると神経系に有害な影響を与え、特に成長中の幼い子どもに深刻な障害を引き起こす危険性があるのです。そのため、水銀汚染を防ごうと、各国が取り組みだしています。
EUでは、電子・電気機器への特定有害物質の使用を制限する「RoHS指令」で、水銀の使用を規制。現在、電気・電子機器で水銀の含有量が0.1%を超えるものは、EU圏内で製造・販売できなくなっています。
決定的だったのが、2013年に熊本で開催された国連環境計画(UNEP)による外交会議です。そこで、水銀による汚染防止を目指した「水銀に関する水俣条約(水俣条約)」が採択。EUを含む92か国が条約に署名し、水銀の環境汚染は世界的な取り組みとなりました。
水俣条約に基づき、日本は、2017年に「水銀による環境の汚染の防止に関する法律」(水銀汚染防止法)を公布。この法律によって、2018年から水銀の含有量が5~10mgを超える一般照明用の蛍光灯などの製造・輸入が禁止されました。さらに、2020年12月31日からは、工場などで使われている高圧水銀ランプも規制の対象となります。
水銀を使用した照明を規制するためには、代替品が必要となります。その役割を担うのが21世紀の光源と呼ばれる「LED」です。
LEDが従来の照明より優れている点とは
LEDは、「光る半導体」を意味する「Light Emitting Diode」の頭文字をとったものです。近年、オフィスや家庭で従来の照明に代わり、LED照明を目にする機会が増えてきましたが、それには納得の理由があります。
例えば、蛍光灯は最も広く使われてきた照明ですが、前述の通り有害な水銀を使用しており、それが問題視されていました。LED照明の場合、そうした物質を含まないため、環境負荷が非常に少ないという特徴があります。
白熱電球も環境負荷の少ない照明ですが、こちらは電力使用量の多さがネックでした。その点、LED照明は消費電力の少なさも特徴です。白熱電球から交換することで、電力使用量を約8割*1削減できるという調査結果もあります。
*1出展:あかり未来計画(https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/akari/archives/160707_3.html)
さらに、白熱電球の寿命は1,000~2,000時間程度、蛍光灯は1万3,000時間程度なのに対して、LED電球の寿命は約4万時間。1日10時間使用したとしても、約11年は長持ちする計算になります。
これらのことから分かるように、LED照明は従来のものと比べ、圧倒的に環境に優しい照明です。そのため、環境に対する意識の高まりとともに、LED照明への移行が一気に進みました。
高性能化・高効率化に伴って拡大する用途
現在、LEDはさまざまな製品に使われています。インジケーター、自動車用テールランプ・ブレーキランプ、カラーディスプレイ、信号機などは比較的早くに製品化されました。その後は、白色LEDの開発を機にオフィスや一般家庭用の照明に使われています。
LED照明は、当初は一般家庭のような狭い場所での利用が中心でしたが、LEDの高性能化・高効率化に伴って、従来は主に蛍光灯が利用されてきた、より広い場所での照明にまで利用が拡大しています。
公共施設などのトイレや誘導灯、足元を照らすダウンライトなどにもLEDが使われ、すべての照明をLEDでまかなう施設も登場しています。電車内の照明や街路灯、ゴルフ練習場の投光器、工事用照明、医療用照明などにもLEDが使われるようになっています。
水銀灯から移行するタイミングがきた
さまざまな場所で使われるようになったLED照明ですが、多くの工場ではいまだに水銀灯がそのまま使われています。その理由は、工場のような特殊な環境に対応したLED照明がなかったためです。
これまで、LED照明は水銀灯に比べて明るさが足りず、熱に弱く、水蒸気にも弱いという欠点がありました。これでは生産性や安全確保などの観点から、作業環境にはふさわしくありません。そのためLED照明の導入が進まなかったのです。
オフィスや家庭で一般的に使われている蛍光灯の水銀量は、既にほとんどのものが水銀汚染防止法の基準以下で問題ありませんが、工場で使う水銀灯の多くはこの規制に該当します。つまり、ほとんどの工場では、今まで使っていた水銀灯がもう使えなくなるのです。
そこで代替品として注目を集めているのがLED照明です。最近では、それぞれの作業場所に最適な明るさを確保したり、熱や水蒸気に対する耐久性を向上させるなど、従来の弱点を克服し、工場の環境で問題なく使用できるLED照明も登場しています。LEDが進化したいま、水銀灯から切り替えるタイミングがきたといえるでしょう。
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